東京2020大会の選手村が生まれ変わる! 水素社会を実現する先進的なまちづくり

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 東京2020大会時に選手用の宿泊施設であった建物が立ち並ぶ晴海五丁目西地区では、新たなまちづくりが本格的に始まっている。大会のレガシーとなることを掲げたまちづくりは、世界に何を伝えるのだろうか。
完成後のイメージ。まちの中心となる通りにはカフェや物販店舗などが並ぶ。©晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業特定建築者

自然と利便性が融合した立地を活かす

 東京2020大会開催中、各国の選手の宿泊施設として一時使用された選手村。全部で21棟の住宅棟のほか、敷地内にはスポーツジムや総合診療所、ダイニングホール、選手村ビレッジプラザなどが設置され、来日中の選手の生活をサポートした。

 この選手村であった東京・晴海五丁目西地区は、銀座などの繁華街から近く、海に向かって開けた好立地。この特性を活かし、東京都は新たな都市計画を推進している。目指すのは、子育てファミリーや高齢者、外国人など多様な人々が交流し生活できる、大会のレガシーとなるまちづくりだ。

 再開発の目玉である住宅棟(板状)21棟は今後改修され、新築される2棟の住宅棟(タワー)と合わせて5632戸(分譲4145戸、賃貸1487戸)の大規模マンション群「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」として生まれ変わる。すでに1500戸余りが販売されており、いずれも高倍率の人気物件となった。

 様々なニーズに柔軟に対応できるよう、賃貸住宅はサービスアパートメント(家具付き住宅)、SOHO、シェアハウス、サービス付き高齢者向け住宅などの住戸を整備。また、緑豊かなオープンスペースや海を望む緑地として広場を整備するなど、憩いと安らぎを感じる成熟した都市空間を実現する。

 晴海フラッグへの入居開始は2024年3月予定。入居予定者の間では、住宅、商業施設、学校、交通インフラ、自然を備えた新しい都市生活への期待が高まっている。

大会時に選手用の宿泊施設として一時使用した住宅棟(板状)

東京2020大会中に使用された案内板が残されている

水素社会の実現に向けた先導的なモデル都市に

 晴海五丁目西地区のまちづくりが注目を集めるもうひとつの大きな理由は、水素エネルギーの導入だ。

 水素エネルギーは利用段階でCO2を一切排出しないため、脱炭素社会の切り札として期待されている。また、水素は石油や天然ガスなどの化石燃料やバイオマスなどからも製造でき、安定的なエネルギーの確保が可能になる。水素は、エネルギー構造の変革につながる大きなポテンシャルを秘めているのだ。

選手村内の休憩施設。大会中は施設内の利用電力が水素エネルギーで賄われた

 現在、水素産業分野において世界をリードしている日本の技術力。東京都は2018年2月、東京ガス株式会社を代表企業とする6社との基本協定を締結し、選手村地区のエネルギー事業を開始した。

 まちの敷地内には、水素ステーションを整備。ここからパイプラインを通じて各街区に設けられた純水素型燃料電池へ水素を供給し、マンションの共用部や商業施設のエネルギーとして一部利用する仕組みを構築した。実用段階では国内初となる取り組みだ。

 このほか、燃料電池バスへの水素供給を実現するなど、水素社会の実現に向け、先進的な水素エネルギー技術をインフラや日常生活に取り入れようと試みている。東京都都市整備局選手村調整担当主任の上田小百合氏は、選手村地区のまちづくりについてこう語る。

 「脱炭素社会実現の柱となる水素を普及させるために、選手村地区において、環境先進都市のモデルとなるまちの実現を目指してまいります」

 聖火をはじめ、至るところで水素が活用された東京2020大会。環境に配慮した次世代エネルギーの活用は、今大会の重要なレガシーとして引き継がれていく。未来へと続く新たな都市の誕生に、世界各国から熱視線が送られている。

選手村地区のまちづくりについて説明する東京都の上田小百合氏

写真/松田麻樹