東京発・医療テック系スタートアップ2社、躍進の理由
世界初の排泄予測デバイス
トリプル・ダブリュー・ジャパン(東京都)が開発した「DFree(ディーフリー)」は、超音波センサーで尿意をモニタリングする排泄予測デバイスだ。超音波センサーを内蔵した約26gの小型の機器を下腹部に装着し、膀胱の膨らみをリアルタイムで測定。尿の溜まり具合を10段階で表示し、そろそろトイレに......というタイミングをiPhoneや専用機器などに通知する。
尿意が予測できると、トイレが近くなり日常生活に支障を感じていた人には外出時の不安が軽減されるなどの利点があり、介助者はスムーズにトイレへ誘導できるため、排泄の成功を促しやすい。2015年に起業したトリプル・ダブリュー・ジャパンの中西敦士氏は、排泄ケアは世界共通の課題であると説明する。
「高齢者だけでなく、脳梗塞後の在宅介護や軽度の認知症、若年層の知的障害などを含め、排泄の悩みを抱えている人は、世界で約4億人と言われています。間に合わない、伝えられないことによるトイレの失敗から、本来ならば可能な自立支援をあきらめ、紙オムツに移行するケースも多い」
JICA海外協力隊とアメリカ留学の経験から、世界を視野に入れて、ヘルスケア領域での起業を志したという中西氏。尿意を計測するウェアラブル・デバイスのアイデアを同級生らと研究し、臨床検査でも広く使われている超音波で長時間モニタリングする技術を世界で唯一、製品化した。東京の都立病院の協力を得て機器を導入したところ、患者の過半数に排泄自立度の向上がみられたという。
「現在、国内の約300施設で使われ、世界20カ国に展開しています。トイレの問題は人間の尊厳を左右し、排泄の成功は人生をいきいきとしたものに変えてくれる。今後は大腸の動きをモニタリングして排便の予測を可能にするなど、開発を進めていきたい」
高齢者の生活を支えるエイジテック(Age Tech)の市場が世界的に盛り上がりをみせている。トイレの悩みを抱える人が自分で利用するほか、負担の大きい要介護者のケアの場面でも有効なデバイスはますます関心を呼ぶだろう。
VRで、高度な医療技術を多くの人へ開放
一方、Holoeyes(ホロアイズ、東京都)は、現役外科医とVRアプリのエンジニアがタッグを組んで2016年に起業、医療用画像処理ソフトウェア「Holoeyes MD」を開発し、医療技術の向上に貢献している。Holoeyes MDは、CTやMRIで撮った画像を最短10分で3Dモデル化するソフトで、VRヘッドセットを装着すれば臓器など術野の立体データが空間で手に取るように映し出され、手術前の会議やトレーニングに活用できる。
Holoeyes MDは、医療用画像処理サービスとして日本で唯一、医療機器認証を取得しているので、病院で実際に使用してもらい、エビデンスを確立することができたという。ビジネスマネージャーを務める中村和弥氏は、事業のヴィジョンをこう説明する。
「VRによるシミュレーションは、学生や若手医師のトレーニングにも役立っています。多くの医師が知識・知見を得られれば、限られたベテランしかできなかった職人技というフィールドを開放できる」
実績づくりに役立った東京都の支援
トリプル・ダブリュー・ジャパンとHoloeyesは、ともに、東京都が実施するスタートアップ支援策「キングサーモンプロジェクト」に採択された企業である。キングサーモンプロジェクトとは、有望なスタートアップに対し、東京都が都政現場への導入や海外展開などを支援する事業だ。
新しい技術を広め、改善していくにはユーザーのフィードバックが不可欠だが、医療・介護の世界では機器の導入に対するハードルが高い。トリプル・ダブリュー・ジャパンとHoloeyesは、それぞれ東京都の支援を得て都立病院で使用実績を重ねることができ、これが大きな飛躍につながったという。海外での販路も拡大し、急成長する東京発のスタートアップに、投資家からも熱い視線が注がれるに違いない。
写真/殿村誠士