華麗な転身を遂げたVRアーティストが伝えたい、自分を否定しないことの大切さ
暗黒の中学時代、芝居が心を救ってくれた
私は女優、アイドル、YouTuberと創作や表現の世界で生きてきました。2016年からはVRアートの制作を始めて、SNSでの発信をきっかけに世界中の人たちから作品を評価してもらえるようになり、今ではさまざまな国でライブペインティングの公演を行っています。
そんな今の私を見て、「きっとキラキラした青春時代を過ごしたんだろうな」と思う人もいるかもしれません。でも、実際は真逆です。中学のときにはいじめられていたこともあり、暗い3年間を過ごしました。当時は「自分って何のために生きているんだろう」「自分は存在価値がない人間だ」と本気で思っていました。
そんな私の心を救ってくれたのがお芝居でした。中学卒業前に演劇の体験会に参加したときに、自分が役者として関わった作品を見て、誰かが喜んでくれる。そのことに生きがいを感じられるようになったんです。
小中高時代って、自分の世界は学校やクラスだけになってしまうものですよね。でも、それは本当に狭い世界です。私は中学でクラスメイトから拒絶されたことで、自分という存在が世界から否定されたような気持ちになってしまいました。でも実際にはそんなことはなくて、自分の視野が狭かっただけだったと今ならわかります。
「自分を否定しない」というルールで自分を変えた
暗黒期を抜け出し、舞台女優やアイドルなど、表現の世界に自分の居場所を見出したものの、根が暗いせいもあって自己肯定感の低さとずっと戦い続けてきました。
当たり前ですが、表現の世界には私よりもすごい人はたくさんいます。才能のなさに打ちひしがれて、もう駄目だと思うことばかりでした。「私なんか」「私なんて」が口癖でしたね。泣きながら夜の東京をとぼとぼ歩き回ったことも数しれずあります。
そんな自分を変えたのは、他ならぬ自分自身でした。まず「『私なんか』『私なんて』は絶対に言わない」と自分にルールを課しました。本当に自分に自信がなかったので、それなら自分に期待しないで、とにかくがむしゃらにやろうと思いました。
SNSでVRアートを積極的に発信してきたのも、馬鹿にされたり「下手くそ」って言われたりするかもしれないけど、どんどん出していこうと決めたからでした。「才能がないなら行動力でカバーするんだ!」と決めて、行動力だけは誰にも負けないようにしました。自分を変えるため、そうやって自分で自分を叩き直したんです。
「新しいことに挑戦したい」、その気持ちを信じてほしい
「かっこよく思われたい」「馬鹿にされたくない」という自分を守る気持ちよりも、数年後、数十年後に誰かを驚かせる作品をつくる、その気持ちこそが創作活動のモチベーションになりました。
私は、お芝居、音楽、アイドル、YouTuber......と、行動力を武器に、興味を持ったことには何でも挑戦してきました。ひとつの道に縛られず、自分の直感を信じて突き進む中で、ときには「絶対に成功しない」という大人もいました。
世の中は常に変化していくのに自分が変わらないのは、逆に生きづらいんじゃないかなって思うんです。挑戦してみて、違うなと思ったらまた変化すればいいわけです。とはいえ、本能的に現状を変えたくないと思ってしまう気持ちもわかりますし、私も同じような気持ちになることもあります。でももし「誰も成功していないけど、面白そうだから挑戦してみたい」と思うことがあるなら、自分の直感を信じてチャレンジしてみてほしいですね。少なくとも私は応援したいです。
これから世の中はどんどんと技術が進歩していき、それに伴って職業やカルチャーもこれまでよりも速いスピードで移り変わると思います。今、大人たちが安定していると思っている仕事も、10年後には本当に残っているのかというと、怪しいのではないでしょうか。だから、自分はいつでも変化できるように、柔軟な気持ちを忘れないでほしいです。
VRアートの第一人者として、先人がいない中、新しい道を切り拓いてきたせきぐち氏。かつて彼女がそうだったように、いじめや生きづらさ、将来への不安を抱えている子どもたちは少なくないはず。東京都では、幼児から高校生相当年齢までを支援するため、いじめ相談ホットラインや思春期サポートプレイスなど、さまざまな窓口や場を用意している。もし周囲に相談できる人がいなくて孤独を感じているときは、こうしたサポートを活用してほしい。