観光・ホテルもバリアフリー推進 東京の変化を車いす生活者が語る

東京都渋谷区の明治神宮。拝殿脇には手すりつきスロープが設置されている
日本はバリアフリー先進国だと世界中に知ってほしい
幼少期の脳性麻痺により四肢に障がいが残り、電動車いすを日常的に使っているカナダ出身のグリズデイル・バリージョシュア氏。高校時代に日本に興味を持ち、2000年に初来日した。
それまで日本は、バリアフリーが遅れている印象だったが、実際には想像以上にバリアフリー化が進んでいると知り、驚いた。その後も、来日を繰り返す度にバリアフリーが着実に進んでいることに感動し、2016年に帰化。今は江戸川区に住みながら、社会福祉法人に勤務している。
通常の広報業務のかたわら、訪日外国人障がい者向けの観光情報サイト「アクセシブルジャパン」やYouTubeなどでバリアフリー情報を発信。活動には、「世界中の人が安心して来日できるように。日本はバリアフリー先進国だと知ってほしい」という想いが込められている。

観光地やホテル業界でもバリアフリー化が進んだ
グリズデイル氏は、「2013年、東京がオリンピック・パラリンピック開催都市に決まってから、ものすごいスピードでバリアフリーが進んだ」と振り返る。それまで、バリアフリーは当事者や自治体といった限られた人間の間での課題という印象だったが、少しずつ社会にも浸透していった。
駅の段差解消をはじめとする交通機関のバリアフリー化はもちろん、「『だれでもトイレ』の充実度や便利さは世界に誇れる」とグリズデイル氏は語る。他国にも車いす用のトイレはあるが、利用するには登録が必要だったり、スタッフに声をかけるなどの手間が発生したりすることが多いからだ。
しかし、治安のいい日本では使用ルールが守られているため、トイレ自体がきれいな上に、オストメイトの人でも気軽に使える。さらに、登録などの手間がなく、バリアフリー対応の駅を事前に調べる必要がないことも大きな利点だ。
また、「東京2020大会を機に観光地やホテル業界でもバリアフリー化が進み、車いすユーザーの外出促進につながりました」と笑顔を見せる。
これまで、日本はバリアフリー対応の宿泊施設数が少ないことが度々指摘されてきた。そのため2019年に法律が見直され、床面積2,000平方メートル以上かつ客室総数50室以上のホテルや旅館などの宿泊施設を新増築する場合、車いす利用者用の客室の割合を1%以上にするよう義務付けられた。*
客室改修が進み、大会開催時に必要と見込まれていたバリアフリー客室数を確保。今後、コロナ禍が終息してインバウンドが復活した際に活用できると期待されている。
東京2020大会が広めた心のバリアフリー
だが、鉄道や施設のバリアフリーがどれほど進んでも、人々の心の障壁を下げなくては十分とはいえない。今大会のレガシーで最も大きいのは、ソフト面でもダイバーシティや共生社会に向けて歩き出したことだろうとグリズデイル氏は語る。
なかでも印象に残ったのが、メディアにおけるパラリンピックの取り上げ方の変化。これまで、パラリンピックはオリンピックの陰に隠れていたが、今大会ではパラリンピックにもスポットライトが当たり、試合中継や試合結果の報道もされ、多くの人の目に映った。パラアスリートのインタビューや密着取材もメディアで取り上げられた。
さらに感動を引き上げたのが、グリズデイル氏自身が江戸川区の聖火ランナーに選出されたことだ。
「江戸川区から直々に指名されたことで、障がいの有無や出身国の違いなどは関係なく、同じ江戸川区民だと認められたことを実感しました。生涯忘れられない出来事です」
「心のバリアフリー」推進に向け、大きな契機となった東京2020大会。だが、多様性を認め合う社会を構築するためには、今後もあらゆる施策に継続して取り組む必要がある。大会の真価が問われるのはこれからだ。

グリズデイル・バリージョシュア
* 東京都では、「高齢者・障害者等が利用しやすい建築物の整備に関する条例」を改正し、日本で初めて車いす利用者用客室以外の「一般客室」にもバリアフリー対応の基準を設けた。