世界一と呼ばれる、NECの生体認証技術で暮らしはどう変わる?

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 東京2020大会のスムーズな運営に大きく寄与したNECの生体認証技術。非接触型の認証システムの需要も高まる中、世界一と呼ばれる技術が脚光を浴びている。
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東京2020大会で採用されたNECの顔認証システム。Photo: Courtesy of NEC Corporation

東京2020大会を支えたレガシー

 生体認証とは、人間の顔・指紋などの身体的特徴や、声・歩き方などの行動的特徴によって本人確認を行う技術。東京2020大会では全43会場の入場ゲートに、日本電気株式会社(東京都、以下NEC)の装置が約300台設置され、選手やスタッフ、ボランティア、報道陣などの顔認証を行った。その数は、オリンピックで約40万人、パラリンピックで約30万人に上る。

 顔認証が大会運営に正式採用されるのは、オリンピック・パラリンピックの歴史上、初めてのこと。大会の裏側で安心・安全に貢献した、東京2020大会のレガシーの一つだと言える。

 また、大会期間中には大会関係者が宿泊したホテルで、顔と瞳の虹彩で本人確認をするNECのシステムが採用された。これは複数の生体認証を組み合わせた「マルチモーダル生体認証」と呼ばれる最先端技術で、一つの要素による認証に比べて精度が飛躍的に高まるため、さまざまな分野での活用が始まっている。

世界の80億人の認証が可能に

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目の虹彩を登録する機械。虹彩は2歳で安定し生涯変わらないため、生体認証で有効な要素だという。

 NECの生体認証研究は、遡ること1971年、指紋認証から始まった。顔認証、虹彩認証などへ広がっていき、ついには複数を合わせて認証する技術を開発したという。NEC生体認証・映像分析統括部の高島慎也氏はこう説明する。

 「顔の形状に加えて、右目と左目の虹彩という3つの要素を組み合わせることで、誤認率100億分の1以下の正確さを実現しています。世界の人口が2022年内に約80億人に達するとされていますが、確実に本人を認証できるシステムと言えます」

 その精度の高さは国際的に知られている。アメリカの政府機関であるアメリカ国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストで、初参加した2009に1位、さらに直近で2022年も1位を獲得。指紋認証や虹彩認証でも精度において、これまでにNo.1を獲得している。

 圧倒的優位を確立した大きな要因はアルゴリズムの性能の高さにある。同社は生体認証研究におよそ50年を投じ、培ったノウハウや膨大なデータを活用し技術を向上し続けた。たとえば、顔認証では表情の違い、年齢による容ぼうの変化、照明の明暗など、利用する条件が変わっても正確に顔を検出し、顔の特徴を分析して照合する。この検出と照合において他の追随を許さない。

 コロナ禍でニーズが増大したのが、マスクなどで顔の一部が隠れていても高い精度で本人確認ができる技術だ。NECの顔認証では、マスクを着けていてもその精度は99.9%。企業の入退館管理や、スポーツイベントでマスクをしていない観客を検知する実証実験も行われている。

顔決済でパスワードから解放される!?

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NEC生体認証・映像分析統括部のメンバー。左から高島慎也氏、菊池雅也氏、友水明澄氏。

 NECの生体認証技術は、国内外へ急速に広まっている最中だ。たとえば、顔認証を活用した空港での搭乗手続きや銀行の本人確認。顔、指紋、虹彩認証を組み合わせたインドやベトナムの国民IDにもこの技術が使われている。

 もう一つ、話題を呼んでいる技術が、顔認証による決済、いわば「顔決済」だ。顔の情報がクレジットカードや銀行口座とひも付き、手ぶらで買い物ができるというもので、国内のバスやホテルで既に実証実験が始まっている。同部の菊池雅也氏は利便性をこう説明する。

 「買い物をする時に財布からポイントカードを出して、次にクレジットカードを出してパスワードを入力して、と煩雑なステップを踏むことなく、顔を見せるだけでポイント登録から決済まで済ませられる。現代はたくさんのパスワードを管理する必要がありますが、生体認証で一括管理が可能になります」

 声や掌紋、耳音響、指動脈といった多様な生体認証技術を使い分けることで、作業現場での安全性、サービスの利便性や公平性などに広く貢献できるという。また、観光やサービス分野など、マーケティングへの活用も見込まれている。私たちの暮らしの安全を守り、生活のさまざまなシーンで利便性をさらに高めてくれるだろう。

取材・文・写真/一ノ瀬 伸