Tokyo Embassy Talk:
持続可能な未来に向けた共通の目標を語るロジェ・ドゥバッハ駐日スイス大使
共有する歩みと未来
1864年、江戸時代の徳川幕府とスイスの間で修好通商条約が締結されて以来、両国は強固な外交関係を大切に育んできた。そして、160年以上を経た今、気候変動や急速な都市化が形作る不確実な未来の中で新たな課題と機会に向き合っている。両国の目標は、2050年までのネット・ゼロ(温室効果ガス実質排出ゼロ)達成という点で一致している。
こうした課題への対応について、スイスと日本はいずれも大きな強みを備えている。ドゥバッハ大使は、「スイスは世界で最も革新的な国の一つとして広く認識されており、グローバル・イノベーション・インデックスでは15年連続で世界1位にランク付けされています。東京もまたSusHi Tech Tokyoをはじめとする取組を通じ、持続可能な技術やスタートアップ主導のイノベーションにおけるグローバルハブとしての地位を築きつつあります」と述べている。
持続可能なイノベーションは、何もないところから生まれるものではない。既にある課題にも、新たに生じる課題にも対応するために構想され、形作られるものである。急速な都市化が進む中、日本とスイスはいずれも、質の高い生活を維持しながら、既存の都市空間を持続可能なかたちで発展させようと力を注いでいる。
「2025年版EIUグローバル・ライブアビリティ・インデックスでは、チューリヒが世界2位、ジュネーブが5位、東京が14位でした」とドゥバッハ大使は述べる。さらに、「これらの順位は、私たちの都市環境の強さと、経済的な活力と暮らしやすさを両立させる力を示しています。これは、人材を引きつけ、創造性を育み、長期的なイノベーションを支える上で欠かせない基盤です。スイスと東京の双方にとって、イノベーションは持続可能性、都市開発、デジタルトランスフォーメーションといった社会課題への対応と密接に結び付いています」と続ける。
ドゥバッハ大使は、駐日スイス大使の任務の一環として、相互協力と意見交換を通じ、こうした共通の方向性をさらに確かなものにすべく力を注いでいる。東京でその役割に就いて以来、そのための機会には事欠かなかった。
スタートアップがつなぐ持続的な連携
駐日スイス大使に就任して1年足らずのうちに、ドゥバッハ大使は東京都などが主催するアジア最大のグローバルカンファレンス、SusHi Tech Tokyo 2025に参加した。「パートナーや都の関係者の皆さまと共に、パビリオン開設に際して行われたリボンカット式に参加できたことを光栄に思います」。その場で、SusHi Tech Tokyoが、スイスのスタートアップと、投資家、企業、エコシステムの担い手を含む東京のイノベーション・コミュニティとを結び付ける、貴重な出会いの場となり得ることを実感した。
スイステックパビリオンは強い印象を残し、「最も革新的なパビリオン(Most Innovative Pavilion)」を受賞した。これは、「出展した10社のスイスのスタートアップだけでなく、オープンイノベーションとエコシステムの構築に対するスイスの強いコミットメントが評価された、誇らしい成果です」とドゥバッハ大使は語る。さらに、スイスのスタートアップAVAtronicsが、SusHi Tech Challenge 2025のピッチコンテストに参加した700社超のスタートアップの中からトップ8のファイナリストに選ばれたことも、大きな成果であった。「私にとって、これはスイスと東京のつながり方を具体的に示す一例です。政府、研究者、起業家、スタートアップが一堂に会し、地球規模の課題に取り組むという形で、両者はつながっています」
これらの評価は、東京におけるスイスのイノベーションにとって重要な一歩となり、認知の向上と新たなつながりの創出を後押しした。イベントを契機に、複数のスイスのスタートアップが、Keihanna Global Acceleration Program Plus(略称KGAP+)など、日本のアクセラレーションプログラムに採択された。ドゥバッハ大使は、「この流れをさらに発展させていきたいと考えています。目標は、東京でスイスのスタートアップを紹介することだけではありません。エコシステム同士の持続的な連携を実現することです」と語る。
スイスのスタートアップは、SusHi Tech Tokyo、H₂ & FC EXPO国際水素・燃料電池展、NEW環境展(N-EXPO TOKYO)、SEA JAPANなど、東京をはじめ日本国内で開かれるイベントに継続的に参加している。一方で、スイスと日本は既に持続的な連携の構築にも取り組んでいる。その代表例としてドゥバッハ大使が挙げるのが、日本のエネルギー企業ENEOSと、スイスの気候テック企業Climeworks(クライムワークス)とのパートナーシップである。
「ENEOSは、ClimeworksのDAC装置(CO2回収装置)をアジア太平洋地域で初めて導入した企業です。これは、スイスのイノベーションと日本の産業力が結び付いた、極めて具体的な事例でしょう」。
こうした高い親和性を踏まえ、ドゥバッハ大使は、両国の関係を次の段階である「長期的なエコシステム統合」へ進めたいと考えている。
未来を見据えた都市設計
スイスと日本は、特に都市空間における気温上昇に直面する中、環境対策と都市開発の両面から対応を進めている。両国は2050年までにネット・ゼロを達成するという共通の目標を掲げており、ドゥバッハ大使は、既に共有している共通点がこの取組をさらに後押しするとみている。
共通点の一つとしてドゥバッハ大使が挙げるのが、「空間計画」と「土地利用」である。スイスの都市も東京も、周辺の自然環境へと外側に拡張することなく、既に都市化された空間をいかに最大限活用するかに重点を置いている。世界有数の高密度都市である東京は、コンパクトな都市開発に豊富な知見を有する。同様に、スイスも「内向きの開発」という方針の下、近い目標に取り組んでいる。ドゥバッハ大使は、「コンパクトな都市開発と緑地保全に関する経験を共有することには、明確な可能性があります」とみている。
ドゥバッハ大使が、特に交流と協力の可能性が高いとみる分野には、モビリティ、省エネルギー建築、スマートシティインフラがある。また、極めて効率的な公共交通システムを有する東京と、自転車や歩行者の移動を支えるインフラを備えるスイスという、それぞれのモビリティの強みを組み合わせる余地があると考えている。ドゥバッハ大使は、「東京の強みに、ラストマイルモビリティ、自転車インフラ、スマート交通マネジメントに関するさらなるイノベーションを組み合わせることは、興味深い協力分野になり得ると考えています」と述べる。
両国はまた、スイスのCO2法や各州の建築規制、日本で2025年4月に施行された改正建築物省エネ法など、それぞれ異なる制度を通じて、省エネルギー建築の推進にも力を入れている。ドゥバッハ大使は、その圧倒的な規模ゆえに、東京を大規模かつ複雑な都市環境においてスマートな都市計画ソリューションを実証・展開するのに最適な場所とみている。
この点で日本とスイスが共に前進する道筋について、ドゥバッハ大使は明確な考えを持っている。「気候変動への適応を都市設計とより密接に結び付けることには、大きな可能性があるとみています」。さらにドゥバッハ大使は、「協力の形としては、双方の都市計画担当者、スタートアップ、建築家、技術提供者を結び付ける協働型イノベーションプラットフォームが考えられます。東京の環境に配慮した都市開発の取組と、スイスが有するコンパクトシティを形成する都市計画、持続可能なモビリティ、省エネルギー設計の知見を、モデル地区や実証プロジェクトで組み合わせることができます」と説明する。
成果を重ね、なお続く取組
スイスと東京は、可能な限り環境負荷を抑えつつ、質の高い生活を実現する持続可能な未来を目指している。ドゥバッハ大使は、「生活の質は、インフラだけで決まるものではありません。澄んだ空気、静かで魅力的な公共空間、緑や水へのアクセス、文化の活力、安全性、そしてコミュニティとのつながりも含まれるのです。持続可能な都市とは、家族が暮らしたいと思い、人材がとどまりたいと感じ、高齢世代が心地よく年を重ねながら社会とのつながりを保てる都市であると考えています」と述べている。
こうした未来を形作る上で、ドゥバッハ大使は、スイスと東京の方向性は一致しているとみている。「東京とスイスはともに、イノベーションと暮らしやすさ、そして高い目標と日々の実用性を両立させる上で、貴重な視点を提供していると考えています」。将来を見据え、ドゥバッハ大使は、祖国スイスと今や生活の拠点となった日本との間に、さらに多くの可能性を見いだしている。「クリーンテックや持続可能な都市ソリューションの分野で、スイスと東京の関係者が協働するための接点をさらに増やすことに、最も大きな可能性があるとみています」。連携を進めやすくする枠組みの拡充から、技術交流や共同研究を後押しするインセンティブの強化まで、探るべき道筋は数多くある。
ドゥバッハ大使は、「スイスと東京は、質の高さ、イノベーション、暮らしやすさを重視する姿勢を共有しています。そして、都市が気候、資源、人口動態に関する課題に直面する今、その共通の姿勢はこれまで以上に重要です。私たちのパートナーシップは、単なる意見交換にとどまるものではありません。人的交流、研究協力、そして実践的なイノベーションを社会に実装し得るスタートアップ・エコシステムを通じ、共に解決策を生み出していくためのものです」と語る。
ロジェ・ドゥバッハ
写真提供/駐日スイス大使館
翻訳/田崎 桃子





