開館150年を迎え、東京国立博物館が所蔵する国宝89件を公開

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 今年、開館150年を迎えた東京国立博物館が、その歴史上初めて、所蔵する国宝89件をすべて公開する展覧会を開催。会期は2022年10月18日~12月11日だ。
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東京国立博物館の本館(日本ギャラリー)。1938年開館。

貴重な文化財を収集・保存する重責を担うミュージアム

 良質な日本の旅行ガイドブックであれば必ず、訪れるべき場所の一つに挙げているであろう、東京国立博物館(東京都台東区)。緑豊かな公園の一角にある重厚な建物には、初めて訪れる人もリピーターも驚嘆させる、日本とアジアの優れた美術品が多数収められている。今年は創立150周年を記念し、その膨大なコレクションにおいて、最も貴重な所蔵品である国宝89件をすべて公開する特別展が開催。この日本文化の宝を見るためには、事前予約が必要だ。ここではチケットの入手方法を含め、この博物館について知っておくべきことを紹介しよう。

 『国宝 東京国立博物館のすべて』の会期は、20221018日から1211日まで。第1部で圧巻の国宝の数々を披露。続く第2部では、創立150周年を記念する展示にふさわしく、1872年(明治5年)に発足したこの博物館の歩みを、貴重な写真や史料とともに振り返る。当時、誕生して間もない明治政府は、急激な工業化と西欧化の波から文化財を守るため、全国から美術品や工芸品を集めた博覧会を開いた。現在、東京国立博物館は、日本最古かつ最大の総合博物館として、京都国立博物館や奈良国立博物館、九州国立博物館などの総合博物館と、国立近代美術館や国立民族学博物館(大阪)、国立科学博物館などの専門博物館からなるネットワークにおいて至宝的存在となっている。

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『古今珎物集覧』一曜斎国輝筆/1872年(明治5年)/全期間展示 東京国立博物館の起源となった1872年の湯島聖堂博覧会を描いた錦絵。近代日本による文化財保護の始まりが記録されている。

国宝とはなにか?

 実のところ日本には、優れた美術品や文化財を保護する制度や仕組みがかなり早くから存在した。有名な例は、8世紀に建てられた奈良の正倉院だろう。今も東大寺の敷地内にあり、仏具類などの貴重な品が保管されている。また、絵画や刀剣など、さまざまな宝物が全国の寺社や、かつての公家や武家の一族により代々保管されている。ただ、戦災や天災によって失われた品も少なくない。

 現在、最も重要な文化財の多くは国公立または民間の博物館に収集・保管されており、研究や公開の対象となっている。このうち特に貴重な文化財や建造物は「国宝」に指定され、その取り扱いや公開方法には厳しいルールが適用されている。東京国立博物館は、国内のどの博物館よりも多くの国宝を所蔵している。

 2022年10月現在、日本の国宝は1,131件。これには建造物、彫刻、絵画、書跡、考古品が含まれる。最も古い国宝は縄文時代中期(紀元前3000〜紀元前2000年)の作とみられる土偶「縄文のビーナス」(茅野市尖石縄文考古館蔵)。最も新しい国宝は、1909年(明治42年)に完成し、現在は迎賓館として使われている東京都港区の赤坂離宮だ。

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江田船山古墳出土品(金製耳飾)/5〜6世紀/全期間展示 この時代、こうした金細工の装飾品は珍しく、朝鮮半島を経て日本に伝わったとみられ、地位ある者の象徴となった。
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『八橋蒔絵螺鈿硯箱』尾形光琳作/18世紀(江戸時代)/展示期間:2022年11月15日〜12月11日 漆塗りの硯箱。金蒔絵と螺鈿が施されている。

外国文化の影響

 日本の国宝は、日本で生まれた品だけではない。陶磁器や銅器や書跡、写経など国宝の約1割は外国(ほとんどは中国)からもたらされ、その歴史的・芸術的価値ゆえに長年大切に保管されてきた。中国・南宋時代の宮廷の画院画家、李迪(りてき)による『紅白芙蓉図』がいい例だろう。酔芙蓉を精緻に描いたこの絵は、15世紀に日本にもたらされ、掛け軸に仕立てられ、愛でられてきた。この作品が貴重であるゆえんは、現存する李迪の最高傑作の一つであることに加えて、「慶元丁巳歳李迪画」という落款から、李迪が12世紀後半に活躍したことが示されているからだ。

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『紅白芙蓉図』(白芙蓉)李迪筆/1197年(南宋時代・慶元3年)/絹本着色/展示期間:20221018日〜1113

刀剣の世界にどっぷりつかる

 多くの来場者にとって、刀剣と刀装具も大いに関心がかき立てられるだろう。日本刀はもともと武器として作られたが、時代とともに、武士や公家を象徴する品として進化した。美しく仕上げられた刀は褒美や貢ぎ物として贈られたり、神社仏閣に奉納されたりすることも多かった。国宝に指定されている刀剣・刀装具が百数十件あるのもそのためだ。このうち東京国立博物館は19件を所蔵しており、やはり今回の展覧会ですべて公開される。

 会期中、館を訪れるのは1回のみという方にも幸いなことに、刀と刀装具は全会期にわたり展示される。これに対して、一部の絵画や彫刻は傷みやすいため、会期中に入れ替えられる。従って、お目当ての国宝があるなら、展覧会公式サイトならびに出品作品リストで展示期間を確認した方がいいだろう。

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『太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)』/10~12世紀(平安時代)/全期間展示 徳川家に伝わる名刀。
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『梨地螺鈿金装飾剣』12世紀(平安時代)/全期間展示 漆細工の鞘に螺鈿の宝飾が施され、飾金物には透かし彫りがなされた儀杖の剣。

日本画の最高傑作

 絵画でとりわけ注目されるのは、16世紀の画家・長谷川等伯による『松林図屛風』だ。墨の濃淡と巧みに用いられた余白によって、深い霧に包まれた松林を大胆に描いている。その圧倒的な画技を堪能するためには実物を見てほしい(本展での公開は20221030日で終了するが、2023年1月2日~15日に本館7室で展示される)。やはり16世紀の名匠・狩野永徳が檜の巨木を描いた『檜図屛風』もお薦めだ。迫力あふれる豪華絢爛な絵は、現在は41双の屏風であるが、もとは京の公家の邸宅の襖絵だった。この『檜図屛風』と李迪の『紅白芙蓉図』は、日本郵便から1012日に発売された記念切手「国宝シリーズ第3集」にも使われている。

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『秋冬山水図』(冬景)雪舟等楊筆/15〜16世紀(室町時代)/展示期間: 2022年10月18日〜11月13日 同じ景色の秋と冬を描いた2幅のうち、冬の方。
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『松林図屛風』(右隻)長谷川等伯筆/16世紀(安土桃山時代) 奥深い感動を与える水墨画の傑作。※『国宝 東京国立博物館のすべて』の展示は2022年10月18日~30日で終了、2023年1月2日~15日に「創立150年記念特集 戦後初のコレクション 国宝『松林図屛風』」(本館7室)にて展示される。
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『檜図屛風』/狩野永徳筆/1590年(安土桃山時代・天正18年)/展示期間:2022年11月1日~11月27日 金地濃彩の迫力あふれる屛風。
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特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』は、正門から入り左手に進んだところにある平成館で開催されている。

東京国立博物館創立150年記念
特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」

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会期:2022/10/18~2022/12/11
会場:東京国立博物館 平成館
東京都台東区上野公園13-9
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9時30分~17時 ※金、土は20時まで。入館は閉館の30分前まで
休館日:月
料金:一般¥2,000 事前予約制、詳細は公式サイトをご覧ください。
http://tohaku150th.jp/
https://www.tnm.jp/
文/アリス・ゴーデンカー
翻訳/藤原朝子
写真提供/東京国立博物館(掲載した作品はすべて東京国立博物館所蔵)