クレジット決済でCO2排出量を「見える化」。データの力で社会課題を解決する

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 地球温暖化対策にともない、環境に配慮した消費や投資をうながす動きが加速中だ。こうしたなか、東京で新たに展開されるグリーンフィンテック事業が、社会的課題を解決する一助になる可能性も。データサイエンスが変える個人の消費行動の「グリーン化」とは。
iStock.com/metamorworks

買い物しながら環境配慮

 度重なる台風や大雨といった気候変動に関する目に見える影響から、環境への意識は日に日に高まっている。しかし、多くの人は自分の行動が与える環境負荷の度合いを簡単に把握する手段がなく、なかなか行動の変化にまではつながっていない。

 そんななか、金融分野にIT技術を組み合わせた「フィンテック」で、だれもが簡単にサステナブルな選択ができるようになる、新しいサービスへの期待が高まっている。レシートやクレジットカードの決済データから商品の生産過程で排出されたCO2排出量を測定し、視覚的に表示してくれるスマートフォン用のアプリだ。

 手がけるのは、東京のベンチャー企業、株式会社DATAFLUCT(データフラクト)。同社は環境先進国・スウェーデンのフィンテック企業、Doconomy(ドコノミー)と提携し、数年内での国内普及を目標として開発を進めている。

 「環境負荷の可視化構想は以前からありましたが、コロナ禍で本当に必要なものが見えてきた今こそが世間に受け入れられると読み、事業の立ち上げに動きました」と語るのは、代表の久米村隼人氏。商品の購入だけでなく、移動時の交通手段からもCO2排出量を計算でき、月ごとに決められた排出制限目標内でやりくりすることを促す仕組みを目指す。

決済データをもとに表示されるCO2排出状況のイメージ

 提携するドコノミーが本社を置くスウェーデンでは、持続可能な社会を目指すための教育が徹底され、「環境にとってよい消費者であることが豊かな経済社会を作り出す」という考え方が浸透している。CO2排出量を測定・管理できる機能を付けたクレジットカード「DO」も、すでにスウェーデン国内で提供がスタートしているという。

グリーンフィンテックで脱炭素社会へ

 データフラクトが取り組むのは、フィンテック(テクノロジー×金融)に環境保護にも貢献する要素を持たせる「グリーンフィンテック」だ。地球規模でサステナブルな社会を目指すために、さまざまな場面で「グリーン」の視点が不可欠になっている。

 東京都では現在、2017年に策定した「国際金融都市・東京」構想の改訂を進めている。金融を活性化することで東京のサステナブル・リカバリーを実現するという戦略で、その柱に据えられているのがグリーンファイナンスの発展だ。

 グリーンファイナンスとは、地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境分野の取り組みに特化した資金調達手段のこと。グリーンファイナンスを拡大するには、環境問題への取り組みを本格的に行う機運や枠組みが、社会全体として確立することが鍵になる。

 環境に配慮した商品はコストがかさみ、価格競争の面で不利になりがちだ。だが、データフラクトが手がけるサービスなどを通して、価格以外の基準を明確な数値で設けることは、商品のアピールにもなり、環境保全に取り組む企業の後押しにつながる。

 加えて、消費者の意識改革を促すという利点も大きい。モノを購入する際の判断基準として、生産過程でいかにCO2の排出が抑えられているか、環境に配慮した商品であるかを個人レベルで判断できることは、脱炭素社会の実現に向けた一助となるに違いない。

 久米村氏は言う。「多くの人は、自分の行動が『地球に住めなくなる未来』を引き寄せているかもしれないとは思いもしません。でも、数字を見れば現状を理解でき、未来の姿を予想しやすくなります。私たちのデータ分析力を活かし、データサイエンスの力で、人々の何気ない日常の行動から変えていきたいですね」

データフラクト代表取締役・久米村隼人氏

 東京都では、グリーンファイナンスに取り組む海外の資産運用業者及び、フィンテック企業が新たに都内で事業を開始する際に要する、新たな投資に対して重点的・集中的に支援する対象企業を募集している。

【対象】令和3年度に新たに都内で事業を開始する、グリーンファイナンスに取り組む海外の資産運用業者及びフィンテック企業

【応募期間】10月15日~11月19日

詳しくは→ https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/news/gfct/post-199.html

取材・文/和田全代