東京でクラフトビールを製造!? 個性的な味・パッケージにも注目
クラフトビールと地ビールの違いとは
近年、コンビニやスーパーに数多くのクラフトビールが並び、かつてないほどのクラフトビールブームが来ている。味はもちろん、オリジナリティあふれるパッケージデザインやネーミングなども人気の理由の一つだ。
クラフトビールと聞くと、地域に根差した「地ビール」との違いは何かと考える人もいるかもしれない。しかし、その2つを分ける明確なラインはない。
1994年、酒税法の改正により、ビールの製造免許を取得するのに必要な年間最低製造量が引き下げられた。これにより、数多くのブルワリーが開業し、全国各地で地ビールが誕生。地ビールブームが巻き起こった。
地ビールが世界的に評価されはじめると、地方のお土産としての要素が強かった商品から、味や製法にこだわる商品へと変化。呼び名も「地ビール」から「クラフィティビール」「クラフトビール」へと変わっていった。
そして近年のブームでは、品質の高さや職人の技術力が重視されるようになり、「クラフトビール」という呼び名が定着したのだ。
クラフトビールの醍醐味は「多様性」。工房が違えば、製造方法、原材料、味などにも違いが見える。東京発のクラフトビールには、どんな個性や魅力があるのかをご紹介しよう。
石川酒造(東京都福生市)
「東京」を冠する「TOKYO BLUES」を製造する石川酒造は、東京都福生市に本社・工場を構える老舗酒造。「日本麦酒」の名で、1887年に一度ビール製造を⼿がけるも断念。1994年の酒税法改正を受け、3年間の準備期間を経て1998年に「多摩の恵」という銘柄で醸造を復活させた。
「TOKYO BLUES」は、石川酒造が長年培った技術を注ぎ込んで、2015年に完成させたオリジナルレシピのビール。ブルースのように人々の感情に寄り添い、癒せるビールであるようにとの願いを込めて名付けられた。
蔵元はミュージシャンとしても活動しており、エンターテインメント性に長けているのもこの酒造の特徴の一つ。石川酒造は「酒飲みのテーマパーク」ともいわれ、敷地内には酒蔵のほか、レストランや宿泊施設、史料館などがあり、料理、雰囲気、サービス、音楽といった、ビールを楽しむ要素をたくさんそろえている。「TOKYO BLUES」は、さまざまなシーンで一役買ってくれる名脇役。そんな存在なのだ。
KUNITACHI BREWERY(国立市)
2021年で創業110年を迎えた「KUNITACHI BREWERY」は、鋳物師をルーツに持つ「酒屋せきや」が始めた醸造所。こちらのブルワリーでは、国立市の浄水を濾過して塩素を除去した水を使用している。
ビール醸造における水質は、大きくヨーロッパ的な考え方とアメリカ的な考え方に分けられる。前者はそのままの水質を基調としたビールを造り、後者は造りたいビールのスタイルによって水質を調整するというものだ。
KUNITACHI BREWERYでは、アメリカ的な考え方を採用。検査機関でミネラル分析した水質に対して、ある時はドイツのケルンの水質に、ある時はベルギーのアントワープの水質にといったように、造りたいビールのスタイルによって水質を調整している。もちろん、調整を行わないことも。
さらに、ビールの味わいや品質だけでなく、パッケージにもこだわっている。それぞれのビールに個性的なイメージイラストとコピーをつけることで、ビールの背景やストーリーを視覚的にも楽しめるようにしているのだ。イラストには、国立の街と一緒に楽しめる仕掛けが隠されているものもある。大人の遊び心をくすぐる仕様になっているのがにくい。
Distant Shores Brewing(東村山)
最後は、クラフトビール初心者でも親しみやすく、わかりやすく、キャッチーなネーミングとパッケージデザインに惹かれる「Distant Shores Brewing」。クラフトビールが縁で知り合ったイギリス人と日本人が、2017年の秋に立ち上げた共同ブルワリーだ。
イギリスで培った、クラフトビール造りの知識と技術力のもとで、日本人の味覚、日本の風土、日本人の食に合った、高品質なビールを製造している。
麦芽、ホップなどの素材の品質にこだわるとともに、新しい製法に果敢に挑戦しながら、さまざまなビール造りに取り組んでいるのも特徴。人気のHazyIPAやペールエール、スタウトビール、旬の果実を使用したフルーツエールなど豊富な種類がそろい、ビール選びも楽しい時間となるというわけだ。
東京発のクラフトビールは、どれも個性的で面白い。そして、東京の貴重な水源や豊かな文化を守りつつも、現代に合った新しさも兼ね備えている。今後、クラフトビールがどんな風に多様化・進化していくのかが楽しみだ。