Correspondents' Eye on Tokyo:
映画プロデューサーのダン・スミス氏が伝える世界を動かす東京の物語

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 東京の人々とその文化から刺激を受ける米国出身のダン・スミス氏は、ジャーナリスト兼映画プロデューサーとして活躍する。東京の人々の物語を語り伝える責任、そしてその魅力について、話を聞いた。
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ダン・スミス氏。東京の自宅兼オフィスにて

--来日して22年になりますが、東京に来たばかりのころ、人々の姿勢に心を打たれたそうですね。

 東京は、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴと共通する国際的な雰囲気が魅力で、心を惹かれました。東京に息づく日本文化、高齢者への敬い、東京の歴史も大好きです。外国人を歓迎する東京の人々の熱量にも魅力を感じました。英語が全く分からなくても道案内してくれたり、助けてくれたりと、東京の人々は親切です。これは、出会いやつながりを歓迎する姿勢のたまものだと思います。私は日本語がそれほどうまくないのですが、そのことが東京の人々と私との会話の妨げになったことはありません。

 国際的コミュニティが一風変わっているのも、東京という街の魅力です。他の国では、互いに言葉を交わさなかったりすることがあるでしょうが、東京では、互いの違いはさておいて、「私たちは東京の中の、すばらしいコミュニティの一員だね」と皆一緒になって話をするのです。

--数週間前に米国から戻られましたね。米国への渡航にはどういう目的があったのでしょうか?

 日本の美容業界をリードしてきた山野家に関するドキュメンタリーの撮影を終了したばかりです。グローバル・ステージ・ハリウッド映画祭で上映され、最優秀賞を受賞しました。どんな機会であっても、世界に日本文化を紹介するよう努めています。ジャーナリスト兼映画プロデューサーとして、そうする責任が私にはあると感じているからです。

 他の国々にはない、日本だけの魅力が表現された物語を探求しています。山野愛子ジェーン氏は当時、ロサンゼルスに在住する10代の日系米国人でした。彼女はルーツである日本に戻ると、日本語と日本文化を学び直した後に家業を継ぎました。こういう話は米国にはありません。日本文化を学び直しながら、自身の米国的要素を日本に持ち込んで発展させていく両面を持った彼女の物語。伝統的な日本でありながら、新しい切り口で日本を見せてくれる点に興味をそそられたのです。

 彼女は日本に来たばかりのころは、社会に溶け込むのに苦労したそうですが、自分の祖母への人々の尊敬の念に彼女は触れます。そして、日本文化と茶道をさらに学び、自身のものとして受け入れるようになりました。

 私も彼女と同じような境遇にありました。当初はいろいろな面で苦労しましたが、今は忍耐強くなり、何事もすんなりと受け入れるようになりました。

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「自分の責任は東京の物語を伝えること」と語るダン・スミス氏

--東京で暮らし始めるに当たって、言語的な障壁をどうやって乗り越えましたか?

 言語のことは考えすぎてしまう人が多いと思います。多くの言語を操る私の母に教わったことがあります。母によると、人間の唯一の違いは言語だけだと。文化は違うかもしれないが、基本的には同じで善悪を信じ、家族を大切に思う精神的な存在。違いは言語にしかない。そして、言語のすばらしい点は流暢に話す必要がないことだ、と母は話していました。母によれば、ある言語を流暢に話しているときより、話そうと必死でがんばっているときのほうが称賛されたそうです。ネイティブスピーカーは、母が学ぼうとしている努力を評価したからです。外国語の単語をちょっと学んだだけでも、どれだけ相手に好感を与えるかにびっくりすると思います。東京に来て「嫌だった」と話した人は、私の記憶には誰一人いません。

--昨年にはカナダ出身でミュージシャンのランディ・バックマン氏と東京在住のミュージシャンのタケシ氏が東京でギターを交換した「ロスト・アンド・ファウンド(紛失と発見)」プロジェクトに携わったと聞いています。

 奇跡的な出来事についてお話しましょう。バックマン氏は抗がん剤治療を受けたばかりで、体調が優れず、日本への渡航は難しいだろうと考えられていました。渡航には家族を含め全員に反対されましたが、彼は来日して新しい人生を発見したそうです。日本に到着した時は、杖がないと歩行はままならない状態でした。ところが、日本を出発する時の彼は自分で歩いていて、冗談を言ったり寺を訪れたりと、まるで人が変わったようでした。彼によると、東京にいるだけで寿命が延びる感じがあったそうです。

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左から:ウィッシュ・リボン開会式での岡村チャーリー氏、山野愛子ジェーン氏、國元なつき氏、相川未薫氏、ダン・スミス氏
写真提供:ダン・スミス氏

--最近の作品では東京の人々について多く描かれていますね。東京の文化のどのような点が作品を特徴づけるのでしょうか?

 個人としての人生が全く異なっていても、日本とその文化への敬意については東京全体で共有されていると感じます。共通しているのは、東京の人々は日本を象徴しているという誇りを持っていること、エゴに流されずにこの日本の一都市を世界に対して、誇らしく発信していることです。東京の人々は「さあ、私たちの文化を、私たちが何者であるかをぜひ見てくれ」と心から求めているのです。

--東京や日本には世界に影響を与える力があるとお考えのようですが、この点について詳しく教えていただけますか?

 これは礼節、互いを思いやる心が鍵になっています。世界の他の国々には社会が分断されたところが多くありますが、日本人は互いに反感を持つことが少ないようです。日本人が日本人としての在り方を忘れず、他のことを二の次と考える姿勢に敬服します。

 日本を再び外国人が多く訪れるようになれば、彼らもこの姿に感銘を受けることになるでしょう。そして、その価値観を自国へ持ち帰りたい、と考えるのではないでしょうか。そうした思いやエネルギーを生み出すことができる数少ない国が日本だと考えています。

 先ほども話しましたが、世界がよく知らないが私は知っている、この日本独自の魅力を紹介していきたいのです。ジャーナリスト、映画プロデューサーあるいは監督として、これは私の責任だとも思っています。私は、自分が来日したことには意味があると考えています。「自分は日本に選ばれたのだ」と思っています。他にも行く国の選択はあったのに、私は日本にいるのですから、これは運命だとも感じています。ジャーナリズム業界、特にテレビ業界においては、日本のやり方は他国とは大きく違っていました。それでも、日本の人々は私のことを拒絶するより、助けてくれる人のほうが多かったのです。

--日本人野球選手に関する映画を制作中のようですね。日本の野球をご覧になっていますか?また、好きな球団はありますか?

 好きな球団は東京ヤクルトスワローズ!入団テストを受けさせてほしいぐらいですよ(笑)。忙しい中でも、時間があれば野球観戦にも行くようにしています。

ダン・スミス

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多くの受賞歴のあるジャーナリストで映画プロデューサー・監督。オーロラボレアリスエンターテイメント株式会社の設立者の一人。日本を拠点として22年間、FOX、NBC-ユニバーサル、A+E、ヒストリー・チャンネル、ナショナルジオグラフィック・チャンネル、FOXスポーツなどのネットワーク向けに、数多くのテレビシリーズ、ドキュメンタリーのプロデュースを行っている。AP通信、ハフィントンポスト、BuzzFeed、E!ニュースなど主要メディアへの執筆の経験もある。
取材・文/ パトリック・バルフ
写真/ キム・マルセロ
翻訳/ アミット