AIは仕事、創造性、そして社会をどのように変えていくのか

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 4月27日から29日にかけて開催されたSusHi Tech Tokyo 2026では、世界各地からスタートアップ、投資家、企業、研究者、政策立案者が集まり、テクノロジーを活用したサステナブルな都市の実現を共通の目標として議論を深めた。登壇者の一人、株式会社メディアジーン代表取締役 共同創業者の今田素子氏は、「AIが奪うもの・奪えないもの―そして、余白から始まる人間の再創造」と題するセッションを行った。AIと創造性の関係の変化と、職場や社会に及ぼし得る影響について、今田氏が語った知見を紹介する。
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SusHi Tech Tokyo 2026のセッションに登壇する今田素子氏(左) Photo: courtesy of 東京都

AIを利活用しつつ、創造性のための余白をつくるには

 東京都は「東京都AI戦略」の下、すべての都民にとって都市の可能性を最大化するための原動力として、AIの積極的な利活用を推進している。SusHi Tech Tokyo 2026においても、AIを最先端の分野の一つとしてフォーカスし、新興テクノロジーが社会をどのように変革しているかに焦点が当てられた。

 メディアジーンでは全社的にAIツールを導入し、スタッフがさまざまな業務でAIを活用している。日本に拠点を置き、台湾にグループ会社を擁し、国際的なメディアブランドともパートナーシップを持つ同社は、日本語・英語・中国語という3言語での事業展開において、多言語翻訳やコンテンツの共同制作にAIを取り入れている。社内向けのコンテンツマーケティング施策やメディアプラットフォームの開発を進めながら、独自のAI利活用サービスの構築と日常業務への統合にも取り組んでいる。

 「この技術は急速に進化しています。数日前には不可能だと思われていたことが、突然できるようになる。だからこそ、私たちは常に適応し続ける必要があると思います」と今田氏は語る。こうした考えの下、メディアジーンでは、状況は常に変化するという前提に立ち、AI活用に関する社内ポリシーも柔軟に運用している。

 「こういうことは人間がやるべきだ」という職人気質のこだわりが出てくることもある、と今田氏は指摘する。しかし自身が優先するのは、AIでは本当に代替できない仕事に時間とエネルギーを使うことだ。「AIを積極的に活用して仕事のスピードと効率を高め、創造性のためにより多くの時間を確保する。それがとても大切なことだと思います」

 今田氏が欠かせないと言うのが、創造的思考やアイデア出しのための時間を意識的に作ること。広告業界のジェームス・W・ヤング氏による名著『アイデアのつくり方』を引き合いに出し、創造のプロセスは大量の情報を吸収し、それを内部で処理・整理した後、一定期間そこから離れることからなると語る。

 散歩をしたり、映画を観たり、何か関係のないことをしていると、これまでに蓄積したものの中から新たなアイデアが生まれることがある。「これは一見『仕事』ではないように映るかもしれません。でも、仕事のことだけに集中しすぎると、やがて考える力が鈍ってしまう」と今田氏は説明する。「だから、創造性を発揮するためには、自分自身が創造的な営みに身を置くことが必要なんです」。これはAIには代替できないプロセスだ。

より公平な社会に向けたAIの可能性

株式会社メディアジーン代表取締役 共同創業者の今田氏

 AIが業務効率の改善をもたらす反面、情報やクリエイティブな仕事の収益化はどのようにあるべきかという大きな問いは、なお慎重な検討を要する。オリジナルコンテンツの制作には多大な時間と労力がかかるが、膨大な情報がAIシステムによって収集・処理され商業的に活用される一方で、元のクリエイターへの明確な経済的還元の仕組みは今のところ整っていない。メディアジーンでは、AIが主導する情報経済の中で、クリエイターが適切な対価を受け取れるあり方を真剣に模索しているという。

 AIは日本の教育にも変化をもたらす可能性があると今田氏は語る。日本の教育はこれまで、暗記や正解を導き出すことに重きを置く傾向があった。「知識を吸収することはもちろん重要です。ただ、それ以上に大切なのは『なぜ?』と疑問を持って、意味のある問いを立て、そこから新しいアイデアや視点を生み出す力ではないでしょうか」

 一見、AIは情報技術の中で育ったデジタルネイティブ世代に有利なように思えるかもしれない。しかし今田氏は、AIがシニア世代にとっても機会均等を実現する助けになると考えている。「何か思い出せないことがあっても、その場で調べればすぐに答えが得られますよね。だからこそ、経験や深く考える力、物事のプロセスを理解することがより重要になってくると思うんです」

 今後、AIは性別や年齢に関係なく、誰もがプライベートの時間をより多く確保する助けとなり得るだろう。「働いた時間の量だけで自分の価値を示す必要はなくなっていくかもしれません。費やした時間の長さで評価されるような仕事はAIが引き受け、人間は批判的思考や創造性といった面でより評価されるようになるでしょう」と今田氏は話す。「もしそういった方向へ変わっていくとすれば、多くの不平等が解消されると思います」

 さらに重要なのは、AIシステムの設計・利活用にあたって、社会的に声が届きにくい層の視点を取り入れることだ。今田氏は、AIに潜むバイアスの排除に丁寧に取り組む必要性を強調する。一方、AIには、より一貫性のある基準で、さまざまな視点を公正に評価する能力があるのではないかとも見る。「もちろん、AIに倫理を持ち込もうとすると、問題は格段に複雑になります。でも、私はそのように捉えています」

先進的な取組のグローバルモデルとして

SusHi Tech Tokyo 2026で行われた今田氏のセッション。「AIが奪うもの・奪えないもの―そして、余白から始まる人間の再創造」 Photo: courtesy of 株式会社メディアジーン

 今田氏は、女性起業家のスキル形成と人脈づくりをサポートする東京都のプログラム「Acceleration Program in Tokyo for Women(APT Women)」の第10期で講師を務めた。「本来、ジェンダーによる差はないと言いたいところですが、現実には、女性には出産やそれにまつわる責任など、男性が同じ形では経験し得ないライフイベントが存在します」

 日本では長年、女性ビジネスパーソンが情報や機会にアクセスできる環境が整っているとは言い難かった。ビジネスイベントの参加者は圧倒的に男性が多く、ネットワーキングが行われることの多い夜の席には、子どもを持つ母親はなかなか参加できなかった。こうした不均等の解消を目指すものとして、今田氏はAPT Womenを「本当に素晴らしいプログラム」と評価する。

 前向きな変化の兆しとして、若い世代の夫や父親たちが家事や育児に対等な立場で関わることに積極的になってきている点にも注目する。メディアジーンでは2026年4月時点で、新しく父親になった社員の育休取得率が100パーセントに達しているという。

 APT WomenやSusHi Tech Tokyoのような取組は、起業やイノベーション、そしてよりインクルーシブなビジネス参加を後押ししようとする東京都の近年の姿勢を示すものだと今田氏は見る。SusHi Tech Tokyo 2026では、主催者が企画したセッションの登壇者の過半数が女性を占めており、今後さらに女性のエンパワーメントの機会を広げていくことを目指している。

 また、観光客やビジネスパーソンを中心に東京への国際的な注目が高まる今、SusHi Tech Tokyoはグローバルな潮流とテクノロジーの革新を結ぶ都市として東京を発信する上で欠かせないプラットフォームだと今田氏は語る。

 「AIには、これからの社会の結束とインクルーシブネスを高めていく力があると思います。東京がそのビジョンを積極的に発信して、こういった先進的な取組の世界的なモデルになってくれたら、とてもうれしいです。東京には、新しいアイデアが絶えず生まれてくる街であり続けてほしいと思っています」

今田素子

株式会社メディアジーン代表取締役CEO 共同創業者。
出版業界で編集発行・海外版権交渉に携わった後、1994年に『WIRED』日本版を立ち上げ、ビジネス・マネージャーを務める。1998年に株式会社メディアジーンを創業。現在、ミレニアル世代のための経済メディア『ビジネス インサイダー ジャパン』、テクノロジー&製品情報メディア『ギズモード・ジャパン』、ライフスタイルメディア『ルーミー』、ワークスタイルメディア『ライフハッカー・ジャパン』など、多様なメディアおよびコマースブランドを運営。2023年に経営統合を経てTNLメディアジーン(Nasdaq: TNMG)を共同創業。現在は同社CEOも兼任する。

Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、持続可能な都市を最先端のテクノロジーで実現することを目指して、世界中からスタートアップや投資家、大企業、都市、大学などが東京に集まり、未来の都市を構想・実践するグローバルイノベーションカンファレンスです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/橘高ルイーズ・ジョージ
写真/穐吉洋子
翻訳/舘山未来