希少動物を守れ!上野動物園のもう一つの使命

1989年から始まったズーストック計画とは
2021年、ジャイアントパンダの双子、シャオシャオとレイレイが誕生したことでも大きな話題となった東京都恩賜上野動物園(以下、上野動物園)。144,000平方メートルの敷地に約300種3,000点を飼育し、日本を代表する動物園として知られている。
上野動物園ではさかのぼること1989年、東京都が策定した「ズーストック計画」に基づいて、国内外の法律で保護されている種や減少している野生動物種の保全のために、飼育・繁殖に取り組み続けていることをご存じだろうか。「ズーストック計画」とは都立動物園が飼育展示する動物の一部を対象に、種の保存と個体群の維持を目的に計画的繁殖をする施策。この計画は、SDGsの17の目標の中で、「14海の豊かさを守ろう」「15陸の豊かさも守ろう」と掲げられている、生物多様性を保全する世界的なアクションと同調するものだ。どんな取り組みなのか、同園で教育普及課長を務める大橋直哉氏に話を聞いた。
「そもそも動物園には動物を楽しく見ていただくレクリエーションの場としての側面のほかに、『種を守る』という役割があります。園で飼育している動物を絶やさないよう、繁殖には力を入れてきました。1989年の第1次ズーストック計画では個体数を増やすことに主眼が置かれていたのに対し、2018年に策定された第2次ズーストック計画では、個体数の偏りが出ないよう、より適正な管理の下で計画的に繁殖させ、全国の動物園と連携して種の保存に努めています」

動物園・水族館で飼育している動物が国内で初めての繁殖に成功した際に、公益社団法人日本動物園水族館協会が授与する「繁殖賞」で、上野動物園は146件の受賞を果たしており、これは日本最多だ。ジャイアントパンダをはじめ、繁殖が難しいとされるスマトラトラやアイアイなどは飼育係の経験と情熱にも支えられて出産に成功している。「パンダは基本的に単独で生きる動物であることに加え、メスがオスの交尾を受け入れる時期が1年に1日か2日しかない。これを見極めて同居させなくてはなりません。無事に子どもが生まれても、双子の場合、親だけでは十分なケアができないため、24時間付きっ切りで母乳と人工ミルクを交互に与える必要があり、産後しばらくの間はスタッフも泊まり込みで世話をします」

園のゴリラも群れで生活できるように
園北側の奥にある「ゴリラ・トラの住む森」は、ズーストック計画によりニシゴリラとスマトラトラの繁殖を目指す施設として1996年に整備された。「ゴリラは群れで生活する動物です。そこで国内外の動物園から徐々に個体を移して増やし、野生のゴリラに近い群れづくりを行いました。2000年には当園としては初めてゴリラの繁殖に成功し、国内での繁殖基地としての一翼を担っています」。いまではスタンダードとなっている自然本来の環境に近い状態での飼育スタイルも、上野動物園が積極的に取り入れてきたのだ。

絶滅のおそれのある野生動物や植物を、動物園など人間の管理下で繁殖させて、野生の個体群に万が一のことがあった時に再導入が可能となるように、遺伝的多様性などを考慮して保持することで絶滅を回避することを「生息域外保全」と呼ぶ。上野動物園ではライチョウ(生息地:北アルプスおよび南アルプスなどの高山地帯)やルリカケス(生息地:奄美大島など)といった鳥類を保護し、人工繁殖して元の生息地域に戻すほか、小笠原諸島の固有種、アカガシラカラスバトや、陸産貝類のアナカタマイマイの繁殖も進めている。「東京から約1000キロメートル南にある小笠原諸島には固有種が多く、世界から注目されています。しかしながら年々激しくなる台風の影響などを受け、絶滅する種もあるようです。そんな危機的状況にあって動物園が果たす役割はますます大きくなるのではないでしょうか」

現在、日本の動物園では野生で捕獲した動物を輸入することなく、園内で暮らしている個体を増やし、持続させていく方向にある。園内の生き物を増やすに当たっては、本来の生態を守りながら動物にとってできる限り幸せな環境を優先して飼育することが大切、と大橋さんは言う。多様な動物の営みを守り、その豊かさや尊さを伝える、まさに大都会のオアシスなのだ。
写真提供/公益財団法人東京動物園協会