思わず目を奪われる宝石のように美しいスイーツ
求められる声に導かれて染色からスイーツの世界へ
「パティスリィ アサコ イワヤナギ」のオーナーを務めるシェフパティシエール岩柳麻子氏は、染色家を目指していたという異色の経歴を持つ。紆余曲折がありながらも、スイーツの道を選んだ背景には、学生時代の挫折経験があるという。
食に関わる仕事をしていた祖母と母の影響で、岩柳氏にとって料理は身近な存在だった。一方で、自身はファッションに興味を持ち、美大を目指したが、希望は叶わず、デザイン専門学校へ。
「学生時代は飲食店でアルバイトをしていて、染色よりも飲食の方が自分に合っているのではないかと思うことが度々ありました」と当時を振り返る。
就職活動では、希望していたアパレル系の企業には採用されず、卒業後も生活のために飲食店のアルバイトで食いつなぎながら、友人とテキスタイルの展示会を共同開催するなど精力的に活動していた。
展示会を開催する中で、岩柳氏が用意する来場者用のお茶菓子が「美味しい」と評判になっていった。やがて、岩柳氏のもとにはお菓子の注文が入るようになり、ついにはアンティーク家具店の経営者から、「店内にカフェを併設したいので、経営を手伝ってほしい」とヘッドハンティングされた。
突然やってきた大役だったが、「依頼は拒まない」というポリシーに則って快諾。好きなフランスやイギリスのアンティークを店で多く扱っていたことも決め手になった。
学生時代に家族旅行で訪れて以来、フランスのとりこになったという岩柳氏。アンティーク家具店に転職するタイミングで、ビザの有効期間の3ヵ月ギリギリまで現地に滞在し、本場のスイーツと生活との繋がりを学んだ。現在も、年に一度渡仏している。
日本ならではの感覚、「季節感・色・旬の果物」を掛け合わせて
アンティーク家具店で、メニュー開発や管理を経験した後に、友人と3人で、武蔵小山に「pâtisserie de bon coeur(パティスリィ ドゥ・ボン・クーフゥ)」というパティスリーを開店。10年ほど共同経営した後に独立し、「パティスリィ アサコ イワヤナギ」を立ち上げた。
パフェは月替わりで、農園から取り寄せた旬の果物をふんだんに使う。毎月、新作を生み出す苦労は並みではない。しかし、「旬の果物を一番美味しく食べられる期間は短いため、自然と提供期間も短くなってしまいます」と、岩柳氏は説明する。
新商品を考える際に軸となるのは、「季節感・色・旬の果物」の3つ。四季のある日本では、季節によってイメージカラーがある。それに季節の行事と旬の果物と掛け合わせてパフェに反映させているのだ。
そうして考案された2月限定のパフェは、「パルフェビジュー ®サンヴァロンタン」。2022年のバレンタインパフェで、旬の柑橘とチョコレートを組み合わせた和風テイストになっている。
美味しいパフェを作り続ける理由
パフェ作りは、「日常の中に溶け込んでいる」と岩柳氏。音楽や映画はもちろん、生活の中で感じる風景の変化や旅行先での出会い、友人との会話など、全てがヒントになっているそう。
「好きや嫌いではなく、家族と同じような存在。習慣や生活の一部といった感じなので、常に新しいパフェを考案し続けられるんです」と語る。
美大への進学や就活で挫折した経験から、ファッションの世界では必要とされていないと悟り、必要とされる場所で働くことを決意した岩柳氏。そんな彼女にとって、自身の感性を信じて生み出したパフェを多くの人に食べてもらい、その美味しさを共有してもらえることが、何よりの原動力なのだという。
そんな岩柳氏には、ひとつの目標がある。それは、見た目も味もシンプルで美味しいスイーツの開発だ。「パティスリィ アサコ イワヤナギ」では、ケーキや焼き菓子などのスイーツも提供している。
シンプルで美味しいスイーツを生み出すのはとても難しい。ひとつひとつの素材、焼き加減など、少しでもマイナス要素があると、美味しさが欠けてしまうからだ。思い描いているスイーツを生み出すため、不安材料はひとつずつ解消していく。そこには、一切の妥協はない。
岩柳氏の作るパフェには、そんな力強くも丁寧な生き様が反映されている。そこに多くのファンが引き付けられ、新作の登場を今か今かと待つのだろう。