江戸小紋の最大の魅力は、人の手を介することでしか表すことのできないその味わいにある

出典元:「江戸東京きらりプロジェクト」
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 一見無地だが、近くで見ると繊細な柄が一杯に広がる江戸小紋。当時の時代背景から、職人たちは競うようにさまざまな柄を生みだし、人々の日常を豊かにしてきた。その一つひとつに意味合いや願いが込められ、やがて日本の「粋」と「美」を象徴するものとなった。

どんなに機械化が進んだ現代でも、超えることが難しい"技"

 職人たちの手しごとによってその良さが最大限に引き出される江戸小紋。そこになぜ魅力を感じるのか。「手しごとが生み出す独特の"揺らぎ"。ですが現代ではその"揺らぎ"さえもA Iが汲み取り、作り出すことが出来るようになったとも言われています。では果たしてそのときに、自分が欲しいと思うのか、答えはNOでした。やはり人の手しごとに勝るものはないと思い至ったのです。もしかしたらそこに、今後のすべての目的があるようにも思います。"この職人が染めたものを着たい!"と愛着を持っていただけるよう、人の手しごとでしか表せない味わい、魅力や凄みを伝えていきたいのです」。人の手しごとならではの魅力とは、背景や作り手との繋がりなど、言葉では表すことのできない感情が、温もりとなってプロダクトに表現されることではないか。人との繋がりを得たいという欲求は、どんなにテクノロジーが発達しても満たされるものではないと感じた。

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四代目・廣瀬雄一氏が繰り広げる、新たな江戸小紋の世界

 新たな小紋柄の制作や、海外との幅広い交流など、精力的に活動する廣瀬雄一氏。彼が目指す先にはいったい何があるのか。「長い歴史の中で、伝統工芸の世界を切り開いてきた方々というのは、百年に一度の逸材といわれるような人たちです。私もそのような存在でありたいとは思っています。今まで見てきたもの、体験したこと、好きなことなど、私の人生そのものが作品に乗り移り、私の色として表現されるようなプロダクト、それをお客様に楽しんでもらえれば嬉しいです」。そんな廣瀬氏の心境が垣間見られるオリジナルブランド「comment?(コモン:フランス語で"いかが?"を意味する)」の中から、江戸小紋で描かれたシルクストールを紹介する。

 鮫小紋とは江戸を代表する小紋柄のひとつで、まさに鮫の鱗のような細かいドットが扇状に広がる柄だ。当時、鮫はどの皮よりも厚く硬いと信じられていたことから、厄除けや魔除けの意味が込められていた。まるで過去と現代が融合されたような斬新なアイテム。廣瀬雄一氏が繰り広げる、江戸小紋の新たな世界観をぜひ体感して欲しい。

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廣瀬染工場 「シルクストール"S H A R K"blue 」

反物及び廣瀬雄一氏写真 Photos by Satomi Yamauchi
※本記事は「江戸東京きらりプロジェクト」(2021年3月17日)の提供記事です。