治水施設としてだけじゃない! 調節池の平常時の活用法にも注目

地下トンネル式の神田川・環状七号線地下調節池。トンネル内径12.5メートル、貯留量54万立方メートル
東京都の痛ましい水害の記憶
かつて東京は、急激な市街化により流域の保水機能が低下し、たびたび水害に見舞われてきた。昭和41年、台風4号が接近した際には、都内を流れる一級河川の神田川が溢れかえり、約403ヘクタールという広域が水害にあい、約9000棟の家屋が浸水。

そこで、東京都では昭和40年代から激しい雨(1時間雨量50ミリ)に対応するため河川整備に着手した。川の氾濫を抑えるには、下流から川幅を広げる河川改修が一般的だが、多くの住宅が立ち並ぶ都心においては整備に時間がかかる。河川の途中の川幅を広げる方法もあるが、この場合は下流の川幅が狭くなっている場所で、水が溢れてしまう危険性がある。
そこで編み出されたのが、増水した水を一時的に貯留する「調節池」だった。
河川の水量を調整して水害を抑える調節池
石神井川の富士見池調節池を皮切りに各地で調節池の導入が本格化。現在は、都内の12河川28カ所(掘込式16施設、地下箱式9施設、地下トンネル式3施設)に調節池が設置されている。総貯留量は約263万立方メートルで、25メートルプール約8,800杯分に相当する。
初期につくられた調節池は「掘込式」と呼ばれる、川沿いにある空き地や公園などの広い土地を掘って、貯水できるタイプだ。溜まった水は自動的にはけるようになっていて、平常時はビオトープなどに使える。中には、田んぼとして使用されている調節池もある。

「掘込式」は、安く早くつくれるという利点もあり、各地に設置されたが、都心に近づけば近づくほど、貯留に使える土地は少なくなる。そこで、貯留量を増やすために、「地下箱式」と「地下トンネル式」が生まれた。
「地下箱式」とは、川沿いにある公園などの地下につくられ、箱の上部に蓋をするタイプ。上部はグラウンドや住宅地などにも利用されている。
「地下トンネル式」は、河川と交差している道路の地下深くにトンネルをつくり、そこに貯留するタイプだ。川沿いに設置する必要はなく、水の導入口と排水口さえあれば、どこにでもつくれる。
調節池などの設置が進んだことで、浸水被害は着実に減少した。しかし、令和元年東日本台風(第19号)では、記録的な豪雨により、都内の7河川が溢水し、浸水被害が発生した。
さらに、日本全国に目を向けると、岡山県や熊本県に甚大な被害を与えた水害も記憶に新しい。水害は、いつどこで起きてもおかしくはないのだ。被害を防ぐためにも、東京都では水害対策を重要課題のひとつとして、さまざまな取り組みを推進している。
エンタメ要素を持たせて調節池の認知度アップへ
東京都は令和元年より、地下トンネル式の「神田川・環状七号線地下調節池」の施設内をめぐる、インフラツアーをスタート。当初は、施設の設置予定地付近の住民をはじめ都民へ向けて、調節池の必要性とその効果について理解を促すために始まった取り組みだったが、近年流行している「大人の工場見学」のひとつとして、思わぬ話題を呼んだ。
現在、ツアーは一時中止となっているが、東京都建設局河川部計画課長の小田中光氏によると、「神田川・環状七号線地下調節池は、コロナ前はインフラツアーを含め年間約6000人を超える見学者がある人気の施設でした」という。
インフラツアーと同時にスタートしたのが、「IKEカード」だ。ダムカード同様、訪れた調節池等で1枚ずつ無料配布されており、該当する調節池の特徴などが記載されている。こちらも好評で、SNS等で入手報告が多数見られたという。


東京都は、ただ調節池を設置しているだけではない。インフラツアーやIKEカードなどのエンタメ要素を含んだ取り組みにも力を入れ、調節池の必要性や防災意識の向上に取り組んでいる。こういった地道な活動が、東京に住む人々の意識を変え、行動を変えることにつながるのだろう。