写真家・本城直季が撮り続けて感じる、東京という都市の生命力
--なぜ、東京を撮り始めたのですか?
生まれ育った東京は、いちばん身近な存在でしたし、自分がいる場所を知りたいと思いました。東京はとても大きな街で、その中にいると自分の立ち位置がわからなくなることがあります。住宅地のすぐ近くを山手線が走り、その向こうには高層ビルが立ち並んでいる。こうしたギャップにハッとすることがあるんです。
学生の頃は学校や家の近くを撮ることから始めて、だんだんと東京を見渡せる場所を探すようになりました。原付バイクで出かけて、川があって橋を渡れる場所や東京湾沿いをよく撮っていましたね。
ある時、大井ふ頭の橋の上から、対岸で人がくつろいでいるのが見えたんです。それを撮ってみた1枚が、遠くの風景なのに近くを見ているようで、ジオラマのように撮れました。二度とこんなふうには撮れないと思うぐらいバランスが見事だったんです。撮影を続けていくうちに、俯瞰的な目線で大判カメラを使って「アオリ」で撮るとそうした世界観が撮れることに気付きました。
--本城さんの写真には欠かせないアオリの手法ですね。どういう仕組みですか?
普通のカメラはレンズとフィルム面が並行で、その間の距離は一定です。「4×5(シノゴ)」と呼ばれる大判のフィルムカメラは、レンズとフィルムの間に蛇腹があり、これを傾けて角度を付ける(あおる)と1枚のフィルムの中でレンズとの距離に部分的な差が生じます。僕の場合、アオリでピントがずれるところ、つまりボケをつくるのですが、このボケが、遠景を近いところのものを見ているように感じさせるのです。近くにあると感じるのに人や建物がとても小さいので、ミニチュアを見ているように錯覚します。
僕が大きいカメラにこだわるのは、ボケのグラデーションを見せたいから。さすがにシノゴより大きいと、高所撮影での機動性に問題がありますが(笑)。
--高いところから俯瞰する撮影も特徴のひとつですね。
展望台やビルの屋上を探して、高いところから撮りました。作品づくりを追求できたのは、東京という都市のおかげ。高い建物が多く俯瞰する目線をもつことができました。街が開放的な気がします。
ヘリコプターからの空撮では、光や角度がいいなと思う瞬間を狙います。焦点を合わせるのは、人やクルマの動きなど、物語がありそうなところですね。街の圧倒的な広さや生活感を撮りたいのです。
--本城さんが考える、東京の特徴とは?
やっぱり「自由さ」でしょうか。ビルや集合住宅に、一戸建ての個人宅が混ざって街並みをつくっている。夜景にしても、東京は照明の色が緑やオレンジ、白などさまざま。こんなに視覚的に自由な街はほかにあまりないと思う。東京はひとつの生命体のようで、首都高や鉄道は、上空から見るとまさに動脈。血流のように物資が運ばれ、それが広がっている。街の生命力に圧倒されます。
--2021年、オリンピックイヤーの東京を撮影し、どんなことを感じましたか?
ずっと撮り続けているので、東京の風景に新鮮さを感じられるだろうかと考えながら臨みました。けれど撮ってみて感じたのは、よく言われている経済の停滞などは意に介さないかのように、街は止まっていないということ。大手町や西新宿のあたりも変わらないかと思いきや、広がり続けています。
東京は、ずっと住んでいてもつかみきれない不思議な都市。展覧会のタイトルを『(un)real utopia』と付けたのは、ユートピアの街ってどんな世界なんだろうと考えていたから。僕は、東京は不思議な都市で、より良くなっていく都市であると捉えています。それを見たくて、撮っているのかもしれません。
本城直季(ほんじょう・なおき)
『本城直季 (un)real utopia』
開催期間:2022/3/19~2022/5/15会場:東京都写真美術館
TEL:03-3280-0099
開館時間:10時~18時
※木、金は20時まで。入館は閉館30分前まで
休館日:月 ※2022/5/2は開館
料金:一般¥1,100
https://topmuseum.jp/