多文化の視点から発信する、東京のナイトカルチャー

 1997年札幌生まれ、ロサンゼルスを経て東京へ。カメルーン人の父と日本人の母を持つアイザック・Y・タクー氏は、「多文化人との対話」をテーマにしたポッドキャスト「GOLDNRUSH PODCAST」を運営。2025年10月からは、J-WAVEで東京のナイトカルチャーにフォーカスした番組「TOKYO BEATS FOUNDATION」のナビゲーターも務める。多様なバックグラウンドを持つアーティストと対話を重ね、世界のクラブシーンを見てきたアイザック氏に、東京という都市の魅力と、カルチャーを通じた多文化共生への思いを伺った。
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アイザック・Y・タクー氏。東京タワーが一望できるJ-WAVEのオフィスにて

映像制作の道を志し、日本でビデオポッドキャストを先駆けてスタート

 札幌で生まれ育ったアイザック氏が最初に目指した道は、映像作家だった。高校卒業後、単身でロサンゼルスに留学し、アシスタントとして現場を経験しながら映像制作を学んだ。その後フリーランスとして独立するが、2020年にはコロナ禍の影響で仕事が減少し、いったん帰国を余儀なくされた。帰国後もミュージックビデオやプロモーションビデオなどの映像制作の仕事を続けながら、新たな活路を模索していたという。

 「当時アメリカでは、ポッドキャストが全盛期だったんです。日本に帰ったら、本格的にビデオポッドキャストをしている人がいなかった。これまでの映像スキルを生かせるし、大きなチャンスだと思いました」

 こうして2022年5月、弟のグヌ・K・タクー氏と2人でポッドキャスト番組「GOLDNRUSH PODCAST」をスタート。地元札幌のラッパーをゲストに招いた初回の放送はTikTokで150万回再生され、アイザック氏は日本でのビデオポッドキャストの可能性を確信した。

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「人もエンタメもビジネスも、東京はすべてが集まる場所」と語るアイザック氏

 当初は札幌を拠点に、東京でも収録を行いながら、二拠点を行き来して活動を続けた。ロサンゼルスで暮らした経験のあるアイザック氏にとっても、東京という街には特別な感情があったという。

 「ロサンゼルスは未知の世界すぎて、逆に何も怖くなかったんです。東京は日本の中心地だからこそ、ハードルが高いと感じていました」

 東京に2カ月ほど長期滞在してみたところ、人との出会いやスピード感、ビジネスの規模など、東京のすべてが自分たちの成長を後押しする実感があった。そして、さらなる可能性を広げるために、2023年には正式に東京を拠点として活動を始めた。

東京のクラブシーンの魅力を届ける「TOKYO BEATS FOUNDATION」

 アイザック氏がSAKURA氏と共にナビゲーターを務めるのが、J-WAVEの番組「TOKYO BEATS FOUNDATION」。東京のクラブシーンで活躍するDJ、ダンサー、ラッパーなどのアーティストをゲストに迎え、日本のナイトカルチャーの魅力を届けている。担当プロデューサーの熱意に触れ「この人となら一緒にやりたい」と、新たな世界に飛び込む決心をした。

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J-WAVE「TOKYO BEATS FOUNDATION」は毎週土曜日25:00~27:00放送中 Photo: courtesy of 株式会社J-WAVE

 番組では、注目するアーティストや曲の紹介だけでなく、曲に込められたメッセージや歌詞の意味なども伝えるように意識しているという。ヒップホップに限定せず、ポッドキャストよりもさらに幅広い層に情報を届ける場として、アイザック氏にとって新たな発信の起点となっている。

「眠らない街」東京のナイトシーン

 ロサンゼルス、ロンドン、南アフリカ、セネガル、ケルン(ドイツ)など、各国のクラブシーンを見てきたアイザック氏の目に、東京の夜はどう映るのか。

 「海外のクラブは、基本的に深夜2時頃には閉まるんですよ。でも東京は、朝5時まで営業しているところもあります。しかも新宿から渋谷、六本木みたいに、比較的近い距離で一晩中いろいろな音楽をはしごできるのが、外国人にとって最高に楽しいんだと思います」

 エリアごとの個性もさまざまで、渋谷は若者とヒップホップ、新宿はテクノや四つ打ち系、六本木はラグジュアリーな雰囲気で外国人客が多い。近い距離にまったく異なる夜の顔が並ぶのは、東京ならではだという。

 ナイトクラブでの楽しみ方についても、「LAのクラブでは、みんな歌ったり踊ったり。東京はどちらかというと、音を聴きに行くエンターテインメントに近い」と、アイザック氏はその印象の違いを語る。東京のクラブでは、静かに体を揺らしたり、ゆっくりとお酒を飲んだりする人が多いというのも、日本ならではの文化なのかもしれない。

カルチャーとしてのヒップホップの魅力

 両親の影響で、さまざまなジャンルの音楽に触れながら育ったアイザック氏。特にヒップホップに目覚めたのは高校時代、所属していた英語クラブの仲間と学園祭でジェイ・Zとアリシア・キーズの「Empire State of Mind」のラップパートを演じたことがきっかけだったという。

 さらにアイザック氏がロサンゼルスに渡った2016年は、ストリーミング配信が音楽市場の主流となり、新世代のヒップホップカルチャーが広まった年。ポスト・マローンに代表されるメロディックなスタイルが受け入れられ、インディーアーティストが次々と台頭した時期だった。

 「ヒップホップの魅力は音楽性だけじゃなくて、マイノリティの人たちが表現を通して社会的地位を築き上げてきた文化にある。そのカルチャーに惹かれるんですよね」

 現在の日本のヒップホップシーンについては、20歳前後の若手アーティストの活躍や、地域ごとのスタイルの確立にも着目している。日本語の響きやリズムを生かした日本独自のラップスタイルや、和楽器の音を組み込んだビートなど、「外国人にとってめちゃくちゃクール」と高く評価している。

二つの文化が育んだ受容性と多文化的視点

 「GOLDNRUSH PODCAST」のテーマは、「多文化人との対話」だ。多文化のルーツを持つゲストを迎え、自身の生い立ち、成長や葛藤など、オープンな雰囲気で語り合う。2022年にスタートしてから、現在のYouTubeなども含めた総フォロワー数は40万人以上。最近では宇多田ヒカル氏が登場し、大きな話題になった。そのコンセプトのルーツには、アイザック氏自身がカメルーン人の父と日本人の母という家庭環境で育ったバックグラウンドがある。

 「二つの文化の中で育っていると、『常識って何?』という感覚になるんです。自分と違う人を理解できなくてもネガティブに受け取らず、『そういう人もいるよね』と思えるようになる」

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「最終的にはみんな同じ地球人」というフラットな感覚が、お互いのアイデンティティを尊重した深い対話につながる

 インターネットの普及により、リアルタイムで世界中の情報を知り、国境を超えて自由に行き来できる時代、異なる文化が混じり合うことは避けられない。その中で、自分の「常識」にとらわれすぎることが分断の原因になると、アイザック氏は感じている。

 「一人の人間として相手を見て、その本質を知ろうとすること。それがこれからの時代でもっと大事になってくると思います。自分のユニークなアイデンティティと経験が誰かの役に立てばいいし、人と人との深い対話を通して、ポジティブなエフェクトを社会に与えていきたい」

 そして東京という街は、多文化共生を実現するのに理想的な都市だとも語る。世界中から多種多様な人が集まり、日本独自の文化があるからこそ、お互いを学ぶ姿勢やリスペクトが生まれる。「東京は、世界の多様性の縮図とも言えるし、多文化共生の解決策がここにあるかもしれない」とその可能性を語った。

自分の信じた道が、やがてカルチャーになる

 ロサンゼルス留学から東京進出、ポッドキャストの成功、J-WAVEのレギュラー番組ナビゲーターを担当。それぞれの転機にチャンスを掴んできたアイザック氏に、若い世代へのメッセージを伺った。

 「正解はないので、自分が選んだものを正解にするしかない。自分が見たい世界を目指して一生懸命やっていると、勝手にカルチャーになっていくと思う。心が熱くなる瞬間を信じて、自分に正直であること。それが一番大事だと思います」

 世界中から人が集まり文化が混ざり合う東京を起点に、音楽と対話を通じて「多文化人が活躍できる社会」を目指すアイザック氏。日本と世界をつなぐ架け橋として、これからもリアルなストーリーを発信していく。

アイザック・Y・タクー

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1997年札幌市生まれ。カメルーン人の父と日本人の母を持つクリエイター。
アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市で5年間フリーランスフィルムメーカーとして活動後、2021年に日本に帰国。ヒップホップが象徴するマイノリティの自己表現に魅了され、2022年に「GOLDNRUSH PODCAST」を立ち上げた。
「多文化人が活躍する社会を創る」というビジョンを掲げ、多方面の多文化人をゲストに迎えるポッドキャストは国内外から注目を集め、YouTubeなども含めた総フォロワー数40万人以上。MCやモデル、俳優など多岐にわたるフィールドで活躍している。

J-WAVE(81.3FM)「TOKYO BEATS FOUNDATION」

https://www.j-wave.co.jp/original/tokyobeats/
放送日時:毎週土曜25:00~27:00

取材・文/加藤奈津子
写真/藤島亮