TikTokで森美術館の初来訪者が倍増!動画がアートの扉を開く

 森美術館がTikTokとのパートナーシップ提携を発表。日本の美術館でも撮影OKの展示が増えてきたが、「動画はご遠慮ください」が大半だ。美術館とSNSは今後どうなるのか?
2022年7月12日に森美術館で約15組のTikTokクリエイターを招いた撮影会「#emptymoriartmuseum for TikTok creators」が実施された。

世界23の美術館をつないだTikTok LIVE配信

 東京都港区にある森美術館は早くからソーシャルメディアを積極的に活用し、一般の鑑賞者に対して、展示室での撮影OKSNS投稿OKとしてきた。20226月、ショートムービープラットフォーム「TikTok(ティックトック)」とパートナーシップ契約を締結。同年629日に開幕した『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』展(以下、『地球がまわる音を聴く』展)より、定期的にTikTok LIVEや撮影イベントを行うという。712日に行われた、閉館後の鑑賞者がいない展示室でTikTokクリエイターが撮影を行うイベント「#emptymoriartmuseum for TikTok creators」(以下、#empty)を取材した。

若い世代と美術館が接点をもつために

 なぜ森美術館は、TikTokとの提携を決めたのだろうか? 片岡真実館長に問うと、2021518日にTikTokが「国際博物館の日」を記念して実施した、世界12か国、23の美術館・博物館をつなぐライブ配信リレー「#MuseumMoment」に参加した時の手ごたえを教えてくれた。

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片岡館長は「映え、を意識しているわけではないですが、作品を選ぶ際、見ごたえは一つの重要なポイント。結果的にインパクトのある展示になりますね」と話す。

 「TikTok LIVE配信『#MuseumMoment』に、日本の美術館から唯一参加したら8万人超の人が見てくれて視聴者数の桁違いの多さを実感しました。TikTokは、10代、20代の利用者も多いので、美術館と若い世代との接点となるプラットフォームとして期待しています」

 TikTok は20217月に世界の月間利用者数が10億人を超え急成長を見せており、アートファンを育てるためには欠かせない。森美術館の広報・プロモーション担当の洞田貫(どうだぬき)晋一朗さんは、TikTok動画は写真に比べて情報量がとても多いと言う。「展示室の中に入っていく臨場感があって、そこにテロップや声で説明が加わる。美術館との相性がとてもいいんです」

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穏やかな語りが人気の「耳で聴く美術館」のアビ(@mimibi301)さんは「美術館が撮影の機会を設けてくれてうれしい」と喜ぶ。「私の発信でアートからもらったエネルギーを少しでも広めていけたら」

 たとえば『地球がまわる音を聴く』展の出品作の一つ、ヴォルフガング・ライプの『ミルクストーン』は一見すると白い箱のようだが、大理石板の上部が浅く削られており牛乳で満たされている。TikTok動画では、作品を観た人の驚きのしぐさや「牛乳!」というテキストによって人々の好奇心が掻き立てられるのだ。片岡館長は、TikTokは展覧会への導入だと言う。「作品には存在感や香りなど会場でしか感じられないものがあるので、TikTokで満足するということはないんです」

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ヴォルフガング・ライプ『ミルクストーン』を真剣に見つめる、カップルノテイ そら(左、@sora_frsw)さんと、じゅるり るりこ(右、@jururiruriko)さん。

フォロワー数が少なくても拡散される!?

 TikTok効果は数字にも反映されている。直近の『ChimPom展:ハッピースプリング』(会期2022218日~529日)でTikTokクリエイターを呼んで「#empty」を実施したところ来館者が増え、一般来館者のTikTok投稿も急増。実施前は初めて来館した人が33.3パーセントだったが、実施後59.5パーセントに倍増したという。

 TikTokユーザーの好みに合わせた「おすすめ」フィードは、人々の関心をよくつかんでいて見続けてしまう人が多い。ツイッターやフェイスブック、インスタグラムと異なり、TikTokの場合はコンテンツが良ければフォロワー数が少なくても「おすすめ」フィードに載り、拡散されるチャンスがある。

 いいこと尽くしのようだが、SNSは個人が発信するプラットフォームであるがゆえ、公的機関の発信には難しい面もある。森美術館ではお知らせを基本としつつ、適切なハッシュタグを選ぶなど工夫を重ねて認知度を高めてきた。担当の洞田貫氏は言う。

 「寝る直前まで見て、朝起きて見て。SNSは大変ですが、実際にやってみて学ぶ点は多いし、ヒントがたくさんあるんです。分析ツールだけでは見えてこない部分が確かにあります。ヨーロッパの美術館はTikTokを積極的に活用していると思います。ヴェルサイユ宮殿はTikTokの動画加工機能『エフェクト』も独自のものをつくっていました」

TikTokで展示室が創作の場に変わった

 TikTokと美術館が手を結ぶことは、美術館のPRにとってのみメリットがあるわけではない。閉館後の撮影イベントに参加したクリエイターは、実に多様な撮影を行っていた。紹介系、日常のVlog系、作品からインスピレーションを受けたギターの即興演奏やヲタ芸のサイリウムパフォーマンス、クリエイター同士のコラボ。TikTokによって、美術館が作品を生み出す場所にもなっているのだ。TikTok視聴者としても、アート・文化という投稿のジャンルが広がるのは大歓迎だ。

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10Bの鉛筆で新聞を塗りつぶした金沢寿美の『新聞紙のドローイング』にインスパイアされてサイリウムパフォーマンスを考える、ゼロから打ち師始めます。(@zerouchirestart)の2人。それに感動したデッカチャン(@djdekka)が太鼓を叩いて即席コラボ。
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青野文昭のインスタレーション『僕の町にあったシンデン―八木山越路山神社の復元から2000〜2019』の『八木山橋』に立ち、流麗なメロディを即興で奏でたKOZO(@kozoguitar)さん。

 難しいと思われがちなアートを身近なものにし、ファンを増やすTikTok。新しい酒は新しい革袋に入れよ、との言葉があるように、アートを発信するプラットフォームとしてTikTokとミュージアムは多くの可能性を秘めている。

森美術館
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
https://www.mori.art.museum/

※『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』展の会期は2022年6月29日~11月6日。事前予約制(日時指定券)。空きがある場合は当日事前予約なしで入場可。開館日時や料金など詳細はウェブサイトでご確認ください。

※当記事の写真は2022年7月12日に行われた「#emptymoriartmuseum for TikTok creators」の時に許可を得て撮影したものです。通常の来館の際は、森美術館が提示するルールに従って鑑賞してください。
取材・文/井手ゆい(CCCメディアハウス)
写真/殿村誠士