東京の「食の多様性」はどうなるのか!?最前線をレポート

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 守護彰浩氏がフードダイバーシティを設立した2014年当時、たいていの日本人はビーガンという言葉さえ聞いたことがなく、ハラール、コーシャ、グルテンフリーなどは言うまでもなかった。しかし、日本、特に東京の食の多様性の現状は、近年大きく変貌を遂げた。
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インバウンドの回復とともに、東京では食の多様性に再び注目が集まっている。Photo: iStock

東京の食の多様性の今

 202211月の時点で、東京にはベジタリアンやビーガン、またはベジタリアンの方も食べられるメニューが提供されているレストランやスーパー、ケータリングサービス、フードトラック、屋台が914軒ある。この数は、世界中のビーガンレストランをウェブサイトとアプリで検索できる「Happy Cow(ハッピーカウ)」に登録されているものだけでだ。このうち、ビーガンレストランが112軒、ベジタリアンやビーガン向けのメニューがあるレストランが500軒以上含まれている。また、ハラールグルメには東京23区内のハラールレストランが299軒、ファインド・ミー・グルテンフリーにはグルテンフリーレストラン50軒が登録されている。

 守護彰浩氏が立ち上げたフードダイバーシティは、ハラール、ビーガン、ベジタリアン、植物性食品の情報を提供するとともに、食物アレルギーの啓発や日本における食の多様化を推進している。「設立当初は、食の多様性といってもまったく理解してもらえませんでした」と守護氏は言う。「でも今では、一般的な日本人はそうした食の選択肢を知っています。日本人はたいてい何でも食べますが、最近はベジタリアンが増えています」実際、日本の人口の2%以上がベジタリアンであり、政府のデータによると、20182020年の2年間でその数はなんと倍増している。

 食の多様性の理想は、食の要望に関係なく、誰もが同じ食卓を囲んで食事ができることだ。つまり、ベジタリアンやビーガン向けのメニューだけでなく、宗教上の制約やアレルギーに対応した選択肢も提供される必要がある。「コロナ前は、東京は多様な食のニーズを持つ人々にとって、非常に快適に食事ができる場となりつつありました」と守護氏は言う。「しかし、パンデミックでインバウンドが途絶えたため、近年はあまり進んでいません」

 2010年代に東京の食が変貌を遂げた2大要因として、守護氏は訪日外国人客と在留外国人の増加を挙げる。2010年に約800万人だった訪日外国人客は、2019年には実に3200万人にまで増加し、在留外国人は同期間で50%増の300万人近くとなった。

 地域のレストランや食品業者が外国人のニーズに徐々に応えていく中で、日本人にも新しい料理を紹介し、代替となる食事への関心や意識を高めるという波及効果が生じた。「特に、ルールに縛られるわけでもなく、肉食を減らそうとする人が増えています」と守護氏は指摘する。「日本の若者がベジタリアンやビーガンになる最大の理由は、健康や環境のためです」

伝統的な料理から流行のものまで幅広い選択肢

 日本社会は農業を基盤としているため、ベジタリアンやビーガンの料理は以前から食文化の一部だった。「伝統的な日本料理は、食の多様性の基盤になり得ます」と守護氏は言う。枝豆、冷奴、がんもどきなど、日本食は野菜がベースとなっているため、現代の東京の食品事情は、食の多様性を受け入れるのに理想的な環境といえる。

 しかし、都内のレストランは、伝統的な菜食主義を超えて進化し続けることで成功してきている。流行のレストランの1つが、2018年に自由が丘にオープンしたビーガンレストラン「菜道」だ。伝統的な和食料理から、ウナギなど人気の和食のビーガン版へとシフトすることで、外国人観光客にも日本人にも注目されている。ワクワクするようなメニューのほとんどは非常に斬新なものだ。もう1つの代表的な例が、渋谷パルコ内にある賑やかなビーガン居酒屋「真さか」だ。2020年にオープンしたこの店では、植物由来の唐揚げや餃子の他、居酒屋の人気メニューを提供している。

 東京のスーパーや食料品店も、食の多様性を高めるための役割を果たしている。広尾や田園調布にも店舗を構えるナショナル麻布は、家畜の放し飼い、オーガニック、ハラール、コーシャの商品を明確に表示し、添加物や抗生物質を含まない食品を提供している。代々木上原の東京ジャーミイ・ハラールマーケットや、早稲田のハラール東京カリベルのようなハラール食品スーパーも近年増えている。

アレルギー対応は喫緊の課題

 守護氏とフードダイバーシティがいま最も関心を寄せているのが食物アレルギーだ。同社は、学校給食でアレルゲンフリーのおいしいメニューを開発する「ワンテーブル・デイ」の取り組みを行っている。「子どもの約1割が何らかのアレルギーを持っています」と守護氏は言う。「他の子どもと同じ食卓で食べることのできない子たちです。私たちは誰もが同じ食卓を囲める方法を探しています」

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ワンテーブル・デイは、食物アレルギーを持つ子どもが給食の時間を心地よく過ごせるようにする取り組みだ。

 見た目においしそうな料理は、特に子どもにとっては大きな影響がある。日本の伝統的なアレルギー対応食は、味気なく見え、食欲をそそらないものが少なくない。そこでフードダイバーシティは、米麺を使った小麦アレルギー対応の焼きうどんや、小麦と牛乳、卵を使わないパンケーキを開発し、就学前児童に提供したところ大好評だったという。

 守護氏によると、近年、日本の飲食店のアレルギー対応は、意識が高まっていることもあり、向上している。「ハラールやベジタリアン、ビーガンの人にとっては、間違いは致命的なものではありません。しかし、アレルギーは命にかかわります。そのため、この問題に対する緊急性が違うのです」

 東京の食品事情においてアレルギー対応の次に重要なのは、ベジタリアンフードの選択肢を増やすことだと守護氏は言う。「ベジタリアンの市場は非常に大きいため、ビジネスの観点からすると、次に力を入れるべきです」

 東京の食は短期間で大きく変化し、食の多様性や誰もが安心して食べられる食事への関心が高まっている。「インバウンドの回復に伴い、多様な食へのニーズも増加しています」と守護氏は言う。「日本はこれまで以上に、こうした要求に応える必要があります」

取材・文/エリック・マーゴリス
写真提供/フードダイバーシティ株式会社
翻訳/前田雅子