世界一ミシュランの星が多い街・東京 その極められた食のこだわりに迫る

出典元:「Tokyo Tokyo Delicious Museum」
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 誰もが一度は耳にしたことがあるだろう、グルメ憧れのガイドブック、ミシュランガイド。フランスを発祥とし、現在多数の国で出版されていますが、ミシュランの星の獲得数は東京が世界一を誇ります。 世界でも珍しい「うま味」を食の中心におく日本は、なぜ世界トップクラスのグルメにまで進展したのでしょうか。変わり続ける東京で極められた、世界に認められる日本の食へのこだわりに迫ります。

食通の旅の指標、ミシュランガイド東京とは

 19世紀末の初版発行から100年以上、美食を司るガイドブックとして、世界中で最も読まれているといっても過言ではないミシュランガイド。現在までに、数多の国や都市を舞台として発行されてきました。対象地域の飲食店に与えられる、一つ星から三つ星にかけての評価は、匿名調査員による覆面調査をもとに下されます。素材の質はもちろんのこと、調理技術の完成度や料理の独創性、コストパフォーマンスなど、その評価基準は多岐にわたります。

 獲得さえ難しいミシュランの星ですが、調理する側と食する側、両者にとっての憧れであり、敬意とともに語られることも少なくありません。一つ星は「そのカテゴリーの中で特に美味しい料理」、二つ星は「遠回りしてでも訪れる価値のある料理」、そして三つ星は「そのために旅行をする価値がある卓越した料理」とされています。

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 2007年11月、ミシュランガイド初のアジア進出の舞台として、選ばれたのは東京でした。最新版となるミシュランガイド東京2022では、200件を超える飲食店に対して星が与えられています。ミシュランにおける星は一度獲得すれば終わり、ではありません。毎年再評価が行われるため、クオリティを維持するための継続的な努力が求められます。だからこそ、世界中の食通たちから信頼を獲得しているといえるでしょう。

 ミシュランガイド東京にて、星を与えられた飲食店として、名を連ねるのは寿司をはじめとした日本料理だけではありません。フランス料理、イタリア料理、中華料理など様々です。グルメ都市としての多様性、ひいては美食を好む国民性そのものを、反映した結果だと考えられます。食通たちが旅をするとき、その目的地には彼らを満足させる美食が求められます。星の獲得数から評すると、ここ東京は、その彼らの舌をも唸らせるグルメの宝庫なのです。

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なぜ東京はミシュラン星獲得数が世界一なのか? 日本人のうま味への探究心

 2022年2月現在、東京は都市として世界一のミシュラン星獲得数を誇ります。数ある世界の大都市を差し置いて、なぜこれほど多くの星を獲得できたのでしょうか。その答えの一つとして、私たち日本人にとってありふれた「うま味」が挙げられます。

 料理の味わいを表現する旨味、ではなく、うま味。混同されやすいこの二つですが、別のものを指していることはご存知でしょうか。うま味、について考えるとき、欠かせないのが5つの要素からなる基本味です。甘味・酸味・塩味・苦味とともに、舌の受容体にて感知される味覚の一つが「うま味」だとされ、料理の美味しさに繋がる鍵を握るとされています。

 このうま味、他の4つと比較すると大変新しく、約110年前に日本人の手によって発見、そこから長年続いた議論を経て、2000年に入って正式に基本味として認められました。その発見に大きく寄与したのが、同じく日常生活において身近な出汁とされます。

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 日本人は古くから、昆布やカツオなど自然由来の出汁を上手に利用して、和食を調理してきました。切っても切れない間柄である出汁ですが、その中には多くのうま味が含まれています。

 また、和食は伝統的な食文化として、2013年にはユネスコより世界無形文化遺産として登録されています。その際にも評価された点として、出汁における「うま味」の活用が言及されました。うま味から繋がる出汁文化、調味料に頼りすぎない、素材を味わう食文化を育んできたからこそ、日本人ならではの繊細な味覚が生まれたともいわれます。繊細な味覚なくして、美食を堪能することはできません。

 東京がグルメ都市として変貌を遂げた背景には、国際都市として多文化の流入を受けると同時に、美食を愛でる国民性があったのも一因だと考えられるでしょう。素地となった、うま味は今や「UMAMI」として、世界的な認知を獲得するに至りました。日本における食文化の真髄の一つとして、うま味を活かした、さらなる発展に期待させられます。

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進化し続ける日本食のこれから

 言うに及ばず、東京は世界有数のグルメ激戦地です。絶えず変化し続ける大都市では、新旧問わず、常に飲食店同士がしのぎを削っています。避けては通れない高い競争率。その中を生き抜くにつれて、各々が磨きあげられ、全体としてみたクオリティの、底上げに結びつく好循環が生まれています。

 ミシュランの星は疑いようもなく、輝かしい称号です。しかし異なる視点からみたとき、東京で楽しめるグルメには、まだまだ可能性が溢れているといえます。一般的に星付きと聞くと、身構えてしまう場合も少なくありません。参考にしたいのは、同じくミシュランガイドが掲載しているビブグルマン。ミシュランのマスコットキャラクターをあしらったこの評価指標は、従来の星指標には該当しないものの、おススメしたいと評された飲食店に対して付与されています。指標とされるのは値段と美味しさであり、いわゆるコストパフォーマンスに秀でた飲食店が掲載されています。様々な価格帯における網羅的な発展、それがこれからのグルメ都市のあり様でしょう。

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 東京における食、ひいては日本食は今後どのような道を歩むのでしょう。 一例として起こりうるのが、日本食の逆輸入です。

 日本食は今や世界各地で人気を博しており、他国の食文化と接し混ざり合うことで、その地で新たな発展を遂げています。日本食の見つからない大都市はほぼ存在しない、と断言しても過言ではありません。国民食である寿司はもちろん、伝統的な和食の枠に留まらず、ラーメンや抹茶菓子など、様々なジャンルにおいて脚光を浴びるようになりました。その土地ならではの食材を使用したり、日本ではまだ馴染みのない調理法や味付けなど、変化していく余地がふんだんに存在します。きっとそれは多くの日本人にとって、新鮮味を持って受け止められるでしょう。現地の食文化に与えた影響についても、同時に目を向けたいところです。

 本家とは異なる進化をした日本食が帰る場所として、東京が選ばれるのは、想像に難くありません。ひときわ多様性に満ちたグルメ都市の姿が、そこにあるのではないでしょうか。

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 世界一ミシュランの星が多い街・東京は、まだまだ未発見の魅力に溢れています。約1400万もの人口を抱える東京都には、およそ19万の飲食店がひしめき合い、生涯を費やしたとしても、その全てを味わい尽くすのは到底不可能なほどです。

 ミシュランガイドを携えて名店を訪ねるもよし、己の嗅覚を信じて、飛び込みで絶品グルメを堪能するのも楽しいかもしれません。そこに正解はありません。ぜひ自分なりの、食の都との付き合い方を見つけてみてくださいね。

※本記事は「Tokyo Tokyo Delicious Museum」(2022年2月)の提供記事です。