障がいがあっても東京の街歩きは楽しめる

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 SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」社会の実現を目指す東京都では、障がいのある人でも自由に街を移動できるようにバリアフリー化への取り組みが進んでいる。そんな中、車いすユーザーの外出を助けるアプリの利用者が着実に拡大している。
街歩きを楽しむ「WheeLog!」開発者・織田友理子氏

車いすユーザーの外出情報を共有するアプリ「WheeLog!」

 あらゆる人々が円滑に移動できる環境をつくるため、テクノロジーを活用した商品やサービスが次々と誕生している。その中でも、3万人近いユーザーを獲得しているのが、スマートフォン用アプリ「WheeLog!(ウィーログ)」だ。

 WheeLog!」は、プローブ情報と呼ばれる車いすでの移動経路データを活用した世界初の地図アプリ。ユーザーが車いすで移動したルートが地図上に記録され、他のユーザーは共有された情報によって初めての街でも車いすで移動可能なルートがひと目でわかる、というわけだ。さらに、車いすで利用できるトイレやエレベーター、スロープなどの位置といったバリアフリー情報もユーザーからの投稿によって集積し、車いすユーザーの積極的な外出を助けている。

 WheeLog!」を立ち上げた一般社団法人WheeLogの織田友理子氏は、20代前半で「遠位型ミオパチー」という難病と診断されて、車いす生活を始めた。当初は車いすでの外出に抵抗を感じていたが、あるとき、知人に紹介されたバリアフリービーチを訪問。車いすでも健常者と同じように外出でき、同じように楽しめることに感動し、「日本はバリアフリー化が進んでいて、障がい者でも安心して外出できる国だと実感しました」と語る。この経験が、バリアフリー情報を集積・共有するサービスへとつながった。

 織田氏の想いを形にした「WheeLog!」の完成への道のりは長かった。全てにおいて素人だったため、アプリ開発を行ってくれる会社探しから始め、ローンチにたどり着いたのは、開発から約2年後のことだった。

 苦労して作った甲斐あって、今では約3万人のユーザーが利用している。車いすユーザーだけでなく、その家族や友人、リハビリ職の従事者など、ユーザーの約7割は健常者だ。車いすユーザーからは「外出が楽しくなった!」、健常者からは「自分の投稿が誰かの役に立っているのが嬉しい」といった声が届くという。

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「WheeLog!」は日本語の他にも計10言語に対応し、もちろん日本以外の国でも利用可能

東京のアクセシビリティが向上

 アプリのユーザーが増え、良質な情報が豊富になると、活用できる用途も広がった。現在、「WheeLog!」への情報提供希望や情報提携を求める自治体や企業からの問い合わせが相次いでいるという。

 2021年秋からは、全日本空輸(ANA)の「空港アクセスナビ」に情報提供をスタート。車いすユーザーの快適な空港利用をサポートしている。このほかにも、兵庫県神戸市や山形県酒田市などの自治体とも連携。

 また、織田氏によると、東京都のバリアフリー情報に関するオープンデータの充実度は他の自治体を圧倒しているという。たとえば、公共施設や鉄道駅の「だれでもトイレ」の情報は、写真付きで随時更新されている。データとテクノロジーを用いて全ての人が円滑に利用できるまちづくりを目指す上で、大きな強みとなるはずだ。

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東京都福祉保健局が公開している「だれでもトイレ」のバリアフリー情報

 こういった実績から、「WheeLog!」は観光地や公共交通機関との相性がいいと織田氏は考えている。さらに、「WheeLog!」のバリアフリー情報は高齢者にとっても有益だ。織田氏は語る。「高齢者が旅行をするといったらツアーなどの団体です。自治体や交通機関以外でも『WheeLog!』の活用が進めば、こういった層を含めたユニバーサルツーリズムの後押しになると思います」

 「WheeLog!」を通して、それまで知らなかったバリアフリー情報を知ることで、車いすユーザーの外出に対するハードルは着実に下がっていくだろう。そして、国内外から多くの人が観光やビジネスで訪れる東京へのアクセスのしやすさも向上するに違いない。

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「東京は海外の車いすユーザーも安心して来られる街です」と話す織田友理子氏
取材・文/安倍季実子