SDGs経営は中小企業にこそメリットが大 はじめの一歩を全力支援

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 SDGs経営は大企業だけの課題ではない。東京都中小企業振興公社では、基礎知識が身につくセミナーから、企業に寄り添って計画づくりを支援するハンズオンまで幅広いプログラムを展開中。中小企業こそ、SDGsに真剣に取り組むべき理由がある。
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中小企業のSDGs経営導入を本気モードで支援

 東京都における中小企業の総合的・中核的な支援機関である公益財団法人東京都中小企業振興公社が、2020年から「持続可能な開発目標(SDGs)」に取り組む中小企業の支援に力を入れている。基礎的な知識が身につけられるセミナーから、本格的に経営に取り入れるためのハンズオンまで、本気モードのさまざまなプログラムを展開中だ。

 持続可能な開発目標(SDGs)とは、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」世界の実現を目指して定められた国際目標。SDGs17のゴール、169のターゲットの達成に向けた努力は、政府やNPO、大企業を中心に推進されていると考えがちだが、その多くは中小企業にとっても身近なテーマであり、経営の見直しやビジネスの拡大のチャンスにもなりうる。

 2019年に、都内の中小企業の10年後の目指すべき姿を描いた『東京都中小企業振興ビジョン』を都が策定した際に、SDGsESG経営は中小企業にとっても重要な課題だという方向性が示されました」と公益財団法人東京都中小企業振興公社 経営戦略課長の中野道広氏は語る。そこでまず認知度を上げるためのセミナーを企画。このセミナーには予想以上の反響があり、2021年9月の開催分では、定員80名に対して約170名の応募があった。セミナーの最後に設けられた30分の質疑応答セッションまでほとんど誰も退出せず、熱心に聴講したという。

"知る"、"学ぶ"、"相談する"、"実践する"の4ステップでサポート

 SDGsについて知りたいというニーズに応える「入り口事業」としてのセミナーのほか、具体的に何をすればいいかわからずに立ち止まる企業が多いことを想定し、セミナーの次のステップとして、ワークショップも用意した。参加者がワークシート形式で課題に取り組んで、それを発表し、講師や参加者からフィードバックを受けることによって、SDGs経営導入に必要なことや考え方を実感してもらう試みだ。「SDGsを理解したといっても、実践までにはギャップがあります。そのギャップを解消する試みです」と経営戦略課で「中小企業SDGs経営推進事業」を担当する須賀友子氏は語る。

 セミナーやワークショップによる"知る" "学ぶ"のその先のステップとして、もっと間口を広げるための"相談"の場を設けた。専門のアドバイザーが企業を訪問して、SDGs経営に関する疑問点などに答える巡回訪問に加え、来社での対面のほか、ウェブや電話で気軽に相談できる仕組みだ。

 さらに一歩進めて、"実践"のための支援策としてハンズオンも立ち上げた。これはSDGs経営アドバイザーが、6カ月間、全10回程度にわたって、具体的なSDGs経営計画の策定を企業に寄り添いながら支援するという画期的な試みだ。「"知る"、"学ぶ"、"相談する"、"実践する"のサイクルを回して、中小企業がSDGs経営を取り入れやすくするのが、私たちの役目です」と須賀氏は言う。実践のために必要なサポートは何でも提供するという本気度がうかがえる。

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経営者のリーダーシップと全社一丸の体制の両輪

 「SDGs経営を成功させるためには、経営者がビジョンを持ってリーダーシップを発揮することと、全社員が一丸となって取り組むことの両輪が必要です。タオルメーカーのホットマンは、まさに中小企業における成功例の一つです」と須賀氏。

 東京・青梅市で50年以上にわたり純日本製タオルの製造を続けるホットマン株式会社は、今回の公社の取り組みの以前からSDGs経営に取り組んでいるという。当初は、利益につながるのか、費用がかさむのではないかと現場からは不安や反発の声もあったようだが、経営者が上から押し付けるのではなく、現場で少人数の対話や勉強会を地道に繰り返して理解を深め、全社に浸透させた。

 支援先の企業には逆のパターンも多いという。現場で顧客と接する営業担当者などは、早急にSDGsに取り組まないと世の中から取り残されるという危機感をひしひしと感じていても、経営者がSDGs経営の重要性をそれほど感じていないため、もどかしい思いをしているケースも見られると指摘する。

SDGs経営は企業価値を高める取り組み

 「SDGsとは何かという話になった時に、消費者の目線で語られたり、行政による街づくりの一環という位置づけで語られたりしがちであることが影響しています」と須賀氏は分析する。「協力してください、取り組んでくださいというメッセージが強調されて、やらなくてはならない面倒なことだと捉えられがちなのです」。SDGsはふだんの経営とは別にあるのではなく、経営改善という中小企業にとっての本質的なメリットにつながる。地球のため、未来のための社会貢献活動というだけではなく、自分たちの企業価値を高めていく、持続可能な企業になるための取り組みだと主張する。

 「そのためにも経営計画の中にしっかりとSDGsを組み込んで、本質的な経営改善をしていただくということを非常に重視しています」と須賀氏は言う。大企業の場合はトップダウンでSDGsを進めることが多く、現場の理解が得られないといった声も聞かれるが、「全社一丸の体制が作りやすい中小企業にこそ大きなメリットがあります」。

 セミナーからハンズオンまで、費用はすべて無料。気軽に相談できて、最後まで面倒を見てくれる画期的な公的プログラムは、これからSDGsのことを勉強しようとしている企業にも、本格的にSDGs経営導入を考えている企業にも、きっと強い味方になるはずだ。

取材・文/熊野由佳