もしもの時に......赤ちゃん連れの避難生活に必要なものとは?

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 2011年3月11日に発生した東日本大震災から10年以上が経つ今、家庭での防災への備えは十分だろうか。首都直下型地震がいつ起きてもおかしくないとも言われるなか、赤ちゃんの被災生活を支える取組みが進む。
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ベビー用品メーカーのピジョン株式会社が開発した使い捨て授乳カップ。災害時でも衛生的にミルクを飲ませることができる。

地震が起きたら......を具体的にシミュレーション

 首都直下型地震がもしも発生したら、どのようなことが起こりうるのか、どう行動すればよいのか。誰もが想定しておくべきだが、特に赤ちゃんがいる家庭にとっては切実だ。

 東日本大震災で赤ちゃんと一緒に被災した家庭へのアンケートをまとめた育児グッズブランドChibitoNPO法人ベビースマイル石巻によると、不安なのは「子連れでの避難・移動・避難所での生活」「水・食糧(ミルク・離乳食含む)の確保」。特にまだミルクしか飲まない乳児の被災は深刻だ。水が逼迫する避難生活の中では、消毒が必要な哺乳瓶は使えない。平常時には母乳でも避難生活のストレスでミルクに頼る状況もありうる。親とはぐれてしまう子もいるかもしれない。

 ベビー用品メーカーが作る、災害用の授乳カップ

 そんな赤ちゃんのために、ベビー用品メーカーのピジョン株式会社(東京都)が開発したのが、使い捨ての授乳カップだ。避難生活でも衛生的な授乳法として一般社団法人「日本母乳の会」が推奨する紙コップ授乳をさらに進化させた。乳児期特有の飲み方に適した独自の形状を開発、フタのくぼみの内側にミルクをためて液面を確認しながら、少しずつ安全に飲ませることができる。

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2022年のグッドデザイン賞も受賞した「授乳カップ」。付属の目盛りつきマドラーで、ミルクや水分量を量ることができる。

 ピジョンでは、より専門的な知識を得るために防災士の資格も取得したというマーケティング部の田島誠也氏を中心に「非常時でも赤ちゃんにやさしい場所を」と2021年からプロジェクトを立ち上げ、2022年には授乳カップなどの防災グッズを開発した。

 同時にオープンしたサイト「あかちゃんの防災」では、災害が起きた際に起こりうる困りごとが、東日本大震災や熊本地震、北海道胆振東部地震の体験者の声とともにわかりやすくまとめられている。赤ちゃんの月齢別の備蓄リストも掲載され、子連れ被災への漠然とした恐れが少しずつ具体的に解消できる。

自助の備蓄と情報収集も欠かせない

 基本的な備蓄に関しては「東京備蓄ナビ」も有益だ。家族構成などの簡単な質問に答えるだけで、具体的な備蓄品目・数量を知ることができ、そのまま購入サイトへ進むこともできる。

 また、慌ただしい子育ての日常の中でも使いやすいのがスマホ用の東京都の防災アプリ。楽しみながら防災の基礎知識を得られ、災害時に役立つコンテンツが搭載されているので、「もしも」が気軽にイメージしやすい。

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東京都防災アプリでは、自宅地域の水害リスクや地域危険度なども確認でき、それぞれの環境に合わせてカスタマイズできる「東京マイ・タイムライン」機能もある。

 東京都は2022年、首都直下地震等の被害想定を10年ぶりに見直した。新たな被害想定では、定量的な被害だけでなく、発災後の避難生活やライフラインがどのような状況になりうるのかについて、災害シナリオが新たに示され、災害後の生活がよりリアルにイメージしやすくなっている。適切な情報を集めて、赤ちゃん連れの避難生活への心構えをしたい。

取材・文/田内しょうこ
写真提供:ピジョン株式会社