東京での留学経験を活かし、北欧と日本をつなぐ
ビジネスの多様性を学ぶため、東京の大学を選択
母国フィンランドのアアルト大学でマーケティングを専攻していたカルヴォネンさんは、同大学大学院へ進学し、国際デザインビジネスマネジメント(IDBM)と欧州マネジメント研究組織(CEMS)の2つの資格を取得。大学在籍中に東京の大学への短期留学を二度、経験した。「2014年、一橋大学の商学部に短期の交換留学をしました。語学や日本文化を学びながら他の留学生とチームを組み、ビジネスに対する意見交換をしました。日本をはじめ、アジアの学生たちの多様な価値観に触れた貴重な体験でしたね」
その後フィンランドに戻り、大学院でデザインシンキングを取り入れたビジネスプログラムに取り組むことで、より明確なビジョンを持つようになった。「デザインシンキングとは、ビジネスやエンジニアリングをユーザーの視点に立って捉え直し、各分野をうまく連携させていく方法論です。そもそもアアルト大学はビジネス、デザイン、アート、エンジニアの専門学校が統合してできた大学で、IDBMはその核となるプログラムです。私はIDBMの前段階として、世界20カ国の大学で実施しているCEMSの資格を取得するため、日本の慶應義塾大学を選びました。ちょうどこの時期、慶應がコンビニエンスストアのローソンと共同プロジェクトを行うという情報を得たのです。北欧やヨーロッパとは大きく文化の異なる日本でビジネスに触れるまたとないチャンスだと思い、即、応募しました」
2017年に再び日本へやってきたカルヴォネンさん。慶應義塾大学の大学院ではメディアデザイン研究科に在籍。CEMSプログラムの一環として、ローソンの本部や物流センターを訪れ、店舗スタッフに話を聞き、現場から大いに学んだという。「講義では、さまざまな提案をしました。サービスロボットやキャッシュレス化を導入し、店舗を自動化するアイデアは、現状でも通用するのではないでしょうか」。大学院の卒論のテーマは「エンパシー(共感)」。ユーザーが何を望んでいるのかを的確に見極めてはじめて共感が得られることを、異文化で学んだ経験を生かしながら持論を展開した。
異文化交流こそが、オープンイノベーションの鍵
アアルト大学で卒論を執筆中に駐日フィンランド大使館の商務部でインターンのポストを得て、卒業を挟んでそのまま滞在。そして2020年、北欧5カ国(スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド)の在日大使館が連携して東京にビジネスプラットフォームを設立するというニュースを聞いたカルヴォネンさんは真っ先に手を挙げた。「NIHは異文化におけるテクノロジー系企業の進出の架け橋となる仕事で、まさに私が経験してきたことが活かせる職種だと思いました。具体的には北欧の成長企業の訪日ビジネスツアーや投資家とのマッチング、展示会開催に際して橋渡しをしています。コロナ禍ではオンラインが中心でしたが、昨年から少しずつリアルな交流が始まりました」
2021年10月には北欧16社のヘルステック企業の訪日ツアーをサポート。展示会場に案内したり、投資家との交流の場で双方のコミュニケーションを手助けしたりした。「電子カルテやヘルスアプリケーションを手がける注目の企業を日本に紹介しました。これはとても好評で、今年も開催する予定です」。NIHは北欧企業の海外進出促進が目的だが、時には日本の企業から海外進出についての相談を受けることもあるという。「日本には立派な企業がたくさんありますが、国際的なコネクションが少ないのが実情です。北欧と日本、双方のビジネスにとって少しでもお役に立てたら嬉しいです」
東京の大学での留学体験がなければ、現在の職業には就いていなかった、とカルヴォネンさんは言う。「日本はこれまで企業内イノベーションに力を注いできた結果、現在もGDP 世界3位につけています。これからは世界に目を向けるオープンイノベーションの時代です。北欧のビジネス事例を紹介しつつ、双方のコミュニケーションが広がることを期待しています」
ニコラス・カルヴォネン
www.nordicinnovationhouse.com/tokyo
写真(ポートレート)/藤本賢一