伝統的な主食をアップデートしグローバルな需要へ

 日本人の主食であるお米を、独自の焙煎技術でノンカフェインの代替コーヒーへとアップデートした「玄米デ・カフェ」。原料は玄米だけでありながら、コーヒーのような香ばしさとコクを楽しめるプロダクトを手掛けるのは、株式会社MNHだ。日本有数の米どころ・山形県庄内町に製造の拠点を置き、東京の本社では雇用創出と地域活性化といった地方の課題解決と向き合っている。世界的に拡大するウェルネス需要やデカフェ市場にも目を向けた、そのビジネスモデルとビジョンを取締役社長の小澤尚弘氏に聞いた。
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「玄米デ・カフェ」の開発により東京や地方の雇用創出を行っている株式会社MNHの小澤尚弘氏

余剰を価値に変える

 東京・調布市に本社を置くMNH。取締役社長の小澤氏が玄米デ・カフェを生み出すきっかけになったのは、山形県庄内町との出会いだった。昔の米蔵を改装した施設「庄内町新産業創造館クラッセ」の立ち上げに関わる中で直面したのが、消費低迷による米の余剰という地域課題だったという。

 「調べてみたところ、消費低迷に合わせて、1960年から1970年頃をピークに生産も消費も半分にまで落ち込んでいることがわかりました。私たちが庄内町に関わり始めた2011年当時、世間では米粉がはやっていましたが、今さら同じことをやっても意味がない。そんな時に、米を焙煎して飲み物にするアプローチに出会ったんです」

 しかし、既存の先行商品は微粉末をお湯に混ぜるタイプが多く、溶けきらない粉が口に残るため、お世辞にもおいしいとは言えなかった。「きちんとペーパードリップで抽出できるコーヒーにしたい」と思った小澤氏は、フライパンを手に独学で開発をスタートさせた。

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小澤氏は独自の焙煎技術を開発し、玄米を本格的な代替コーヒーへとアップデートした Photo: courtesy of 株式会社MNH

 「コーヒーの焙煎について何も知らなかったので、まずは近所のコーヒー屋さんに通って根掘り葉掘り仕組みを聞き出しました。お米はコーヒー豆と違って硬く、成分のほとんどがでんぷんなので、火の通り方が全く異なります。自宅での試作を何度も繰り返し、納得のいくレシピが完成するまでに丸1年。そこから工場規模でのラインに落とし込むまでには、なんだかんだ3〜4年の歳月がかかりました」

 こうして完成した玄米デ・カフェは、コーヒーのような満足感のある苦味を残しつつも、さっぱりとした後味を実現。カフェインが完全にゼロで、夜寝る前でも安心して飲める画期的なプロダクトとなった。

効率化の波にあらがい、雇用を生み出す

 MNHのユニークさは、プロダクトそのもののクオリティだけではない。同社が掲げる「みんなで日本をハッピーに」という理念の通り、このビジネスモデルは「持続可能な雇用の仕組み」として機能している。米どころである山形県庄内町の人々によって焙煎された玄米は、東京へと運ばれ、パッケージングやセット加工などの最終工程を迎える。その繊細な手作業を担っているのが、東京本社にある自社工場・東京コミュニティ工場だ。

 「企業が効率化を追求し、マルチタスクをこなせる優秀な人材ばかりを求めると、社会から取りこぼされる人がどうしても出てしまいます。世の中には、引きこもり経験者など、働く意欲がありながらも適切な機会に恵まれない人々が多い。だからこそ私たちは、多様な人がしっかり働けて、対価を得られる場そのものをつくりたいと思ったのです」

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引きこもり経験者の雇用への思いを語る小澤氏

 あえて省力化や機械化を進めず、手作業を残すことで、一人ひとりの特性に合わせた雇用の最大化を図る同工場。そこにはシングルタスクにじっくり向き合える環境が整えられている。

 「現代の社会は、全員にキャリアプランや向上心を押し付けがちで、それが生きづらさを生んでいます。過度なスピード感や一度に複数の対応を迫られる仕事が苦手な人もいる。一方で、工場の仕事は『Aが終わったらBに進む』という一方向のリニアな構造です。自分の作業が誰かの役に立っていることが必ず実感できますし、今日のゴールも明確です。目の前の作業に集中して取り組める職人気質の人たちが、ここでは圧倒的な戦力になる。私たちはプロダクトを通じて、今の社会構造では取り残されそうな人たちを一人も取りこぼさない新しいセーフティネットの形を追求しています」

東京という結節点から挑む新しい飲料

 山形県庄内町で焙煎し、東京で製品に仕上げるという二拠点での事業展開。この構造にも、MNHならではの明確な強みがあると小澤氏は言う。

 「世界に向けて商品を売っていくうえで、やはり日本を代表する米どころで作っているという背景は大きな価値になります。現地の原風景が、そのままプロダクトの説得力になるからです。一方で、販路開拓や広報活動においては、日本の中心であり情報のスピードが圧倒的に速い東京に拠点があることが絶対的なアドバンテージになります。地方の確かな生産力と、東京の発信力。この二つを掛け合わせるからこそ、地方と都市の双方が活きるビジネスが可能になると考えています」

 近年、気候変動によるコーヒー豆の価格高騰を背景に、デーツの種やキノコを使った「代替コーヒー」の市場が急速に伸びている。しかし小澤氏は、他社の複合原料による代替コーヒーと、MNHの玄米デ・カフェには決定的な違いがあると語る。

 「他社の代替コーヒーは、科学的に分析した複数の原料を混ぜてコーヒーの味に近づけようとします。しかしそれだと、ワインなどと同じようにコーヒーが持つ『産地や品種を語る文化的な楽しさ』が失われてしまう。対して、日本では300品種ほどの米が栽培されています。単一原料だからこそ、『コシヒカリ』や『あきたこまち』といった品種ごとの個性をそのまま楽しむことができる。これはお米への執着が強い日本だからこそ世界に提示できる、新しい文化のあり方です」

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山形県庄内町の米から生まれた、ノンカフェインの玄米デ・カフェ Photo: courtesy of 株式会社MNH

 東京都のピッチイベントやSusHi Tech Tokyo 2026といった異業種間の交流が生まれるグローバルイノベーションカンファレンスに出展したことで、海外への展開やサステナブルフードを巡る新たなイノベーションの輪も広がり始めている。

 「食品の枠を超えたリアルな場に出展することで、インターネット検索だけでは出会えない異業種との越境的なつながりが生まれ、新たなビジネスの種が芽吹きつつあります。こうした世界の潮流の中で、私たちが目指すのは『世界で一番おいしいデカフェ』。現在、コーヒーやカカオ、お茶の栽培は気候変動の影響により危機に直面していますが、日本全国に広大な生産基盤を持つ米であれば、お茶以上の規模で安定してサステナブルに生産し、輸出することができます。まずは東京をはじめ、国内でお米になじみのあるアジアの観光客も巻き込むようなフラッグシップとなるカフェを作り、そこから世界市場に、日本発の新しい飲み物として届けていきたいです」

小澤尚弘

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株式会社MNH取締役社長。誰もが喜びを感じて働ける社会の創造を目指し、HAPPYを循環させる活動に取り組む。今ある資源を生かしながら社会課題を解決するビジネスモデルの構築や、障がい者への就労サポートなどを行う福祉作業所との連携、多様な人々が働ける場の提供など、SDGsに貢献した仕組みづくりや、商品企画・開発・食品製造を行っている。

株式会社MNH

https://www.mnhhappy.com/

Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、持続可能な都市を最先端のテクノロジーで実現することを目指して、世界中からスタートアップや投資家、大企業、都市、大学などが東京に集まり、未来の都市を構想・実践するグローバルイノベーションカンファレンスです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/船橋麻貴
写真/井上勝也