気候分野に初めて贈られたノーベル物理学賞 地球のために東京が目指すこと

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 2021年のノーベル物理学賞に選ばれた真鍋淑郎氏。大気中の二酸化炭素濃度が気候に与える影響について世界に先駆けて研究し、地球温暖化の予測モデルを開発したことが評価され、今回の受賞に至った。気候変動への関心が一段と高まるなか、東京はどんな対策を進めているのか。
iStock.com/Sean Pavone

温室効果ガスと地球温暖化の関係

 地球温暖化とは、二酸化炭素、メタン、フロン類などの温室効果ガスと呼ばれる気体が、大気中に大量に排出されることで生じる現象を指す。

 地球の地面は、大気を通過した太陽の光によって暖められている。暖まった地面からは熱が放射され、その熱の一部は大気中の温室効果ガスによって吸収される。温室効果ガスは蓄積した熱を再び放出する性質を持つため、吸収された熱は再び地面に戻り、気温上昇をもたらすというわけだ。

 ちなみに吸収されなかった熱は、宇宙空間に放出されるので、地球の気温は一定程度に保たれている。現在、地球の平均気温は14℃前後だが、もし温室効果ガスが存在しなければ、氷点下19℃程度まで下がるとの計算もある。

 温室効果ガスは、地球温暖化の原因として"悪者扱い"されがちだが、実は気温を大きく左右する重要な気体。人間が地球上で"生存できる気温"で過ごせるのは、温室効果ガスのおかげだといえる。

 では、何が問題なのか。それは、大気中における温室効果ガスの濃度が高まってしまうことだ。

 大気中に温室効果ガスが増えると吸収される熱も増える。その結果、地面に戻ってくる熱も増えるので、地表の気温が上がることになる。つまり地球温暖化の解決には、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスを取ること(カーボンニュートラル)が重要なのだ。

気候変動の解明に導いた真鍋氏の研究

 温室効果ガスのなかでも特に問題だとされているのが、二酸化炭素濃度の急激な上昇だ。産業革命前の1750年から2013年までの約260年間で40%以上も増加した。二酸化炭素は石油や石炭など化石燃料の燃焼によって排出されるため、人間の活動やライフスタイルの変容によって二酸化炭素の排出量を減らそうという動きが、近年活発になっている。

 120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げ、さまざまな取り組みを進めるなか、地球温暖化研究の第一人者ともいえる真鍋淑郎氏がノーベル物理学賞を受賞したことは大きな話題となった。

 ノーベル賞の選考委員会は、真鍋氏の受賞理由を「現代の気候の研究の基礎となった」としている。具体的にどのような研究なのか。とても簡単に言ってしまうと「二酸化炭素が増えれば地球の気温が上昇し、地球温暖化につながることを明らかにした研究」である。

 そもそも地球の気候変動は、非常に複雑な現象だ。なぜなら大気、海、陸地の間で熱や水蒸気がやりとりされるため、変化が次々と起きるからだ。

 そこで真鍋氏は、この複雑な関係を数式化して、世界で初めて大型コンピュータを使って地球の気候を再現する方法を開発。これにより、大気中の二酸化炭素が増えると地表の温度が上がることを数値で示すことが可能になった。この成果が土台になり、地球温暖化や気候変動の研究が進んだのだ。

ゼロエミッション実現に向けて進む東京

 これまでノーベル物理学賞の受賞対象は、天文学、宇宙物理学、原子、分子などの分野だった。気象や気候の研究分野が選ばれたのは初めてのこと。真鍋氏の受賞をきっかけに、気候変動や地球温暖化への関心が高まった人も少なくないだろう。

 誰もが当事者となる地球温暖化対策。東京都では2021年1月に「都内の温室効果ガス排出量を2030年までに50%削減(2000年比)すること」「再生可能エネルギーによる電力利用割合を50%程度まで引き上げること」を表明している。

 これを達成するためには、あらゆる分野の社会経済構造を脱炭素型に移行する、再構築・再設計が必要だ。そこで東京都では、これまでの省エネ、再生可能エネルギーの拡大施策に加え、食品ロスやプラスチック対策など、都市活動に起因するあらゆる分野での取り組みを進めている。

 2050年までに世界の二酸化炭素排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を目指す東京都は、温暖化を食い止める緩和策と、すでに起こり始めている温暖化の影響に備える適応策を、総合的かつ積極的に展開していく。

文/末吉陽子