ICTインフラ企業が立ち上げた、スタジオBaBaBaが注目される理由

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 東京・高田馬場に、2021年4月にオープンしたケーススタディスタジオ「BaBaBa(バババ)」。高度なICTオペレーションと自由度の高い空間によって各地をつなぐイベントを発信し、注目を集めている。
旧印刷工場をリノベーションした建物の1階にあるスタジオBaBaBa。右にある可動式の黒いブースは貯水タンクを改造したものだ。Photo: Takumi Ota

自分たちらしい発信の場を、1年かけて考えた

 BaBaBaを発案したのは、1949年に創業した東大阪の電話工事会社で、現在はICTインフラ構築とオフィス空間設計を主要事業とするアンダーデザイン株式会社だ。東京オフィスを20204月に移転、その新社屋として選んだのが高田馬場の住宅街に立つ3階建ての旧印刷工場だった。2・3階を東京事務所に、1階の道路に面したスペースは会社と切り離し、独立して企画・運営するスタジオBaBaBaに。アンダーデザインの代表・川口竜広氏は、3フロアすべてを社屋にせず、自社ビルの1階にさまざまなイベントが可能なスタジオを設けた理由を次のように語る。

 「通信インフラ企業の強みを発揮しつつ、リアルとバーチャルで人と人とをつなげる場をデザインしたいと考えていました。その空間は、アートギャラリーのように使い方を限定したくない。大企業が取り組むような大掛かりな芸術振興とは違う、自分たちらしい実験的な情報発信の場はなんだろうと、1年くらいはずっと構想を練っていました」

 建物のリノベーションは、「ブルーボトルコーヒー」の店舗デザインなどで知られる、長坂常氏(スキーマ建築計画)に依頼した。ペンキの剥げた床やむき出しの配管など、使い込まれた印刷工場の雰囲気が活かされ、川口氏が思い描いた実験的な場にふさわしい。

ヴェネチアとつなぎ、等身大の映像で見せる

 しかし空間はできあがったものの、2020年春から始まったコロナ禍は収束の兆しを見せず、人が集まる場の運営は厳しい状況に置かれた。企画を検討していた頃、リノベーションを手がけた長坂氏が携わるヴェネチア・ビエンナーレ日本館の展示設営を、アンダーデザインのICTシステムが遠隔サポートすることに。そこで、BaBaBaをサテライト拠点として使うアイデアがもち上がったという。

 「ヴェネチアと高田馬場を通信で常時接続しました。ヴェネチアにいるスタッフに、日本から送ったスマートグラス(カメラ付きメガネ)をかけてもらい、現場や作業する箇所など見たものをリアルタイムでBaBaBaのスクリーンに投影したのです。本来なら現地に行くはずだった日本の職人が、その映像を見て作業の指示を出しました。こうした実験的な設営風景を、ヴェネチア・ビエンナーレ日本館のテーマである建築と絡めて公開したら、面白いのではないかと。それが『BaBaBa』の記念すべき第1回企画展『Dear Takamizawa House(高見澤邸)』になりました」

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BaBaBaの第1回企画展『Dear Takamizawa House』では、ヴェネチアとオンラインでつなぎ、現地での展示設営を進めたほか、トークライブなどが行われた。Photo: Taro Ota

東京にいても海外と高いレベルで共創できる

 202111月には、奄美の伝統工芸である大島紬の染め工房をオンラインでつなぎ、BaBaBaに投影して、ガレージで泥染めのワークショップを行うというイベント『金井工芸 分室』を開催。また、BaBaBaのコンセプトをブログ形式で伝えるウェブジャーナルも開始し、情報発信とリアルスペースでの展示を連携させる仕組みをつくり上げた。BaBaBaのディレクターを務める今井孝則氏は語る。

 「インターネットが先行することでリアルの場が縮小していくのではなく、リアルの場がなければできないこととオンラインの情報とが、同等の価値をもち続けるかたちを模索したい。その上で、ICTの技術で遠隔地とBaBaBaがつながれば、ものづくりの現場が奄美であっても、海外であっても、東京にいながら高いレベルで共創できると思うんです」

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奄美の大島紬の染め工房のイベント「金井工芸 分室」の展示風景。実際にモノを見て、オンラインでは映像や情報に触れ、より深い理解へと導かれる。 Photo by ITCHY

 大画面に対応する映像機材と高度な配信技術による、等身大のリアルタイム・コミュニケーションを可能にしたBaBaBa。ガラス張りのエントランスから様子をうかがえるため、道行く人からの関心も寄せられ、やがて地域に開かれた空間として認知されるようになった。近隣の子どもたちが参加するイベントもあれば、高田馬場にある大学の研究室とコラボレーションした企画も実現しているそうだ。オンラインとリアルスペース、さらにウェブジャーナルと、3通りの発信が行われる場は新しいコトが芽吹く土壌となっている。

BaBaBa(バババ)

住所:東京都新宿区下落合2-5-15-1F
TEL: 03-6363-6803
https://bababa.jp/
※イベントの予定はサイトでご確認ください。
2022年5月17日~31日は『PRINT MATTERS MASAHIRO SANBEPAPIER LABO(プリントマターズ 三部正博&パピエラボ)』展を開催予定。

取材・文/岩崎香央理