農家を目指す都民が集まる、東京NEO-FARMERS!

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 「出身地・東京で農業を仕事に」と望む、若い新規就農者が増えている。彼らは「東京NEO-FARMERS!」というブランドをつくり、生産・販売活動を拡大している。新規就農者の増加は生産緑地の維持にも役立つという。
Photo: iStock/kazoka30

2009年以降、東京に新規就農者が次々と誕生

 他県に比べて農地が少なく地価が高い東京では、土地の確保が困難で小規模な農業しかできず、収益性が高くないなどの理由から、農家出身ではない人が農業を仕事にすることが非常に難しいとされてきた。しかしいま、東京都出身の2030代を中心に新規就農者が増えている。

 2009年に東京都西多摩郡瑞穂町で都内初の新規就農者が誕生して以来、農業法人へ転職する人や農業者を目指す人が徐々に増加。新規就農者らで月例会を開き、栽培技術や販売方法などについて情報交換をするようになった。2012年にその集まりを「東京NEO-FARMERS!(東京ネオ・ファーマーズ!)」と名付け、いまでは農産物のブランド名にもなっている。日本の首都・東京で、若い新規就農者が増えているということが海外でも注目され、タイなど数カ国から取材依頼があったという。

 東京NEO-FARMERS!の生みの親である松澤龍人氏は「以前から農業は仕事がきつく儲からないと言われ、就業人口は年々減少していますが、若い新規就農者たちは収入よりも好きな農業を仕事にしたいという気持ちが強いと感じます」と話す。

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イベントの直売所で、小松菜やチンゲンサイ、ニンジンなど、東京NEO-FARMERS!の農産物を販売している様子。

東京だからこそ東京産が売れる!

 近年、全国的に地産地消への関心が高まり、東京でも東京産の農作物が注目を集めている。当初、東京NEO-FARMERS!の野菜は地域のイベントなどで販売されていたが、現在は都内数店舗のスーパーマーケットなどで毎日販売されている。

 さらに2022622日には、東京都八王子市に東京NEO-FARMERS!と就労継続支援A型事業所「風の谷」による常設の共同直売所がオープン。新規就農者のコミュニティと福祉施設がコラボレーションした、常設の共同農産物直売所の設置は全国初の試みだという。

 松澤氏は「東京は人口が多く、消費者の購買意欲も高いため、東京産の農作物を店頭に並べるとよく売れます。都内の飲食店からの問い合わせも多いです。この購買力の高さが東京の優位性です」と言う。

 江戸東京野菜のような特産物は限られているが、農家のこだわりが多様性を生み出し「東京らしさ」につながっている。実際に東京NEO-FARMERS!のメンバーは、有機農業にこだわる人、トマトやネギなど1品種の生産に特化した人、多品種づくりに取り組む人、西洋野菜やハーブに挑戦する人などさまざま。都市農業は自由度が高く、バラエティ豊かな農作物を生産できることも魅力といえる。

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農業参入を計画していた「風の谷」の農場長に東京NEO-FARMERS!のメンバーが就任したことをきっかけに始まった共同運営の農産物直売所。

就農者の増加が都市の緑の維持につながる

 1992年に指定された生産緑地(*)の指定解除が可能となる2022年を迎え、都市部では農地から宅地への転用が進むと考えられていた。そのようななか、2018年に都市農地貸借法が施行され、第三者に生産緑地の貸付けができるようになった。東京NEO-FARMERS!内でも生産緑地を借りて農地を拡大するメンバーが現れ、現在も借り受け可能な生産緑地を待つメンバーは多い。

 東京の新規就農者の増加は生産緑地の宅地化を抑制する一助となり、都市部の農地・緑地の維持に一役買っているといえるだろう。生産者のつくりたいものをつくれるという自由度の高さが魅力の都市農業。都内の農地を維持・拡大し、今後も多彩な東京産の農作物が生産されることを期待したい。

1992年に都市部の農地を残す目的で指定された緑地。指定を受けた土地は税制が優遇されるが、指定日から30年の営農義務が生じる。

東京NEO-FARMERS! www.tokyoneofarmers.com
取材・文/小野寺ふく実
写真提供/東京NEO-FARMERS!