障がい者の文字をアートに! シブヤ発の新たなモノづくり

Read in English
 ダイバーシティの推進において、障がい者の活躍の場を創出することも課題の一つ。東京都渋谷区が2016年から行う取り組み「シブヤフォント」は、障がい者の活躍を世界にも発信できる好例だ。多様性のある社会づくりに向け、さらなる拡大が期待されている。
すでに300種以上のデータがある「シブヤフォント」。取り組みが評価され2019年度のグッドデザイン賞を受賞

障がい者の雇用創出に発展

 東京都渋谷区から発信されたパブリックデータ「シブヤフォント」が今、個人使用はもとより、多くの企業・団体で使われ、商品としても販売されている。

 シブヤフォントとは、東京都渋谷区で暮らし、働いている障がいのある人が描いた文字や絵を、デザインを学ぶ学生が文字フォントやデザインパターンとして加工・制作した、個人・商用利用が可能な公開データだ。

 2016年にスタートした「渋谷みやげ開発プロジェクト」から5年、シブヤフォントは渋谷区役所新庁舎内の案内表示やインテリア、職員の名刺デザインに採用。また、渋谷スクランブルスクエアのスーベニアショップでは、シブヤフォントを取り入れた商品がおみやげとして販売されている。

shibufon_pho_02.jpg
2019年に移転・開庁した渋谷区役所新庁舎。案内表示やインテリアにシブヤフォントが活用されている

 企業とのコラボレーションも活発だ。Googleが提供するWebフォントサービス「Google Fonts」や、ファッションブランド・TAKEO KIKUCHIのジャケット裏地に採用されるなど、シブヤフォントは幅広い分野で商用利用されている。

 そこで得られたライセンスフィーは、シブヤフォントに参加する障がい者支援事業所に還元。今まで障がい者支援事業所で行われていた絵画制作が、障がい者の活躍・雇用を生み出した点でも注目を集めているというわけだ。

shibufon_pho_03.jpg
渋谷スクランブルスクエアのスーベニアショップで販売中のグッズ(左)、TAKEO KIKUCHI「UNBUILT」の裏地(右)などにシブヤフォントが活用されている

「障がい者」ではなく「アーティスト」として接する

シブヤフォントは、もともと障がい者アートのマネジメントをしていた、桑沢デザイン研究所の非常勤教員・磯村歩氏に渋谷区が「みやげ開発」の話を持ち込んだことが始まりだ。渋谷区からの条件は、「学生がこのプロジェクトに携わること」だった。

 参加した学生は施設を訪問し、障がいのある人と接する中から「文字に味がある」、「自由に描かれた絵が魅力的」というヒントを得る。その文字や絵を、誰もが使えるパブリックデータ化する企画を提案し、渋谷区に採用された。

 採用後、制作・運用について特に注意したのはライセンスの整備。多くの障がい者がアーティストとして関わるため、著作権を施設に一本化する仕組みがつくられた。2021年には一般社団法人シブヤフォントを設立。施設や渋谷区の職員も理事となり、運営状況がより「見える化」されている。

 これまで、桑沢デザイン研究所の学生がメインで参加してきたが、「施設と学生の連携が大きなポイントだった」と磯村氏は振り返る。教員が施設に行くと障がい者や支援員がかしこまってしまうが、学生に対しては障がい者も緊張せず、フラットな関係が築けた。さらに、若い学生のパワーが入り、施設内もより活気づいたという。

 現在携わっている学生・水野弘子さんは、「施設に通ううちに、障がい者というより『アーティスト』として接するようになりました」と話している。

 「世界中の人にまずはフォント自体のかわいさを感じてもらい、その後に『障がいのある人が描いたんだ』『SHIBUYA発なんだ』と知ってもらえたらうれしいです」

 誰もが活躍できる社会の実現に向けて、アートの分野からアプローチする革新的な取り組みに今後も目が離せない。

shibufon_pho_04.jpg
一般社団法人シブヤフォント共同代表、桑沢デザイン研究所非常勤教員 磯村歩氏(写真左)と桑沢デザイン研究所ビジュアルデザイン専攻3年 水野弘子さん(右)
取材・文/小野寺ふく実