ウェルビーイングを高める新たなアウトドア・スポーツの持つ可能性
日本は小さな村落から大都市に至るまで、健康的なライフスタイルで知られる。平均寿命は84.7歳と、世界一の長寿国である日本は、様々な基準において世界で最も健康な国としてランク付けされている。健康や幸福の指標となるウェルビーイングも全国的に高く、東京は都市の生活の質やウェルビーイングに関する数々のランキングで上位にランクインしている。
フィットネスを仲間で楽しめるものにする
アーバン・ヒーローズは、グループフィットネスのクラスやアクティビティを、都内の屋外や屋内、あるいはオンラインで提供している。ユン氏は2020年、彼女がフィットネスのコーチであることを知った地域の女性らと共に、この団体を設立した。
「コロナ禍もあったので、アウトドアで何かをしたいと思ったんです」とユン氏は言う。「日時を決め、希望する人は誰でも参加できるようにしました」
それから1年も経たないうちにメンバーは150人に急増し、現在は250人に上る。ユン氏だけでは対応が追いつかなくなり、他のインストラクターやコーチを雇い、ヨガやハイキングなど様々なクラスやアクティビティを提供するようになった。アーバン・ヒーローズはフィットネスクラスを開催するだけでなく、ブランチやコーヒーを共にするアクティビティや、メンバーのモチベーションを上げるグループ活動、パーティやイベントなど、コミュニティとしての機能をあわせて提供している。
「単に参加者にエクササイズをしてもらうだけではありません」とユン氏。「私たちは一緒に活動する仲間のようなもので、だからこの団体は成功しているのだと思います。つらいときに力になってくれる仲間がいるのです」
東京を健康にする要因とは
大都市におけるウェルビーイングは、健康的な都市環境、信頼できる交通手段、アクティブな生活のためのインフラ、そして思いやりとサポートがある環境に依存していると専門家らは強調する。
アーバン・ヒーローズは、東京が持つ最高の資源を活用し、健康、コミュニティ意識、ウェルビーイングを促進している。東京でアクティブなライフスタイルが実現できるのは、2つの大きな要因が融合しているからだとユン氏は指摘する。
1つ目は、綺麗な空気と、公園や庭園、神社仏閣などの豊富な緑地の存在だ。どの駅にもたいていは近隣に小さな公園があり、簡単にアクセスできるところに代々木公園、上野公園、砧公園、光が丘公園などの広大な屋外の緑地があるため、屋外でのフィットネスやアクティビティに利用するスペースがふんだんにある。
2つ目は、電車、地下鉄、バスという信頼性の高い公共交通インフラの存在だ。東京勤務の仕事の80%は、広く利用されている公共交通機関の1キロ圏内にあり、東京は交通安全においても世界をリードしている。どこに住んでいてもすぐに近隣の緑地に行けるだけでなく、都会から抜け出して自然に身を置くこともできるのだ。
「アウトドア・スポーツの質は飛び抜けています」とユン氏は言う。「ハイキング、海水浴、スキーにも簡単に行けます。大都市にこのような機会があるのは非常に稀です。公共のスポーツジムも豊富にあります」
さらに、栄養価が高く多様な食品が手に入りやすく、芸術や文化に触れながらクリエイティブな活動ができることも東京の強みであり、住民のウェルビーイングに貢献しているとユン氏は指摘する。
コミュニティなくしてウェルビーイングは実現しない
しかし、このようなインフラを活用するためには、人とのネットワークが重要だ。人を思いやる協力的な環境が、精神面の健康に寄与するだけでなく、身体的な健康をもたらすフィットネスに取り組む重要な動機付けにもなっている。
「人は自分の居場所がほしいものです」とユン氏。「仕事で東京に来た外国人の配偶者やパートナーにとって、これは切実です。パートナーが同じ仕事、あるいは似たような仕事を続けられれば、新しい街でも職業人生にはほとんど変化がありませんが、プライベートの生活は180度変わってしまうのです。そうした状況ではコミュニティが特に重要です」
東京には、アウトドアの活動をするあらゆる種類のクラブやコミュニティがある。自分に合ったコミュニティを見つけるのは難しいように思えるが、ユン氏は、東京に来たらまずはフェイスブックを活用するのがおすすめだという。「Tokyo Expat Network」というグループには3万7000人のメンバーがおり、そのほとんどが東京在住者だ。たとえば、ランニングやハイキングのグループはあふれるほどあるが、活動の拠点が自分にとって便利な場所かどうかを把握する必要がある。フェイスブックのグループやその他のソーシャルメディア、ローカルな英字雑誌は、社会的なネットワークと健康的なライフスタイルを育むための最高の出発点になる。
広尾の有栖川宮記念公園を中心に活動するアーバン・ヒーローズの他、フィットネス好きなら浜松町のグループワークアウトジム「F45」、白金のアウトドアトレーニングジム「インテンシティ・マターズ」などもある。ランニングやトライアスロンのクラブなら「トライアスロンin 東京」、「スクランブルド・レッグス」(水曜日にランニングを実施)、「ジングウ・ジョガーズ」(火曜日と木曜日にランニングを実施)、ハイカーには「アウトドア・クラブ・ジャパン」や「東京ハイキング・グループ」がおすすめだ。
これらのグループに共通しているのは、フィットネスとコミュニティの橋渡しをしていることだ。都内の商業ジムやフィットネスブランドさえも、近年はコミュニティ形成に力を入れ始めている。
「フィットネスに必要なのは、マシンの設置やクラスを開催することだけではありません」とユン氏は言う。「身体的な部分はウェルビーイングの一面に過ぎず、社会的な側面やコミュニティの感覚を育めることが、精神面で役立つのです」
ジムやブランドには商業的なメリットもある。参加者は良いコミュニティには友人にも入ってほしいと望むため、企業のコミュニティ戦略として顧客が無料でマーケティングを担ってくれることになる。
世界保健機関(WHO)は、健康の定義を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」としている。アーバン・ヒーローズなどのグループは、こうしたより良い健康基準を満たすための素晴らしいモデルを提供している。緑豊かな公園で熱心に体を動かし、その後は、近所で新旧の友人たちとコーヒーを囲んだりするのだ。
「東京には誰もが参加できるコミュニティがあります」とユン氏は言う。「身体、精神そして社会性のバランスを全体として保つことができれば、最高の気分になれます」
写真/マイケル・スミス
翻訳/前田雅子