いま東京で踊る、ということ。──国境、人種、言葉を超えた最高のコミュニケーション! ダンスで発信する未来へのメッセージ

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 日本は踊る人であふれている。東京も例外ではなく、他の地域と比べるとプロのダンサーやコレオグラファーといった「踊って生活する」人の割合はぐんと増える。インターネットの普及や活用が進み、「東京にいなくてもできること」が増えるなかで、それでも東京がダンサーたちを惹きつけ続ける理由とは何か? 日本&東京発、世界で唯一のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」の立役者である神田勘太朗氏、そして「Dリーガー」たちから探る。

ダンスのスーパースターを作りたい。プロダンスリーグ「D.LEAGUE

 先日幕を下した東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。大会を彩り、世界から注目を集めた開閉会式を、少し違った目線で見ていた人がいる。それが神田勘太朗氏。2020年に日本で生まれたプロダンスリーグ「D.LEAGUE(ディー・リーグ)」を運営する株式会社Dリーグで代表取締役COOを務めるとともに、ダンサーでありながら日本におけるストリートダンスの盛り上げに一役も二役も買ってきた人物だ。

 「オリンピックもパラリンピックも開閉会式はダンスなしには成り立たないのは明らかで、こうした大きなイベントに当たり前にダンスが入ってくるいい時代になってきたなと思いました。ただ、その一方で、僕はもっと頑張らなければいけないとも感じています。確かにダンスの存在感はあったけれど、ダンサーの扱いはこれまでとそう変わりませんでした。もっと主役になっていいのに、やはりワンオブゼムに過ぎなかった。僕は、開閉会式で踊ったダンサー、この場面のここで踊っているのはこの人だと分かるようにするのが当たり前、そうすることが求められるような状況にしたいんです」

 神田氏がかねてから目指しているのは、バスケットボールのマイケル・ジョーダン、サッカーのリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウド、メジャーリーグの大谷翔平のようなダンスのスーパースターを作ること。これまでもさまざまな方法でトライをし続けてきたなかで、「D.LEAGUE」は最新の一手だ。

 「D.LEAGUE」では、選りすぐりのメンバーで構成されたプロチームが渾身のパフォーマンスで戦う。シーズンは約半年で、全12ラウンド。各チームは2週間に1作品のペースで新作を発表していく。作品はダンスの技術はもちろんエンターテインメントの視点からも細かく審査され、シーズンを通じての上位が準決勝に当たるチャンピオンシップに進み、チャンピオンが決定する。

 2020年1月に開幕したファーストシーズンは、ラウンドを重ねるほどに熱を帯びていった。「最初こそ見方が分からないというのもあったと思いますが、見ている方がだんだん自分自身の見方をつかんでいってくれたようにも感じています」と神田氏。「チャンピオンシップの行方も気になってもらいたいですが、各チームのショーの映像は単純にダンスの動画としても面白い。それがダンスならではというか。TikTokでダンス動画がスピード感を持って広がっていくのと同じです」

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(撮影 蔦野裕)

東京なら大好きなダンスをして生きられる

 阿波踊りによさこい......もともと日本は踊るのが好きな国だ。そこに、中学校でのダンス教育の義務化などもあってダンス人口は右肩上がりに増えている。現在、国内のダンス人口は600万人。近い将来には1000万人に達すると言われている。

 そのダンサーたちの多くが東京エリアを拠点に活動している。東京で展開されている「D.LEAGUE」で活躍するDリーガー(ダンサー)たちなら、なおさら。

 「当時はダンスで名を成したいならば東京に来る以外の選択はなかった」と神田氏は自身が上京したころを振り返る。スターになれるクラブイベント、大きなチャンスをつかむための人脈、もちろん技術を磨くという意味でも、優れたダンサーやたくさんのスタジオがあり、情報やチャンスを手にする機会も多くある東京が「手っ取り早かった」というが、「でも今はもう、まずイベントで名を上げるしかないという時代じゃない。ダンスに限らず東京でなければならないという価値観も変化してきましたしね」。

 ダンスを取り巻く状況が大きく変化した今、ダンサーたちは東京をどう見ているのだろうか。

 「東京にはいろいろなダンサーがいるので、自分の好きな先生であるとか、スタジオも選択肢が多いです。ストリートダンサーでも、テーマパークダンサーでも、輝けるチャンスが転がっていると思います」と、SEPTENI RAPTURESのリーダーのRIRIKAさん。Benefit one MONOLIZのリーダー、Kenさんも「人とつながれる幅が広く、スピードも速いと感じています。その分、チャンスも多く、ダンサーがダンスシーンだけでなく、さまざまな世界で活動させてもらえます」と話す。USEN-NEXT I'moonのメンバーも、「チャンスや挑戦できる場所が東京には多いので、地方よりもダンスを仕事にしやすいところがメリットだと思います。私たち自身、プロダンサーとしてダンスを仕事にして生活ができていることに幸せを感じています」と、東京で踊るメリットを語る。

 ダンサーとして磨かれると考えるのは、ファーストシーズンで圧倒的なパフォーマンスを見せつけた、SEGA SAMMY LUXKENTAROだ。「一旗あげようと人が集まっているのでモチベーションを高い位置で保て、自分が洗練されていきます」。リーグで唯一のブレイキンチーム、KOSÉ 8ROCKSのディレクターでダンサーのISSEIも「ダンサーも多く、情熱を持って活動している方の数も多いので、切磋琢磨できて刺激も多い」と話す。セカンドシーズンから参入するLIFULL ALT-RHYTHMのディレクターの野口量は「東京は面白い人と出会えてダンス以外でも刺激をもらえてそれらがまたダンスに返ってきたり、健全に野心を持った人が多いのでチャンスの山」だといい、dip BATTLESのリーダーKarimは「多くの出会いがあり、みるみるうちにダンスの輪が大きくなって、多くの刺激をもらえることです。僕は地方出身なので、より一層感じます」と同意する。

 アーティストやコリオグラファーとして活動しながらも、CyberAgent Legitのディレクターを務めるFISHBOYは、同じ夢を持つダンサーたちや「格好いい背中を見せてくれる先輩」の存在に加えて、「協力してくれる企業の方々が物理的に傍にいること」を加える。ISSEIもそれによって「結果を残したり、活動の幅を広げるチャンスが多い」と強調する。

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 ファーストシーズンは2位、セカンドシーズンのチャンピオンの大本命である、FULLCAST RAISERZTWIGGZ "JUN"は、「地方に比べると、情報量や選択肢の多さがあるのではないかと思います。さらにはさまざまな可能性や機会も多く、全国、そして世界に発信できるチャンスが多い環境にいるということがメリットだと思います」と話し、東京の発信力にも注目する。

 リーグ最初のチャンピオンに輝いたavex ROYALBRATSの新ディレクター、Yuta Nakamuraは「ダンスには地域や国籍は関係なく、どんな場所でどんな人がやっていても良いものが評価されると思っています。日本では、D.LEAGUEプロリーグがあり、自分たちはとにかく純粋に「作品を届ける」というところにフォーカスを当てたい」というが、それもまた東京の発信力に寄るところともいえそうだ。

 周りを巻き込んで好きなダンスを踊って暮せる、またはそれを実現するサポート役として、ダンサーたちは2021年ならではの東京で踊るメリットを見出している。

日本のダンサーのクリエイティビティやスキルを世界に発信したい

 日本のダンサーの高い技術や表現力はすでに世界を震撼させている。トップダンサーたちは日本を飛び出して、海外のコンテストや大会で成果を残し、リスペクトを集めている。それが、ニュースなどに逆輸入されて、日本に伝わる状況だ。dip BATTLESのディレクターのSHUHOはリーグを通じて「日本のダンサーのクリエイティビティやスキルを世界に発信したい」と話す。

 1114日に開幕するセカンドシーズンの「D.LEAGUE」は世界へ発信する準備を進めている。ダンスに使用する音楽の権利関係の理由でファーストシーズンには叶わなかった海外への配信もアプリを通じてスタートする。英語、中国語、韓国語の多言語で展開する予定だという。

 10月末には、新シーズンの詳細を発表する記者会見を控える。東京から放たれる新しいダンス、そしてダンスカルチャーから目が離せない。

神田勘太朗(かんだ・かんたろう)

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株式会社Dリーグ代表取締役COO。株式会社アノマリー代表取締役社長。大学在学中にアノマリー社を設立、2004年からストリートダンスソロバトルコンテストの『DANCE ALIVE HERO'S』を手掛けるなど、プロデューサー・演出家として活動する。また取締役を務める株式会社expgと、N高等学校と連携したexpg学院も立ち上げた。一般社団法人日本国際ダンス連盟(FIDA JAPAN)の会長としても活躍している。
(撮影 蔦野裕)
取材・文 酒井紫野(TOKYO HEADLINE)