衰退する林業を救え! 「東京の木」を継承する挑戦者たち
「若者が安心して働ける林業」を目指して独立
世界有数の森林大国であるにもかかわらず、多くを安価な輸入木材に頼っている日本。ここから脱却し、持続可能な森林経営を実現するため、国産材の利用を促進する取り組みが各地で進められている。
東京チェンソーズは、東京都・檜原村を拠点に活動する林業会社。「東京の木」の需要を喚起するとともに、地域に眠る森林資源の可能性を最大限に引き出し、山村地域の発展に貢献することを目指している。
そんな東京チェンソーズが2006年に創業したきっかけは、「若い人が長く続けられる職業にするためでした」と同社の木田正人氏は振り返る。
東京都では、多摩地域の山林所有者との間で協定を結び、都の費用負担により間伐を行っている。都から各市町村に山林整備業務を委託し、さらにそこから森林組合を通して下請に外注されるのが基本的な仕事の流れだ。
木田氏は以前、森林組合で働いていたが、当時は林業従事者への保障が不十分で、やりがいや楽しさがある反面、給料形態への不安がつきまとっていたという。「仕事は好きだけど、待遇面が不安」という理由で、若手のなかには結婚を機に転職していく者もいた。
そんな現状を改善できないかと、森林組合から独立した木田氏たちによって東京チェンソーズは誕生。当初は森林組合の下請業務をしていたが、徐々に山林所有者の希望や想いを直接聞きながら仕事をしたいという考えが芽生え、さらに3~4年をかけて、下請から元請けへ転換した。
廃材部分を活用したサステナブルな製品も
「林業を未来へと続く職業にするためには、儲かる仕事にしなければいけません。だから、木に付加価値をつけて販売することが大切です」と木田氏は言う。そこで東京チェンソーズは、木の可能性を少しずつ広げることに着手。これまでは利用されることなく、伐採後も山に残されたままだった枝・葉なども含め、木を1本まるごと活用する取り組みを始めた。
意外と知られていないのが、建築材をつくる際に、最終的には1本の丸太の約75%が廃材になっているということ。また、幹の太さが細すぎたり、幹が曲がっていたりする木は、そもそも建築材にはならない。
そんな利用されない部分の木を使い、内装会社やデザイナーと組んで、商業施設のイベント装飾やディスプレイに使用。また、おもちゃや日用品に加工して、オンラインショップで販売もしている。資源を守りながら次世代へつなぐ、サステナブルな社会づくりにも貢献しているのだ。
次の世代へ「東京の木」をつなげるために
経営面以外にも、林業には慢性的な課題がある。次世代の森林の担い手である人材の不足だ。そこで、国は2003年度から若年層の新規就業者を確保・育成するための雇用制度「緑の雇用」を推奨している。
「緑の雇用」とは、林業作業士を育成するための講習や研修を行う林業経営体に助成金を支給するというもの。未経験者でも一人前の現場技能者として安全で効率的な作業ができるよう3年間の研修を行い、その先のキャリアアップも支援している。木田氏によると、実際に東京都で林業に携わる若者は増加傾向にあるという。
「ただし、これはあくまで入り口に過ぎません。林業が魅力的で働きやすい職業になっているかどうかの真価が問われるのは、3年先。一人前になった後も若い世代が変わらずに働き続けてくれるためには、やはり今、現場にいる自分たちが楽しく仕事をして、『東京の木』をアピールしていくしかないと思っています」
東京が森林に恵まれた都市であることを知らない人は、まだ多い。東京チェンソーズが森林を育てていくことで、東京全体にも好影響を与えるはずだと木田氏は言う。
「東京は世界的な経済都市であると同時に、緑と共存する都市であることを世界にアピールできる。それは東京の付加価値の向上に一役買うはずです」
国産木材活用に関する令和4年度の東京都予算案では、前年度比で36億円増となる約88億円を計上。木材の大消費地である東京から国産木材の利用拡大を図り、洪水や土砂災害の防止、林業振興など幅広い分野に貢献することを目的としている。