プラスチック・紙の代替として活躍する、新素材LIMEX

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 石灰石を主原料にした環境負荷の低い新素材「LIMEX(ライメックス)」。その開発・製造を行う株式会社TBMは、過去にテスラやLINEが受賞した「日米イノベーションアワード」で注目企業に選出されるなど、勢いのある日本発のユニコーン企業だ。東京都の支援制度も利用し、次々と新しい事業に挑戦しつづけている。
LIMEXの原材料となる石灰石(奥)とLIMEXペレット(手前)。熱で溶かして型に流し込むことによって、さまざまな製品に加工することができる。

環境に配慮した、石灰石主体の素材とは

 プラスチックの大量消費と廃棄、それに伴う資源の枯渇や温室効果ガスの発生は現代社会の大きな課題の一つ。このような状況のなか、「LIMEX」という新素材が注目されている。国内に資源が豊富にあり、輸入に頼る必要がない石灰石を主原料に、プラスチックと混ぜて成型することによって、印刷用紙、レジ袋、食品パッケージ、建築材料などさまざまな用途に使える素材だ。当初は木材パルプを使用せず水の使用量を大幅に削減した紙の代替品として注目されたが、現在ではむしろ石油由来樹脂の使用量を半分以下に抑えるプラスチックの代替品としての評価が高まっている。

 この新素材の開発に成功したのが株式会社TBMだ。代表の山﨑敦義氏は同社設立前の2008年から、台湾製のストーンペーパーという紙代替素材の輸入に携わっていたが、厚さの均一性や表面仕上げなどの品質が日本の顧客の求める水準に達せず、2010年に自ら新しい素材の開発に乗り出した。2013年に経済産業省のイノベーション拠点立地推進事業の補助金に採択されたことが、事業化を軌道に乗せる契機となり、翌年にはLIMEXの特許が承認されるとともに、補助金を利用して工場建設に着手した。

 その後2016年にLIMEX製の名刺販売を本格的に開始。さらに電通、凸版印刷、ラクスル、リコーなどと立て続けに共同開発や販売の契約を結び、着実に市場を広げている。20226月からは、持ち帰り総菜大手のRF1(株式会社ロック・フィールド)のパッケージとしての利用も始まり、一般消費者の目に触れる機会がますます増えていきそうだ。

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チラシ、ポスター、地図などの紙の代替品に加え、食品容器、日用雑貨、建築資材などLIMEX製品は多岐にわたる。耐久性・耐水性に優れている。

創業期からグローバル展開を視野に

 TBMはサーキュラーエコノミー(循環経済)の社会実装や気候変動に対するアクションという世界規模の課題にチャレンジしており、創業当初から海外でのビジネス展開を視野に入れてきた。世界には水資源が不足し、木が生えていないため、紙の多くを輸入に頼っている国がある一方で、石油資源の枯渇という不安に直面している国もある。

 「それらの国には日本から製品を輸出するのではなく、現地のパートナーと連携し、我々が技術指導を行い、運営は彼らに任せるといったビジネスモデルを志向しています。工場建設によって、現地に雇用を生み出すこともできます」と株式会社TBM経営管理部の坂井宏成氏は語る。モンゴル、中国などで、現地生産に向けた事業提携を行っているほか、2021年にはベトナムに現地法人も設立した。

 同社LIMEX事業本部の河上哲也氏は「20217月に石油精製業や通信事業を軸とする韓国の企業、SKグループと資本業務提携を締結しました。SKグループ内の化学メーカーが所有している生分解性の素材とTBMの技術を組み合わせて、生分解可能なLIMEXの開発に取り組んでいきます」と話す。

飛躍をサポートした東京都の支援制度

 現在、TBMのすべての製品開発は、東京都荒川区にあるテクノロジーセンターで行われている。そこで開発された製品が宮城県内の工場、さらにはベトナムをはじめとする海外の生産拠点で量産されるのだ。

 荒川区に移転する前は、東京都江東区の東京都立産業技術研究センター内にラボを置いていた。「ベンチャー企業には成長の過程で、乗り越えなければならない課題がたくさん出てきますが、東京都の支援制度は助成金を出して終わりではなく、施設を用意してくれて、ハンズオンの形でさまざまな相談にも乗ってくれました」と坂井氏は語る。

 2017年には、LIMEXが「東京都トライアル発注認定商品」に選ばれ、都営地下鉄のノベルティや東京マラソンの給水用コップに採用された。また、LIMEXは、世界40カ国で基本特許を取得しているが、一部の特許申請にも東京都の助成制度を活用している。「特許の重要性を感じながら、取得にかかる時間と費用のために断念するベンチャーが多いなか、東京都の支援を受けることができて、とても助かっています」

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TBM本社入り口には、石灰石が山のように積まれている。左から経営管理部の坂井宏成氏、ブランド&コミュニケーションセンターの酒井菜摘氏、LIMEX事業本部の河上哲也氏。

資源の循環利用を推進する取り組み

 LIMEX製品は純粋な紙やプラスチックとは異なる成分が含まれているため、処分する際は自治体の古紙回収やプラスチックのリサイクルに出すことはできない。リサイクルする場合は専用の回収ボックスに持っていく必要があるなど、LIMEXのリサイクルについては課題も多かった。そこでTBMは神奈川県横須賀市に、LIMEXとプラスチックを回収・自動選別して、再生ペレットを製造するリサイクルプラントを建設し、2022年11月から稼働を開始した

 ほかにも、使用済みのプラスチックなどの再生材料を50%以上含む「CirculeX(サーキュレックス)」という再生素材の普及を進めている。SDGs達成に向けた取り組みの加速が求められている今、意識的に環境に配慮した素材に切り替えたり、サステナブルな商品を購入したり、より一層一人ひとりの行動が大切になってくるだろう。

取材・文/熊野由佳
写真/殿村誠士