「都市の変革には勇気が必要」スウェーデン、マルメ市副市長
都市のリーダーが一堂に会する初めての国際会議のテーマは、「コロナ後を見据えた公正で持続可能な社会の実現」。世界の都市がさまざまな知識や経験を共有するとともに、困難な課題の解決に共同で取り組むことを確認する機会となった。
工業都市から持続可能性な都市へ
スウェーデン南部の都市マルメは、ここ数十年で重工業の都市から持続可能なスマートシティへと見事に変貌を遂げている。2015年には、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」を自治体の政策目標に取り入れたスウェーデン初の都市となり、都市計画や行政管理を進めてきた。
実は1990年代のマルメ市の経済は崩壊寸前の状態にあり、失業率が25%にも達していた。ところが現在のマルメ市は、あらゆる国籍の人々が働く活気ある経済の中心地となっているのだ。
「マルメ市が再生した理由の一つは、大きな問題を抱えていることを認識した上で、勇気をもって変革に臨んだからだと思います。民間企業と積極的に連携したことも大きかったですね」とヘデン副市長は語る。
10年前からマルメ市の市長を務めるカトリン・シュテルンフェルト・ジャメ氏は、世界中の2,500以上の自治体が加盟する国際ネットワーク「イクレイ(ICLEI)~持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会~」の副会長でもある。ちなみにイクレイには東京都も加盟しており、小池百合子都知事がイクレイ日本の理事を務める。
重要なのは多面的なアプローチ
「G-NETS首長級会議」の環境セッションにパネリストとして参加したヘデン副市長は、持続可能な都市をつくるには、社会と経済と生態系をすべて考慮に入れた包括的なアプローチが重要だと語った。「ひょっとすると、環境だけに重点を置いたほうが、一般市民にはわかりやすいかもしれません。地球を大切にすることは、誰にとっても良いことですから。それと比べると、公平な社会の実現や、自分の行動を見直すことが、社会にどんなプラスをもたらすのかはわかりにくい」
「たとえば、持続可能な暮らしを実践していると胸を張る人も大型車に乗っていたり、頻繁に飛行機で海外旅行へ出かけたりします。その一方で、さほど裕福でない層では、バスや電車など、より環境に優しい交通機関が利用されていたりします。温室効果ガスの排出量のうち、個人消費がもたらす割合がわかってきたのは興味深いことです。実際、富裕な社会ほど個人消費による排出量が多いのです」と、ヘデン副市長は語る。
かつて巨大な造船所があったマルメ市のウェスタンハーバー地区は、持続可能なイノベーションが形になった目覚ましい事例だ。造船所跡地の再開発が始まったのは1990年代のこと。そして2001年、世界初のカーボンニュートラルな(再生可能エネルギーを100%自給する)住宅への入居が始まった。現在ウェスタンハーバー地区で働く人の数は、造船業が盛んだった時代の3倍にものぼる。とはいえ、市全体にはまだ、建て替えが必要な古い集合住宅も残っている。「ウェスタンハーバーで行ったことを、他の地区にも広げる必要があります。簡単ではありませんが、新しいことを行うチャンスでもある」とヘデン副市長は前向きだ。
共通課題に取り組む都市ネットワーク
「G-NETS首長級会議」は、世界の都市のリーダーと意見を交換する素晴らしい機会だったと、ヘデン副市長は語る。「国家間よりも都市間のほうが、同じ問題を抱えているので、国家間ではできないことを話し合えると思います。今回の国際会議でも、気候変動対策など、(世界の自治体が)同じ課題に直面していることがわかりました」と微笑む。「一番重要なのは変革が必要であるという点で、全員の意見が一致していることだと思います。お互いの経験から学び、住みやすい街づくりに活かしたいですね」
たとえば、日本の多くの自治体と同じように、東京都も有効な少子高齢化対策を模索している。一方、マルメ市は、30歳以下が人口の4割を占め、世界約180カ国の出身者が暮らしている。これは、ヨーロッパの多くの地域からアクセスが良いということもあるが、オープンなマルメ市のムードも影響しているのではないかと、とヘデン副市長は語る。
もちろん、昔ながらの住民が常に移民を歓迎するとは限らない。「人は未知の存在に不安を抱きがちです。何が起こるかわからないからです。でも、しばらくすれば不安は消える」とヘデン副市長は言う。「マルメ市の住民のほとんどは、多文化的な街であることを誇りに思っています。さまざまな国の人たちがいることで、素晴らしいことがたくさん起きているからです」
小さな変化が大きな変革につながる
環境セッションでヘデン副市長とともに登壇した小池知事は、小さな変化が大きな変革につながることを語った。たとえば、環境大臣時代の2005年に始めた「クールビズ」。オフィスのエアコンの設定温度を上げるために、定番のスーツスタイルではなく、風通しの良い軽装を推進したことが、日本のビジネス文化そのものの変革につながった。
「(小池知事のように)政治家が、権威ある立場からではなく、一個人の取り組みとして気候変動対策を語ったことは、とても励みになると思います」とヘデン副市長は語る。「そうすれば誰もが理解して共感できる」
ヘデン副市長は、東京滞在中に経験した人々のサービスのレベルの高さや、清潔さにも感銘を受けたという。2022年まで政治家と高校教師の二足のわらじを履いていたこともあり、注目するのは、こうした美意識の背後にある教育の役割だ。日本の学校では、生徒に教室の掃除をさせるなど、教育の中でこうした資質を育てていることを知り、興味を抱いたという。そして、将来的には、気候変動対策でも、他者への思いやりが強力な促進力になるのではないかと語る。
「東京では誰もが、自分が果たすべき役割や責任を自覚していて、自分本位にならない。日本人の周囲に気を配る姿勢には、大いに学ぶところがあります。ひょっとすると気候変動対策にも取り入れられるかもしれませんよ。一人一人の行動が、世界全体にインパクトを与えるのですから」と、ヘデン副市長は言う。「地球を救うためには、無私の精神が必要だと心から思います」
ソフィア・ヘデン
https://www.g-nets.metro.tokyo.lg.jp/
写真/榊水麗
翻訳/藤原朝子