東京から世界へ。アジア地域の報道のハブ「外国人記者クラブ」

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 東京・丸の内にある日本外国特派員協会(以下FCCJ)は、外国人の報道関係者が長年取材の拠点とし、各界の要人の記者会見が開かれてきた場所だ。この歴史ある記者クラブについて、会長でブルームバーグ・ニュース編集主幹のピーター・エルストロム氏に話を聞いた。
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歴代会長の写真が飾られている壁。会員がボランティアで会長や理事を務めているという。

--FCCJはアジアで最も古い記者クラブだそうですね。

 1945年、第二次世界大戦の終了直後に創立されました。当時の日本は報道の自由があったとは言い難い状況でしたから、FCCJを創立した海外のジャーナリストたちは、新たな民主国家の誕生の瞬間に、民主主義を補完する自由で活気に満ちたメディアを確立したいという想いもあったのではないかと思います。また朝鮮戦争の際には、実は多くの外国人ジャーナリストがFCCJから世界にニュースを発信していました。FCCJの歴史はそんなジャーナリストたちによって形作られ、我々は彼らの功績を引き継ぎ、さらに発展させたいと願っています。

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FCCJの使命に共感する人ならば、外国特派員でなくても誰でも会員になれる。ジャーナリスト志望の学生なら会費は無料。

--他の記者クラブとの違いはどんなところにありますか?

 香港を始めアジアの幾つかの記者クラブを知っていますが、まさに長い歴史が、FCCJを特別な場所にしている面があるのではないでしょうか。また昨今のアジアでは、各地で報道の自由が脅かされています。その点日本にあるFCCJでは非常に強力で自由なメディアが活動していますし、昔から、たとえ物議を醸す可能性があろうと、その時々に最も重要な問題を明るみに出すことに注力してきました。これもFCCJの使命なのです。今なら例えば、旧統一教会問題やウクライナでの紛争、中国を取り巻く緊迫した状況などがこれに該当します。

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丸の内の端正な街並みを見下ろすレストラン「ザ・メイン・バー」。会員はレストランや図書館など館内設備を自由に使える。

--時代の変化と共にジャーナリストのニーズも変わりますよね。

 確かに大きく変わりました、よってFCCJもテクノロジーの進化を受け入れつつ、報道の自由と言論の自由の指標という我々の役割を引き続き果たせるよう、進化しなければなりません。

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昨今はフリーランスのジャーナリストが増えているため、設備の整ったFCCJのワークルームや図書館が有益だという。

 YouTubeの公式チャンネルもそんな試みのひとつで、記者会見を積極的に配信しています。FCCJの使命をアピールし、知名度を上げる効果があると考えていますので。ちなみに、東京都が都内ロケで協力している現在放映中のドラマ『TOKYO VICE』の原作者、ジェイク・エーデルスタインも会員で、彼はFCCJの設備を活用してポッドキャストを収録しているんですよ。

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駐日アメリカ大使による記者会見の様子。2022年に会長に就任したエルストロム氏が進行役を務めた。Photo: courtesy of FCCJ

--記者会見に招く方はどんな風に選んでいるのですか?

 FCCJには記者会見を担当する報道企画委員会があります。この委員会はふたりのジャーナリストがリーダーとなってまとめており、FCCJで記者会見をしたいと申し出た方々の中から招いたり、独自に候補者を探したりしながら、人選にあたっているんです。このところ非常にいい内容の会見が続いていますが、特に、旧統一教会の元二世信者である小川さゆりさん(仮名)が印象に残っています。彼女は大きな勇気を必要としたでしょうし、最近では最もエモーショナルな会見でした。

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「報道の自由と言論の自由を守り、日本と世界のジャーナリストの任務遂行を支える」という使命をもつFCCJ。数々の歴史的報道写真が飾られる。

 また中国人アーティストの艾未未さんの会見も良かったですね。中国共産党大会の直後だったので、習近平国家主席が三期目入りすることについて、率直な見解を聞かせてくれました。ロシアによる侵攻が始まったばかりの頃に来て下さったウクライナ大使のお話も印象的でしたし、我々は常に人々の考えに耳を傾けようとする姿勢を維持しています。誰でも会見を開けるというわけではありませんが、何か大切なニュースを世界に伝えたいと望んでいる方を、拒むことはありません。

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東京生活がすでに9年を数えるエルストロム氏。この街について大好きなことがたくさんあるといい、レストランの質や安全性を挙げる。「それに、自転車であちこちに楽に移動できるところも気に入っています。毎日渋谷から丸の内まで自転車で通勤しているのですが、東京の運転手はみなさん安全運転ですよね」。
取材・文/ 新谷洋子
写真/榊水麗