Chef's Thoughts on Tokyo:
ルイサ・アクニャ氏が語る都内初のパラグアイ料理店と仕事の喜び

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 都内初のパラグアイ料理レストラン「レストラン・アミーゴ」のシェフ、ルイサ・アクニャ氏は自分が異国の地で母国の食文化を紹介するようになるとは夢にも思っていなかったという。そんな彼女は現在、東京でパラグアイ大使館職員やカトリックの神父などの南米出身者を常連客に獲得、パラグアイ料理レストランの先駆者として活躍している。
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上野で靴を買ったり、渋谷でウィンドウ・ショッピングをしたりするのが楽しみだというアクニャ氏。

料理の仕事に打ち込む日々と出会い

 アクニャ氏は24歳の時に、母国パラグアイの首都アスンシオンで初めてレストランを開店した。夢を実現したというよりも、「自分にできることだったから」と、現実的な選択だったことを明かす。3年後には、アスンシオンを観光に訪れていた、日本と関わりのある韓国人の男性と出会い、結婚した。

 「夫は韓国での仕事を辞め、日本に移住しました。その後、夫は日本とパラグアイを行ったり来たりしていましたが、私たちはパラグアイで長く生活しました。最終的に夫が日本に戻ったのは20年ぐらい前のことで、私もその2年後に来日したのです」とアクニャ氏は話す。2人の息子はパラグアイに残ったものの、娘は日本で生活したいと、喜んで母とともに来日した。

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ミラネッサはレストラン・アミーゴで大人気のパラグアイの定番料理。

夫との愛から生まれ育てたレストラン

 アクニャ氏は夫が栃木県宇都宮市を拠点としていたため、迷いなくまずはそこでレストランを開こうと考えた。夫が韓国出身ということもあり、日本で最初に開店したこのレストランでは韓国料理とパラグアイ料理の両方を提供した。

 しかし、高みを目指したいと考えた夫は2015年、現在店をかまえる東京・赤坂の物件を見つけてきた。そしてレストラン・アミーゴを開店し、新たな生活拠点もこの地に移すことになった。心機一転ということもあり、アクニャ氏は客層を絞り込んだ。

 「東京にはすでに韓国料理店がたくさんあったので、パラグアイ料理一本にすることにしました」とアクニャ氏は語る。味わい深い料理から特製のデザートまで、メニューが豊富なレストラン・アミーゴでは、アクニャ氏の母国の食文化に触れることができる。そのおかげもあってか、すぐに意外な客が訪れるようになった。

 千代田区にある聖イグナチオ教会の2人のアルゼンチン出身の神父は、母なる故郷の大陸の味を求めて来店した。そしてお返しに、敬虔なカトリック信者のアクニャ氏に、彼女の母国語でもあるスペイン語で行われる近所のミサを紹介してくれたのだ。また、アクニャ氏は彼らに六本木にあるカトリック教会のフランシスカン・チャペル・センターのことも教わった。教会に通う人々と交流する時間こそないものの、アクニャ氏は母国語でミサに参加できることに大きな安らぎを感じた。

 こうした経験から、アクニャ氏はお店の役割に気づいた。「この店には南米出身の日系人も集まってくるんですよ。この人たちはいわば、お店を訪れることで自分の出身の南米に戻って来るんです。南米での勤務経験がある日本人の会社員もお店に立ち寄ります。料理を通し、『里帰り』を楽しんでいるんですね」とアクニャ氏は感慨深げに話す。

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レストラン・アミーゴを初めて訪れた客にアクニャ氏が特におすすめする料理の一つがエンパナーダだ。

身に染みる東京の快適さと治安の良さ

 移住して数年の間、アクニャ氏は家族で国内旅行をすることが多かったという。そんな中、栃木県の那須塩原市は故郷に似ていると感じ、彼女の心の拠り所となったという。

 家族旅行の交通手段を尋ねると、アクニャ氏は「ほとんど車です」と即答する一方で、日本の鉄道に寄せる情熱も語ってくれた。パラグアイには高速列車がないそうで、「新幹線が大好きです」と目を輝かせて話す。また、都民が当たり前のように利用している、地下鉄のスピードと利便性にも感心しているという。

 さらに驚かされたのは、駅の公衆トイレだという。「パラグアイではトイレのあるレストランやお店を探す必要があります。しかも、何か購入しなければ利用はできません」と彼女は言う。

 また、東京の街は比較的に治安が良いのが安心で、いつも娘が安全に一人で出歩けるという。さらに、アクニャ氏が感じる東京のもう一つの利点は、あらゆる種類の食材が豊富にあることだ。肉や野菜を買うのにも、故郷より東京のほうが便利だという。また、レストランにとって極めて重要なこととして、アクニャ氏は、東京の水道水を高く評価している。

 「いつも飲んでいますよ。しかも、不安を感じたことは一度もありません。結局、都内での生活の快適さと便利さが気に入っているんですね」と笑いながら話してくれた。

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レストラン・アミーゴの明るくアットホームな店内。

東京生活の楽しみ

 長年にわたり毎日、勤勉にお店で働いているアクニャ氏に余暇の時間はほとんどないという。しかし、息抜きの時間ができると、東京の活気ある場所を散策するのが大好きだ。

 「渋谷でのウィンドウ・ショッピングと人間観察、どちらもすごく楽しいですね」と彼女は打ち明ける。「渋谷のスクランブル交差点のような人混みは、パラグアイにはありません。私にとっては別の惑星みたいなんです。スターバックスで寛ぎながら、道行く人を眺めるのが大好きです!」

 また、一方で上野のアメ横もお気に入りという。靴の買い物の楽しさを思い出し、嬉しそうに話してくれた。「あそこ(アメ横)では、本当にいい靴が安く手に入るんですよ!」

一生懸命に働き幸せを分かち合う

 東京での目標を尋ねると、アクニャ氏は目を輝かせ、初めてお店を訪れた客の喜ばしい驚きの表情について話してくれた。「アサード(炭火焼ステーキ)のあまりの美味しさにびっくりしたお客さんの表情を見るのが楽しいですね!」

 母国で提供していたのとできる限り近い肉を手に入れるため信頼できる仕入れ先を探すのは大変だったという。

 エンパナーダもおすすめの一品だ。「お客さんの大半は故郷の味を求めて来店してくださっています。その希望に応えるために一生懸命やっています!」

 彼女は、東京に移住を考えている人々へ「懸命に働けば、きっと良い生活を手に入れることはできます」と激励する。一から道を切り開いた人だからこそ言える力強い言葉だ。

取材・文/ ローリエ・ティエナン
写真/ キム・マルセロ
翻訳/ アミット