東京発のクラフトコーラ、おいしさの秘密は和漢方にあり

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 小さな工房から大手メーカーまで参入し、ブームとなっているクラフトコーラ。「職人による手作り」にこだわるクラフトコーラの先駆けとして人気を博しているのが、コーラ小林氏の作り上げた「伊良(いよし)コーラ」だ。
伊良コーラ総本店下落合では、パウチに入れた作り立てのシロップに炭酸水を注いで提供される。

海外にもファンがいる、甘くスパイシーな伊良コーラ

 伊良コーラはコーラ小林氏が独自に開発したクラフトコーラだ。2018年に創業し、東京都新宿区下落合に総本店を構えるほか渋谷に路面店も持つ。

 工房に併設された下落合の本店は、道具やスパイスが並び実験室のようだ。店に入った瞬間、鼻をくすぐるのは甘くかぐわしいスパイスの香り。ここでは、伊良コーラはパウチで供される。作り立てのシロップに炭酸水を注ぐと出来上がり。一口飲むと、炭酸と柑橘の爽やかな喉ごしと、コーヒーやウイスキーのように口内に余韻を残す香りに驚かされ、コーラのイメージが大きく変わる。

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出来立てのシロップにサーバーから炭酸を注ぐ。薄切りのレモンをのせ、上から黒コショウを挽いて仕上げる。

 パチパチと弾ける炭酸の泡や、スパイスの粒が沈む様子をパウチ越しに眺めながら香りごと味わうコーラは、さながら五感で楽しむ嗜好品だ。唯一無二のコーラ体験を求めて海外から訪れる常連客がいることや、イギリスなどへの卸販売を行っていることも納得だ。

100年前のレシピに、祖父の知恵を融合

 伊良コーラの独自のおいしさは「スパイスの調合とその工程」から生まれると小林氏は語る。そもそもコーラとは、西アフリカ原産のコラノキの種子「コーラの実」のエキスを用いた飲み物だったが、現在はコーラの実を使わない商品も多いという。伊良コーラは、コーラの実をはじめ、バニラやシナモン、クローブ、ナツメグ、カルダモンなど、10種類以上のスパイスと柑橘類を調合して作られている。レシピはどのようにして誕生したのか?

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伊良コーラ代表のコーラ小林氏。シロップの調合は小林氏ともう一人の職人の二人だけで行う。Photo: Courtesy of © IYOSHI COLA

 小林氏は世界各地を旅行しながらさまざまなコーラを飲むうちに「感動するほどの究極のコーラを作りたい」との思いを抱くようになった。100年以上も前のコーラのレシピに基づいて、一人暮らしのアパートのキッチンでコーラ作りを始めたのだという。

 ただ、おいしいけれど、「これ」という味の決め手がないまま2年半ほどが過ぎた頃、和漢方工房を営んでいた祖父の遺品の道具や資料を見るうちに、最後のピースがはまった。「祖父の漢方の知恵がコーラ作りに生かせるのではないか」。そうひらめいて工程を変えるや、「いくらなら売ってくれるの?」と試飲してもらった友人にも尋ねられる味が完成した。

コーラの根源には東洋の思想がある

 「コーラは西洋の飲み物だと思われていますが、コーラを発明した薬剤師ジョン・S・ペンバートン博士はアメリカ南部の漢方学校で学びました。漢方の考え方や東洋の思想がコーラの味の根源にあると考えています」と小林氏。ペンバートン博士が、元気をもたらす薬を目指して開発したのが現在のコーラの原型だという。

 また、小林氏は子どもの頃から祖父の作業を見て、匂いを嗅ぎ、慣れ親しんでいた和漢方の考え方も大切にしている。祖父の和漢方工房「伊良葯工(いよしやっこう)」の名を受け継いで自身のコーラを「伊良コーラ」と名付け、ラベルにも祖父の開業年である1954年を刻んだ。

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祖父の和漢方工房を改築してつくった下落合の総本店。伊良コーラ工房に併設されており、土曜・日曜・祝日のみ営業。

東京ブランドとして日本の味を表現

 東洋にルーツを持つ飲み物としてのコーラにこだわると同時に、東京産として「伊良コーラ」を根付かせたいという思いも強い。「東京生まれ東京育ちのブランドは、それほど多くはないんです。2世代前の祖父の和漢方の調合技術を継いで完成させたクラフトコーラを東京産飲料として次代に残していきたい」と小林氏は言う。

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伊良コーラの「魔法のシロップ」をオンラインショップで販売。炭酸水を注げば店と同じ味を再現できる。

 目指す先は「コカ、ペプシ、イヨシ」と大手と並び称されるほど世界の人々に親しまれ、飲んでもらうこと。「日本を、飲む。」と題した、日本の食材を使ったクラフトコーラの制作にも挑戦している。クラフトコーラを語り部として、東京の味、日本の味が発信されるのだ。

伊良コーラ https://iyoshicola.com/
取材・文/田内しょうこ
写真/江森康之