ヴィンセント・フィリップ氏が語る、東京が起業家にとって最高の市場である理由

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 ヴィンセント・フィリップ氏は、米シリコンバレーの有力なイノベーションプラットフォーム「Plug and Play」でキャリアを積んできた。同社は、アクセラレーター兼ベンチャーキャピタルで、PayPalやDropboxの初期投資家でもある。日本法人Plug and Play Japanの設立を決意した経緯や、東京でスタートアップ・エコシステム(新規事業を生み出すビジネス環境)が成長している理由を聞いた 。
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Plug and Play Japanの東京オフィスの一角には、日本を象徴するイラストが描かれている。

--ご経歴とPlug and Play Japanを率いることになった経緯を教えてください。

 私はカリフォルニアで生まれ、幼少期のほとんどを日本で過ごしました。教育は主に英語で受け、カリフォルニア州のサンディエゴ州立大学へ進学しました。キャリアのスタートは日本の商社で、シリコンバレーで採用されました。貿易、営業、マーケティングを担当し、米国の新たなスタートアップや技術を日本企業に紹介していました。スタートアップのプレゼンを聞いて日本のクライアントに合いそうな企業を選ぶ仕事をしていましたが、クライアントとそうしたスタートアップとのマッチングを実現するのはなかなか難しかったのです。そんな中で出会ったのが、新しいスタートアップと大手企業とのマッチングの機会を提供するハブの役割を担っていたPlug and Playでした。もっと新しく、スピード感がある、大きなことがしたくて、2014年にPlug and Playに入社しました。

 当社のビジネスモデルはいくつかあり、まず、ヘルスケア、モビリティなど業界別の3カ月間のアクセラレータープログラムを通じてスタートアップを支援しています。また、パートナーである大手企業と協力し、次の大きなビジネスを生み出すことを目指して、半年に一度、優秀なスタートアップを選び、大手企業と結び付けています。世界的には、年間でスタートアップ200社以上に投資しています。Plug and Playのオープンイノベーションのバリューチェーンを通じて、イノベーション戦略に関する企業コンサルティングも行っており、当社は自らを「イノベーションプラットフォーム」と呼んでいます。成長を目指すスタートアップや、イノベーション戦略にこうしたプラットフォームを取り入れたいと考えている企業にとってのワンストップショップになりたいと思っています。

--Plug and Play Japanを設立した経緯を教えてください。

 シリコンバレーでは大手企業数百社と仕事をしていましたが、そのほとんどが米国企業で、2番目に多いのが日本企業でした。多くの日本企業がシリコンバレーを訪れ、エコシステムを研究していました。Plug and Playに賛同する日本企業もあったことから、日本語を話せる私は、多くの日本企業のシリコンバレーへの進出を支援し、トレンド情報の提供もしていました。そうした結果、Plug and Playに大きな日本のコミュニティができたことで、日本に潜在的なビジネスチャンスがあることに気づいたのです。最終的に日本法人を設立したいと思ったのは、大きなチャンスを感じたこともありますが、日本で育った私自身の出自も一因です。CEOに話すと、強い関心を持ってくれました。それで2017年に来日し、最初のオフィスを立ち上げました。

--貴社の日本におけるビジネスモデルの特徴を教えてください。 

 日本でのビジネスモデルは、シリコンバレーのモデルと非常によく似ています。東京、大阪、京都で、フィンテック、インシュアテック(保険とテクノロジーを組み合わせた造語)、モビリティ、ヘルスケア、エネルギー、スマートシティ、マテリアル(素材)、フード&ビバレッジの8つの産業別アクセラレータープログラムを提供しています。当社の強みは、日本だけでなく世界45カ所の拠点に世界中のトップ企業やスタートアップが集まって、これらの産業別コミュニティを擁していることです。こうしたグローバルな側面も差別化要因となり得ます。世界中の事例を日本に反映させ、オープンイノベーションの知見を活かして、日本のエコシステムに付加価値を与えることができるのです。日本ではこれまでに800社以上にアクセラレータープログラムを提供しており、その半数は日本企業で、残る半数は外国企業です。シリコンバレーにおける日本のスタートアップ成功例の1つはTBM社で、石灰石を主原料にしたリサイクル可能な製品を「LIMEX(ライメックス)」というブランドで展開しています。同社の評価額は現在10億ドルを超えており、日本では有数のユニコーン企業の1つです。

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Plug and Play Japanは、東京の他、大阪と京都にもオフィスを構えている。東京で暮らすヴィンセント・フィリップ氏だが、年末年始は家族と京都で過ごしたという。

--東京のスタートアップ・エコシステムの特徴はどのようなものですか?

 日本のエコシステムは独特で、文化や言語の壁という点に難しさもあります。とはいえ、経済規模は世界第3位で、フォーチュン500やフォーチュン2000に入る企業が何十社もあります。非常に高度な技術を持つグローバルな大手企業は、スタートアップや世界の企業にとって素晴らしいパートナーとなります。5年前でも日本におけるスタートアップの動きはまだ初期の段階にありましたが、国や東京都は、スタートアップのイノベーションを推進し、海外から企業を呼び込むことは急務であるとしています。企業や大学も起業家育成プログラムを推進し、海外の投資家も日本のスタートアップへの投資に関心を示しています。こうしたことが、日本のエコシステムをグローバルスタンダードに押し上げつつあり、それは米調査会社スタートアップ・ゲノムの「グローバル・スタートアップ・エコシステム・ランキング」などにも表れています。

--スマートサービス実装促進プロジェクト「Be Smart Tokyo(ビー・スマート・トーキョー)」における東京都と貴社のパートナーシップと、その重要性について教えてください。

 「Be Smart Tokyo」プロジェクトは、東京をスマートシティにするという東京都のビジョンのもとで生まれました。当社はこのビジョンに合致するスタートアップを探索、発掘します。東京を実証実験の場として、こうした企業がデータや地の利を活かしてソリューション(課題解決ビジネス)を試し、このビジョンに付加価値を与えます。当社はこのプログラムを通じて、そうした実験的な取り組みを促進し、組織化、実行していきます。東京のような大都市でソリューションを試す機会を行政が提供するということは、スタートアップにとって大きなメリットとなります。東京がスマートシティになるとともに、都市とスタートアップが協力してより良いソリューションを生み出す方法を日本の他の地域にも示すことができるのです。

--東京で創業を考えている起業家へのアドバイスはありますか?

 政府の補助金や事業のローカライズをサポートするプログラムなど、起業家が利用できるリソースが今は豊富にあります。行動を起こす前に、こうした情報を調べたり、情報を持っている人とつながりを持ったりすることが大切ですね。東京でビジネスを展開するのであれば、オフィス、現地の文化や言語の理解、チームとパートナーシップが必要です。もし良い機会であると考え、コミットすることができ、さらにリソースを投資し、チームを組織し、戦略を立て、市場に本格参入し、適切なパートナーシップを築くことができるならば、東京は参入すべき最高の市場の1つとなるでしょう。

ヴィンセント・フィリップ

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2014年シリコンバレーのPlug and Play本社にジョインし、IoT部門とMobility部門のプログラムのディレクター、および日本企業のアカウントマネージャーを兼務。2017年にPlug and Play Japanを立ち上げる。現在はPlug and Play JapanのCEO & Managing Partnerを務める。
取材・文/ティム・ホーニャック
撮影/殿村誠士
翻訳/前田雅子