コロナ感染者数が激減している東京では、いま何が起きているのか

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 パンデミックという未曾有の事態に見舞われながらも、世界最大のスポーツの祭典を無事に開催した東京。いま、感染が急速に収まっているのはなぜなのか?
多くの若者が順番を待つ、東京のワクチン接種センター Carl Court/Getty Images

オリパラを開催したのに感染者激減

 パンデミック下のオリパラ開催──。2021年夏の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会は、文字どおり歴史に残るものとなったが、その開催に当たっては賛否が大きく分かれていたのも事実だ。オリパラの開催が次なる感染の波を呼び起こすのではないかという懸念から、オリパラ後の東京の新型コロナウイルス感染者数の推移を、日本だけでなく世界が注視していた。

 だが、蓋を開けてみれば、そこには意外な展開が待ち受けていた。

 たしかに、オリンピックの熱戦が終わってパラリンピックの開幕を迎えるまでの期間、東京の新規感染者数は増加していた。デルタ株の広がりを受けて8月13日には過去最高の5,908人を記録。さらに、お盆の帰省で人の移動が増えることを考慮すれば、このまま爆発的な感染拡大へと突き進むのではないかとすら思われた。

 ところが、パラリンピックが閉幕した9月5日には、その数は1,854人まで一気に減少する。その後、あっと言う間に1,000人の大台を下回ったかと思えば、10月に入ると100人台にまで減り、11月には20人を切る日も見られるようになったのだ。

 もちろん、これは東京だけの傾向ではなく、日本全体として感染者数が急激に減少しており、人口100万人あたりの累計陽性者数や死亡者数は、世界で最も低い水準となっている。11月7日には、1年3か月ぶりに国内の新型コロナによる死者数がゼロになった。

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 海外メディアの中には、コロナに打ち勝った「成功例」として日本を取り上げる記事も登場。英ガーディアン紙は1013日付で「Back from the brink: how Japan became a surprise Covid success story(崖っぷちからの復活:日本が予想外にコロナのサクセスストーリーとなった理由)」と題する記事を掲載し、日本の状況を驚きをもって伝えた。

驚異的なスピードで進んだワクチン接種

 一体、東京そして日本に何が起こったのか?

 残念ながら、なぜ日本の感染者数が急速に減ったのかという点について、現時点ではっきりしたことは言えない。しかし、たとえそうであったとしても、世界では第5波・第6波が到来する国も多いなか、日本国内における感染が抑えられていることは紛れもない事実であり、そこには何かしら「日本ならでは」の理由があるのではないか、と推測できる。

 その筆頭として挙げられるのが、急速に進んだワクチン接種だ。

 世界に先駆けて新型コロナのワクチン接種を開始したのはイギリスで、それは202012月上旬のことだった。それから遅れること2か月。2021年2月17日に、日本でのワクチン接種は開始された。この時点では「出遅れ」との指摘も否めない状況だった。

 だがその後、自治体による住民への接種とあわせて、企業・大学が従業員や学生を対象として行う「職域接種」が進んだことで、日本のワクチン接種率はぐんぐん上昇。9月には先行していたアメリカを抜き、10月に入るとイギリスやフランス、ドイツをも上回る接種率となった。

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 202111月8日現在、日本で必要回数のワクチン接種が完了した人の割合は、全人口のうち74.5%を占めている(世界平均は40.2%)。日本一人口の多い東京都においても、すでに74.6%の接種率となっており、スタートの遅れを十二分に取り戻したと言える。

コロナとともに、東京はさらに前進する

 話をオリパラに戻せば、あれだけの多くの人々が日々行き交ったなかで感染が拡大しなかった要因のひとつとして、日本の衛生管理の意識が高かったことも挙げられるのかもしれない。コロナが発生する以前から、日本では手洗いが習慣化されており、エスカレーターの手すりなど身の回りの消毒も日常的に行われていた。

 マスクのことも忘れてはいけない。もともと風邪やインフルエンザの予防、あるいは花粉症対策として、日本ではマスク着用がごく一般的だった。冬になれば、空気の乾燥による喉あれを防ぐためなどの目的で、老若男女を問わず多くの人にとって外出時にはマスクを付けるのが習慣になっていたのだ。

 そこに襲ってきたコロナのパンデミック。飛沫による感染が主な感染経路のひとつと目されるなかで、マスク着用の習慣が根付いていない国・地域では、それに端を発する論争や訴訟までも巻き起こるほどの大問題となった。

 当然ながら、ワクチン接種率の向上が感染者数の減少につながっているとは明確に言えないのと同様に、「手洗いやマスク着用のおかげで日本のコロナ禍は最悪になっていない」と言えるわけではない。いまはただ、科学的に解明される日を待つばかりだ。

 それでも、日本で最も「密」な都市であり、世界の中でも有数の人口密度を誇る東京都は、20211024日をもって新型コロナ対策の「リバウンド防止措置期間」を終了し、基本的な感染防止対策を徹底させる段階に移行した。すべてを一気に緩和することはできないものの、東京は着実に、ウィズコロナ/アフターコロナの社会に向けて前進している。