eスポーツ感覚でプレーできる、サイバーボッチャの面白さ

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 パラリンピックの正式種目でもある球技ボッチャを、eスポーツ感覚でプレーできるようにしたサイバーボッチャ。体験者が口々に面白いと話している。どのようにして誕生したのか?
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eスポーツパーク「RED°TOKYO TOWER」(東京都港区)で遊べるサイバーボッチャS。奥のモニターにプレーヤーと試合状況が映し出される。

テクノロジーでボッチャのゲーム体験を拡張

 ボッチャはシンプルな球技だ。最初にコートに放たれた白い目標球(ジャックボール)に向けて、赤と青の2チームに分かれて6球ずつスローイングし、持ち球を目標球により近づけた方が得点できる。重度脳性まひ者や同程度の四肢重度機能障がい者のために考案された球技で、投げ方や戦術は自由度が高く、奥が深い。

 2020パラリンピック東京大会では、日本が個人で金、ペアで銀、団体で銅メダルを獲得。日本での認知はほぼ50%に達し、障がい者団体だけではなく、企業や学生、子どもたちのチームも続々と誕生した。

 サイバーボッチャ(CYBER BOCCIA)ならびにその後継のサイバーボッチャSは、ボッチャのルールはそのまま、ゲーム体験をテクノロジーで演出したものだ。これらの機器を開発した、株式会社ワントゥーテン(1→10)の代表取締役社長で、日本ボッチャ協会の代表理事も務める澤邊芳明氏に経緯を聞いた。

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澤邊芳明氏は京都工芸繊維大学在学中に個人事業として起業、2001年に株式会社ワントゥーテンを設立。

 澤邊氏は18歳の時にバイク事故に遭い車椅子を使う生活を送るようになり、ボッチャを知ったという。日本財団パラリンピックサポートセンターのオフィスデザインやスローガンのクリエイティブディレクターを務めたことを機にパラスポーツの普及に尽力するようになった。

 「2016年のリオ大会の前は、日本でのボッチャの認知度は3%ぐらいでした」と澤邊氏。リオで日本の混合団体チームが銀メダルを取って少し話題となったが、まだ9割以上の人が知らない状況だったという。だが体力差にかかわらず、ボールを転がすことができればプレーできるボッチャは、広く関心をもたれる可能性があると澤邊氏は考えていた。着目したのは、一投ごとに審判がボールの間隔を計測し、審議するステップだ。

 「緊張感の高まる時ですが、場合によっては試合の流れを止めてしまい、観る人の興味がそがれてしまう可能性がありました。そこでデジタルツールを導入してパッと計測し、ゲーム感覚で体験できる装置があればいいのではと思い付いたのです」

 澤邊氏が率いるワントゥーテンは、AIXR(クロスリアリティ、仮想現実や拡張現実を扱う複合技術)などを用いてサービスやコンテンツを創出する会社だ。センシング技術によって瞬時にボールの位置を計測、ゲームを進行し、美しいビジュアルで演出するサイバーボッチャを開発した。

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2017年に発表した初代サイバーボッチャは、コート上の演出が特徴。Photo: Courtesy of 1-10, Inc.

これを進化させたのがサイバーボッチャSだ。試合状況とプレーヤーの様⼦がモニターに映し出され、競技者のみならず観戦者も一緒に楽しめるようになった。

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サイバーボッチャSの試合中の表示例。ボールが投下されるとモニター上にコートが白く表示され計測が始まる。ボールはボッチャと同じものを使用。
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素早く画面が切り替わり、計測結果が表示される。サイバーボッチャSは日本語・英語・中国語の3カ国語に対応。

パラスポーツをクールに演出し、普及させたい

 「ボッチャは、大きな可能性のあるスポーツ。なぜかというと戦略性、ゲーム性が高い競技でありながら、年齢や性差、障がいの有無を問わず誰もが楽しめるから。この競技をクールに演出し、心を動かす体験をつくり出して普及させたい。たとえば、サイバーボッチャの表示をプロジェクションマッピングで東京都庁の壁に映し出して観戦したら盛り上がるんじゃないでしょうか。また、ビリヤードやダーツのように、バーなどでお酒を飲みながらできるナイトスポーツとしてもサイバーボッチャを楽しんでもらいたいですね」

 現在、サイバーボッチャSは東京タワー・フットタウン内のeスポーツパーク「RED°TOKYO TOWER」に導入されている。より多くの人に体験してもらうため、ワントゥーテンはサイバーボッチャの簡易版ユニットの開発を進めているという。

 東京2020大会では選手村にサイバーボッチャSが設置され、国内外の有名アスリートが体験した。「競技人口を増やし、いずれボッチャをオリンピック種目にしたい」と話す澤邊氏。テクノロジーと出合い、新種のエンターテインメントとしての魅力も備えたサイバーボッチャがその勢いを加速するに違いない。

取材・文/岩崎香央理
写真/殿村誠士