大橋未歩アナ×車いす陸上・木山由加 「だから、パラスポーツは楽しい」

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 東京2020パラリンピック競技大会が閉幕し、今後はいかに競技の人気やパラスポーツの裾野を広げられるかが問われている。そこで、脳梗塞を経験したことでパラリンピックへの関心を高めた大橋未歩アナウンサーと、プライベートでも親交がある車いす陸上の木山由加選手が対談。アナウンサーとアスリートがそれぞれの視点で語る、パラスポーツの魅力と今後の展望とは?
2014年、大橋未歩氏(左)が木山由加選手(右)を取材したことを機に親交を深めた2人

パラスポーツの興奮が伝わった! それこそが東京大会の大きな成果

大橋未歩(以下、大橋) 自国開催された東京2020パラリンピック競技大会は、社会に大きな影響を与えたと思います。大会終了後、何か変化を感じることはありましたか?

木山由加(以下、木山) 陸上競技女子100メートル(車いすT52)が除外されて選手として出場できませんでしたが、メディアがパラリンピックを取り上げていたので、多くの人がパラスポーツを認知してくれたと思います。

大橋 私の周りでも「初めてパラリンピックをテレビで観たよ」という声が多かったです。それまで「パラスポーツをどう訴求していくか」が、報道側としての私の課題でもありました。時差がなく、地上波で放映されて、たまたまテレビをつけた人たちにもパラスポーツが届く環境だった、ということは大きな効果になりました。

木山 車いすバスケットボールなどを観て、すごく盛り上がっちゃいました。知っている選手たちとは連絡を取り合って、応援もしましたね。

大橋 選手の皆さん、格好良かったですよね。「水泳選手が活躍する姿を目にして衝撃を受け、心がより突き動かされた」という声も聞こえてきました。

「心のバリアフリー」の広がり

木山 明らかに大会以降、自分がふだん買い物をしている時でも、「手伝うことはありませんか?」と声をかけてくれる人が多くなりました。

大橋 木山さんは以前から「困っている時、気軽に声をかけてもらえるのが嬉しい」と言っていましたね。

木山 海外では電車の乗り降りの時など、普通に声をかけてくれることが多いんですよね。日本では、声をかけたそうな雰囲気はあるんだけど、あと一歩が踏み出せない、という印象を受けます。

大橋 海外と日本では、何が違っていたのでしょうか?

木山 段差やスロープがきつく、バリアフリーが整備されていない場所は海外にもたくさんあります。でも、人々に「心のバリアフリー」があるというか、誰もが手伝ってくれる優しさがありますね。

大橋 初めて取材でお会いした時、木山さんが「優しい差別がある」とおっしゃっていたのが印象的でした。日本人は優しくないわけではないけれど、障がい者と接することに慣れていなかったり、気後れしてしまったりして声をかけにくいと。

木山 最近、声をかけてもらえることが本当に多くなったので、東京2020大会があったからだと確信しているんです。

大橋 多くの人に「心のバリアフリー」が広がる、良い機会になったといえますね。

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定期的に食事をするという2人。大橋氏は「木山選手と出会えたおかげで障がいのある人に対する考えが変わった」と語る

パラスポーツのさらなる発展に向けて

大橋 今大会で水泳が行われた「東京アクアティクスセンター」が完成した時、取材に行きました。バリアフリーの設備面でいうと、車いす用のトイレが建物内で分散して設置されていて、どこからでもアクセスしやすいように設計されていました。

木山 そういう当事者にしかわからない部分を、バリアフリー建築に取り込んでくれるのは嬉しいですね。

大橋 はい。東京都がユニバーサルデザインの専門家の意見をずいぶん吸い上げていた、と聞きました。

木山 バリアフリー設備の充実とともに、障がいのある人ももっと外に出て活動すれば、人との接点も増えて、周りの見方も変わってくるのかなと思います。そのためにも、自分が大会に出てアピールすることが大事だと感じているんです。

大橋 しかし、木山さんが活躍している種目「車いすT52」は、世界的に参加選手が少ないんですよね。

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競技中の木山選手。「T52」は肩関節、肘関節、手関節の機能は正常もしくはほぼ正常だが、指の曲げ伸ばしに制限がある選手が所属するクラス

木山 どうしても障がいの程度が重いほど、参加者や選手は少なくなります。でも、パラスポーツが盛り上がれば裾野は広がっていくはずです。

大橋 やっぱりスポーツはとても素晴らしいエンターテインメントですから、みんなが生中継で熱狂するっていうことがパラスポーツや「心のバリアフリー」の力になるのではないでしょうか。

木山 みんなが当たり前に観戦できるぐらい認知度を上げたい。自分の活動によって人々が興味を持ってくれて、それがパラスポーツの発展に繋がったら嬉しいですね。

都は大会競技施設の設計段階において「アクセシビリティ・ワークショップ」を設置し、障がい者や学識経験者、障がい者スポーツ団体から直接意見を聴取した。

大橋未歩(おおはし・みほ)

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フリーアナウンサー、防災士。パラ卓球アンバサダー、パラ応援大使(東京都「パラスポーツの振興とバリアフリー推進に向けた懇談会」メンバー)。2002年テレビ東京入社、多くのレギュラー番組で活躍。2018年よりフリーで活動開始。脳梗塞を発症した経験から、パラスポーツの魅力を伝える活動にも力を入れている。デイリースポーツでコラム『大橋未歩のたまたまオリパラ』を連載。TOKYO MX『5時に夢中!』にアシスタントMCとして出演中。

木山由加(きやま・ゆか)

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陸上競技選手。手足の運動機能などが低下していく進行性の難病「脊髄(せきずい)小脳変性症」を小学1年で発症、18歳で車いす生活となる。社会人アスリートとして活躍し、ロンドン2012大会、リオ2016大会と2度のパラリンピック出場を果たす。2019年 Dubai 2019 Para Athletics Championships T52 100m銅メダル。2021年 大分国際車いすマラソン大会 T52 ハーフ優勝(13連覇)。ロンドン2012パラリンピック競技大会 100m 7位、200m 6位入賞。リオ2016パラリンピック競技大会 100m 4位、400m 4位。
取材・構成/小野寺ふく実 写真提供/プントリネア、エランシア