Correspondents' Eye on Tokyo:
「撮り鉄」のフランス人写真家がカメラと鉄道への情熱を語る

Read in English
 カメラと鉄道を愛するジェレミー・チャンテロウ氏は、彼にとって最高の街といえる東京にたどり着いた。フォトジャーナリストとして東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)を取材した彼に、カメラと鉄道の魅力について語ってもらった。
J263_1.jpg
パークホテル東京にて、愛する東京のカメラと鉄道文化について語るジェレミー・チャンテロウ氏。

映像と写真の世界へ

 祖父のカメラをこっそり拝借したことがきっかけで、今や国際的なフォトジャーナリストとして活躍するチャンテロウ氏。フランスのジャーナリズムの学校で学び、写真を通して物語を伝えることへの情熱を育み、やがてフランスの国営テレビでフリーのジャーナリストとして働くようになった。フランスで5年間仕事をした後、彼は外国に住むことに興味を持ち始めた。「未知の世界に飛び込んでみようと思ったんです」と話す彼だが、東京への移住は、予想もつかないリスキーなものだったという。具体的なプランがない中で、ワーキングホリデービザは日本へ移住するための最も魅力的な方法だった。申請の手続きを取り、2018年に晴れて東京の地に降り立った。

 最初の半年間は、主にフランス語を教えながら臨時の仕事で食いつないだが、その日々は苦労の連続だったいう。「日本語は話せないし、英語もあまり得意ではありませんでした」と彼は振り返る。しかし、フリーランス仲間の縁で、東京2020大会の仕事が舞い込んだ。東京在住のフランス系メディアの人々との関係は、彼の社会生活を形作り、フランス人や他の外国人居住者、そして彼がフランス語を教えた生徒たちとの友情を深める機会にもなった。「新しい友人を見つけるのは大変なことですが、東京ではすぐに友情を深めることができます」

東京を選んだ理由

 「東京は、外国人居住者として仕事を見つけるのに最適な場所でした。パリから来た当初は、東京の大都会ぶりに圧倒されましたし、カルチャーショックも大きかったですね。でも、世界一清潔な街だと思っています」 5年以上にわたり都内のさまざまな地域に住んできた彼は、フリーランスとして自由度の高い仕事を楽しみながら、東京の成熟したカメラ文化を探求する。「日本のカメラ市場は活気にあふれていて、愛好家は自分のカメラをとても大切に扱っているのが素晴らしいです」

 カメラが専門のチャンテロウ氏は、カメラのキタムラ、フジヤカメラ、中野ブロードウェイなど、首都圏にある数々のカメラ店に足を運ぶ。また、神楽坂や板橋にはフランス人コミュニティーが広がっており、日本に故郷の味を伝えるフランス料理店や、本格的なフランス式ベーカリーの常連だという。

J263_2.jpg
障壁を乗り越えて開催された東京2020大会は、東京に輝かしい栄光をもたらしたと語るチャンテロウ氏。

東京2020大会を取材して

 チャンテロウ氏は能力と経験を生かし、ロイターやフランステレビジョンと組み、東京2020大会の取材を担った。「無観客での開催となりましたが、数々の施設を間近で見られたことは、私にとって一生に一度の経験でした」と彼は語る。新型コロナウイルスの大流行、それに伴う渡航制限が続く中、彼は東京で働く数少ないフランス人ジャーナリストの一人だった。東京は困難な時期にありながら、巧みにオリンピックとパラリンピックを運営し、価値あるイベントを実現したことになる。「逆境にありながら、彼らは見事な大会を作り上げました」とチャンテロウ氏は回想する。

いつも心に鉄道を

 東京2020大会をめぐる仕事で、大会のインフラにも目を向けたチャンテロウ氏は、鉄道を愛してやまない。「東京は世界で一番、交通の便がいいんですよ」と、チャンテロウ氏は目を輝かせて話す。「どこにいても近くに駅があるし、電車は速いし、日本語が理解できない人にも案内がわかりやすいですしね」

 フランスにいたころから鉄道が好きで、父親と古い駅を訪ね歩いていたが、その情熱は東京で新たな高みに達した。「九州の南端から北海道の函館まで通っている新幹線は、日本の背骨のような存在です。鉄道に飛び乗れば、どこへでも行けるんです」

 来日したばかりのころ、チャンテロウ氏は終着駅まで列車に揺られては、移り変わる車窓の景色を眺め、列車への情熱を燃やした。自称「撮り鉄」という彼にお気に入りの路線を尋ねると、「銀座線」という答えが返ってきた。その理由を「昔の時代への敬意と、さりげない象徴主義」と説明する。銀座線は写真家としてのキャリアにおいても特別な存在だという。「東京に来て最初に撮った写真の1枚が銀座線だったんです。黄色い車両と、駅長さんの青い制服が象徴的でしたね」東京の鉄道システムの効率性は他に類を見ないものであり、東京駅駅舎の優雅さと歴史は、とりわけチャンテロウ氏を魅了した。東京で指折りに好きな建造物だと彼は言う。

J263_3.jpg
左:夏の終わりのある日、世田谷区二子玉川にて撮影。右:歌舞伎町を背にした新宿駅のホーム。Photos: courtesy of Jérémie Chanteraud

将来の展望は?

 『ポケットモンスター』のアニメシリーズ、また最近発売されたゲームシリーズなど、幅広いコンテンツ制作に関わるチャンテロウ氏は、今後も東京に留まり、貴重な機会を最大限に生かそうと考えている。「フランスでも、ポケモンはとても人気なんですよ」東京は彼が携わる業界の中心地。まさに、自身の情熱を注ぐのにふさわしい場所にいるのだ。

 「先のことはわかりませんが、どんな未来でも喜んで受け入れるつもりです」

ジェレミー・チャンテロウ

20230301144030-47c6d17a24284d022315f193476eafab52a63c2c.jpg
2018年から東京を拠点に活動するフランス人カメラマン兼エディター。来日前はパリのフランステレビジョンで記者を務めた。報道、ドキュメンタリー、プロモーションビデオ、ショートムービーなどの制作を手がける傍ら、AFP通信、ロイター、AP通信、CAPA、国際オリンピック委員会、など多数の団体とタッグを組んでいる。
取材/パトリック・バルフ
文/トミ・ハフティ
写真/リック・エイハーン
翻訳/アミット