割れた器に新しい命を吹き込む、「金継ぎ」の魅力

 器の傷を金や銀で装飾して美しく生まれ変わらせる「金継ぎ」が、いま国内外で人気だ。この日本の伝統文化を広く伝えるため、新しいプラットフォーム「つぐつぐ」を立ち上げた俣野由季氏に話を聞いた。
ヒビや欠けてしまった部分を漆などで補修し、金粉で仕上げると、新たな美しさが誕生する。

壊れた部分を強みに変える発想に共感

 金継ぎとは、壊れてしまった陶磁器を漆などの天然材料を使って修理する、室町時代に始まる茶湯文化で生まれた伝統的な技法だ。焼き物の割れや欠け、ヒビといった傷をあえて生かし、芸術的なものとして生まれ変わらせることで、より長く使い続けることができる。俣野(またの)由季氏が立ち上げた「株式会社つぐつぐ」(東京都)は、壊れた器を直してほしい人、金継ぎの職人、自分自身で金継ぎに挑戦したい人をつなぎ、さまざまなサービスを展開している

 俣野氏は、製薬会社に勤務していた頃、大切にしていたを割ってしまい、修理先を探していて偶然金継ぎに出合った。「日本人なのに金継ぎの存在をまったく知りませんでした。壊れた部分を強みに変える、という考え方に共感し、多くの人に知ってほしいと思ったのです」

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会社員時代はキャリアアップを目指して完璧を求め、挫折を繰り返していた俣野氏。壊れた部分を魅力に変える金継ぎに出合って、生き方が変わったという。

職人と依頼者をつなぐ出会いの場を提供

 恵比寿に金継ぎ教室の店をオープンした2021年、俣野氏は世の中のニーズを調べるため、オンラインでアンケート調査を実施。すると200人中、3割の人が欠けてしまった大事な器を捨てずにもっていると回答。金継ぎの認知度も2年前に調査した時に比べてアップしていた。「日本人特有のもったいない精神と、コロナ禍によって外出が制限され、ていねいな暮らしに対する意識が高まったことが重なり、モノを大切に慈しむ金継ぎに惹かれた人が多かったのかもしれません」

 「つぐつぐ」では、壊れた器を修理する金継ぎサービスのほか、金継ぎの技術を教える教室の開催、金継ぎキットや金継ぎ器の販売を行う。一方「マッチングプラットフォームつぐつぐ」では全国の金継ぎ師をサイト上で紹介するサービスなどを展開。「金継ぎの作業はとても時間がかかります。簡単なものでも2カ月、長ければ6カ月以上かかることもあります。私ひとりではすべての注文に応えることができません。そこで全国の職人と、依頼者との出会いの場を提供しています」

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「つぐつぐ」での金継ぎ作業の様子。持ち込まれる器は和食器のほか、洋食器やガラスなどさまざま。

 一方、どうやって金継ぎを頼めばいいかわからないという依頼者の要望に応えるため、サイトでは見積もり相談や金額の確定までの流れをわかりやすく提示した。「依頼者から壊れた器の写真を送ってもらい、簡単に見積もりを取れるシステムをつくりました。SNSも活用して業界の見える化を図ることで、職人さんたちの活性化を目指しています」。「つぐつぐ」を経由して、全国の職人へ依頼することもでき、事前にチャットで相談もできるので、安心して利用できる。

自宅で簡単にできる金継ぎキットの考案

 自分で金継ぎをやってみたい人のために、自宅でひとりでも作業できるように考案した金継ぎキットはシンプルでわかりやすいと好評だ。「金継ぎには決まったやり方はなく、職人によって千差万別です。インターネットで検索してもさまざまなやり方が紹介されていて、ひとりでやろうとすると混乱してしまうことも多い。そこで誰にでもわかりやすい方法を考案しました。材料として金継ぎに使用する特別な粉を4種類に厳選し、接着や補強のための生漆、仕上げの金粉と、シンプルな内容にしました」

 ここ数年は外国でも注目されており、金継ぎのキットも販売されているが、海外では合成接着剤を使っているものがほとんどだ。「日本の伝統技術を正しく伝えるために、本物の漆を使ってほしいと思い、ECサイトで海外向けの販売も行っています」

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初心者でも金継ぎが楽しめるキット。生漆、木粉・砥粉、黒粉・弁柄(べんがら)粉、金・銀粉、筆、へら、パレット、スポイトなどがセットされている。

大量消費の時代だからこそモノを大切にする

 現在、全国から「つぐつぐ」に寄せられた修理中の器は数百件。教室の登録生徒数は約300人となり、今年5月には浅草に2号店をオープンさせた。2021年9月にはMUJI新宿で、金継ぎ修理の器を預かるサービスも始めた。「直した部分が壊れてしまっても、また直すことができる。金継ぎにはそういう大らかさがあります。大量生産、大量消費の時代に、モノを大切にする日本の文化を多くの人に知ってもらえるとうれしいですね」

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カップのヒビに沿って、極細の筆で漆を塗っていく。集中力を要する作業だが、心を落ち着かせてくれる効果もある。
取材・文/久保寺潤子
写真/藤本賢一