ユニバーサルデザイン化が加速! 今なお進化する都営地下鉄

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 2013年に2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の開催地が東京に決定した後、東京都の公共施設では多様な人々に対応できる仕組みづくりが飛躍的に進んだ。その取り組みは現在どのような形になっているのか。東京都交通局の担当者に聞いた。
都営浅草線新橋駅に設置されているロボットコンシェルジュ、Sota。乗り換え経路や駅周辺情報などを案内してくれる。

誰もが安心して利用できる駅のホーム

 東京都交通局では駅ホームにおける安全対策として、2000年から転落・接触事故の防止効果が大きいホームドア設置を都営地下鉄全線で推進。20223月末時点で、全106駅の86%で完了した。ホームドアを設置した都営地下鉄の駅では転落事故が一度も発生しておらず、安全かつ安定した運行を実現している。

 特に都営浅草線のホームドアには、新型QRコード(tQR)を用いたドア開閉連動技術を東京都交通局と株式会社デンソーウェーブで共同開発し、地下鉄で初めて採用した。

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車両ドアのQRコード(tQR)をホーム上のカメラが読み取り、ドアが開閉する。

 海外では珍しい相互乗り入れも東京では多く実施され、浅草線は5つの鉄道事業者による相互直通運転を行っており、多様な車両の往来を誇る。「tQR」技術は車両の編成数や扉の数が異なるさまざまな列車に対応できるため、車両の大規模改修が不要だ。特許を取得してはいるが、全国のホームドア整備促進のため特許は公開され、他の私鉄やJR等でも同じ技術が生かされつつある。

 すべては利用する人の安全のため。一駅ずつ着実に。2023年度までに都営地下鉄全駅へホームドア設置完了を目指している。

訪日外国人に向けたタウンガイドの役割も

 2010年代、訪日外国人旅行客が急増したことは記憶に新しい。2019年のピーク時には年間約1,518万人の外国人旅行客が東京を訪れた。東京2020大会も見据え、東京都交通局では外国人旅行者の利便性アップのためにどのようなことに取り組んできたのか。

 「まずは2016年に全駅に音声翻訳アプリ搭載のタブレット端末を配備しました。同時に全駅の係員を対象に実践的な英語研修を実施しています」と東京都交通局電車部営業課課長代理(オリンピック・パラリンピック輸送担当)永野裕介氏は言う。

 駅でよく尋ねられる乗り換え案内や周辺情報の案内に特化した内容に加え、2017年から5言語に対応した電話による翻訳サービスを開始。現場での係員による対応や翻訳タブレット・通話サービスを組み合わせ、より的確できめ細かい情報提供が可能になったという。

 永野氏は、「研修でロールプレイングを繰り返すことで『外国人とのコミュニケーションに抵抗感がなくなった』『会話力がアップして適切な案内ができた』と係員の自信にもつながっています」と笑顔を見せる。

ロボットコンシェルジュが東京を案内

 さらに、外国人利用者の多い3駅(上野御徒町駅、新宿西口駅、新橋駅)には、ツーリストインフォメーションセンター(TIC)を開設。多言語対応が可能なコンシェルジュが常駐し、駅周辺施設、交通・観光情報の案内が行われている。

 東京は海外からのみならず、日本国内からも観光客やビジネス客が多く訪れる街だ。東京に住む人であっても複雑だと感じられる首都圏の鉄道の乗り換え。駅に立ち寄りやすい案内施設があるのは利用者にとって心強いことだろう。

 2020年10月にはAIを搭載したロボットコンシェルジュ、ARISAが新宿西口駅で、Sotaが新橋駅でそれぞれデビュー。音声会話や付属のディスプレイを使い「非接触」での情報提供を可能にしている。

 2体とも外観が異なり、特にARISAは雑談や写真撮影などのエンターテインメント性も備えているという。

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人のような滑らかな動きを備えるARISA。対話を重ねて、対応パターンもアップデートされている。

 だが、来るべき時に備えていた数々の施策は新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、十分に力を発揮できていない。気軽に旅行や外出を楽しめる時が来たら、ツーリストインフォメーションセンターに足を運び、コンシェルジュから新しい東京の情報を得てみよう。未来を感じるロボットコンシェルジュとのコミュニケーションにも期待が膨らむ。


※所属・職務等は2022年3月当時のものです。

取材・文/小瀧恵理 写真提供/東京都交通局