社会的インパクトを可視化して価値につなげる東京のフィンテック企業

目に見えない価値
売上高、リスク、リターンなどは数字で表しやすいが、ビジネスが人々の生活に与える影響を明確に示すことは難しい。投資によって有意義な雇用を生み出せたか。金融によって貧困から抜け出すことができた人はいるか。それらの結果は、次回の投資決定を左右するほど信頼性の高いものになり得るか。
2021年に東京で創業したインパクトサークルは、課題解決のために二つの事業を展開している。一つは、金融機関、企業、自治体に向けた社会的インパクトの可視化サポートである。社会的インパクトとは、事業活動や投資活動などが、雇用、所得、広く地域社会に与える影響によって、人々と社会にもたらす変化を指す。もう一つは、日本と東南アジアにおいて社会的インパクトの創出を意図した金融サービス、インパクトファイナンスを提供することである。創業者で代表取締役社長CEOの高橋智志氏は、「インパクトを可視化できなければ、それに対する評価を始めることすらできません。評価ができなければ、意思決定に反映することもできません」と語る。
同社の金融事業は、この考え方を行動に移すものだ。フィリピンでは、ドライバー向けに自動車、漁業者向けに船舶やエンジンの購入資金を融資する。単にモノを買うためではない。従来の基準では容易に融資を受けられない人々にとって、仕事に就き、収入向上への道を開く手段となり得るのだ。高橋氏は簡単な例を示した。収入が1万ペソだった人が、ドライバーとして働くことによって1万5000ペソ、2万ペソを稼げるかもしれない。従来の融資審査の多くは、現在の所得を基準とする。インパクトファイナンスでは、自動車を取得することによって明日どれだけ稼げるようになるかも考慮する。「収入が1万ペソから2万ペソに増え、月々の返済額がその増加分より少なければ、返済能力があると考えられます」と高橋氏は言う。
つまり、社会にもたらす成果と融資の結果は、必ずしも相反する関係にはない。また、その効果は極めて広範囲に及ぶ可能性がある。世界銀行のグローバル・フィンデックス・データベース2025によると、世界ではなお13億人の成人が金融サービスへのアクセスを持っていない。

数週間を数分へ
インパクトを評価対象にするには、まずそれを可視化しなければならない。従来の方法では、これには相当な労力を要した。ある事業への融資によって生まれる社会的インパクトを理解しようとする場合、金融機関ならどうするだろうか。コンサルタントが企業と面談し、企業関連の資料の分析に加え、学術論文や政府の報告書その他を調査し、事業活動とその成果を結びつけるエビデンスを確立する必要があるだろう。
次に、誰が関与し、どのような問題に対処し、どのような変化を求めるのかを示すロジックモデルを構築した上で、そうした変化が実際に起きているかどうかを測定する指標を選定する。このプロセスに1~2週間かかることもあると高橋氏は話す。インパクトサークルは、社会的インパクトを測定し管理するためのクラウドベースのプラットフォーム「Impact Cloud IC」を構築することによって、この期間を大幅に短縮した。
対象となる企業やプロジェクトについて入手可能な情報をアップロードすると、AIを活用したシステムがデータベースを基に調査を支援し、初期インパクトフレームワークを生成する。高橋氏は「5~10分でたたき台を作成できます」と言う。結果を人が精査し検討する必要はあるが、これまで数週間かかることもあった作業を、1日で実用可能なレベルまで進められる。
このプラットフォームは、インパクトデータの蓄積とその後のレポート支援の機能も備えているため、1回限りのインパクト評価を行うだけでなく、期待される結果が実現するかどうかのモニタリングも同じフレームワークで実施できる。インパクトサークルは、Impact Cloud ICによって東京金融賞2025の金融イノベーション部門1位を獲得した。「受賞によって多くの金融機関から関心を寄せられるようになりました」と高橋氏は話す。
自社のインパクトファイナンスにこのシステムを組み込む方法を模索している金融機関がある一方で、地域金融機関はすでに顧客向け融資のインパクトを評価するユースケースを開発し始めている。

未来のための金融
インパクトサークル創業のきっかけは、高橋氏自身が経験した問題である。同氏は金融包摂型フィンテックスタートアップ、Global Mobility Service株式会社の創業メンバーとして、日本と東南アジアで金融へのアクセス拡大に取り組んだ。しかし、従来の融資基準を変えることは相当に困難だとわかった。そして、新しい金融商品を一つずつ作るだけでは限界があると判断した。それ以上に問題だったのは、そもそも金融機関が何に価値を見いだすかである。
「社会課題の解決は、理想論だと見られがちでした。しかし、社会課題の解決がしっかりと金融価値に結びつく場合も多いのです」
借り手の現在の収入は一つの側面にすぎず、その人が仕事に必要なツールを手に入れたらどれだけ収入を得られるかは別問題である。高橋氏は、この大きな市場が見過ごされているのは、商業的に成り立たないからではなく、融資そのものが生み出す効果を従来の評価方法では捉えきれないからだと確信するに至った。
インパクトサークルは現在、この論理を自ら実証している。ファイナンス事業によって実例を積み重ね、インパクトの測定事業では、そこで得た知見を他社が利用できるツールに転換している。「言葉だけでは関心を持ってもらえるとは限りません。しかし、自ら実践して見せれば、仕組みを知りたいと考える人が出てきます」

東京を実証の場に
東京は、こうしたアイデアを育てる場になる。そこにはスタートアップのエコシステムやベンチャーキャピタルへのアクセスがあり、新しいことに挑戦する起業家を支援しようという土壌が広がりつつあると高橋氏は話す。それはインパクトサークルのような企業にとって、金融、ビジネス、公共セクターなど幅広い分野でパートナー候補と出会い、アイデアを実証し、関係を構築し、実用化に結びつける機会を生み出すことにもつながる。
ここは同社にとって発信の場にもなる。高橋氏がSusHi Tech Tokyo 2026でインパクトの可視化とサステナビリティについて話した後、地域金融機関や企業のサステナビリティチームの担当者から、自分たちもこのアプローチを模索できないかと問い合わせが寄せられたという。
「何となくそれが良いことだと理解してはいても、どう実践すればよいのか、それがどう価値に結びつくのかがわからないという人が多いのです」。具体例があれば、その曖昧なアイデアを、実践可能なものとして組織がイメージできるようになる。
高橋氏が考える東京の良さは、ビジネス環境としての条件が整っている点だけではない。特に気に入っているのは、都会の密集した風景とは対照的なウォーターフロントの広がりである。「東京は巨大都市ですが、海もあります。海辺には本当に開放感があります」。これも数字には表しにくいが、東京における人々の体験を形作る価値の一つである。

金銭的価値以上の評価を
同社の最終的な目標は、短期間でインパクト評価レポートを作成することではない。高橋氏は、投資、事業、政策の意思決定において、社会的価値が金融価値と同等に評価されることを期待する。「社会的インパクトと社会課題の解決が、投資収益と共に適切に意思決定に組み入れられれば、社会はもっと魅力あるものになるはずです」
それを実現する簡単な方法もなければ、インパクトを可視化する手段にも正解があるわけではないと高橋氏は認める。前に進むためには、金融機関や企業などが共にアイデアを実証し、何が有効かというエビデンスを積み上げていくしかない。
インパクトサークルは、測定できるものは投資対象になる可能性も高まると考えている。社会的インパクトを可視化し、投資判断の方程式に組み込むことができれば、資金の評価方法だけでなく、その向かう先も変える可能性がある。
高橋 智志
インパクトサークル株式会社
https://impact-circle.co.jp/![]()
Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、持続可能な都市を最先端のテクノロジーで実現することを目指して、世界中からスタートアップや投資家、大企業、都市、大学などが東京に集まり、未来の都市を構想・実践するグローバルイノベーションカンファレンスです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo
写真/井上勝也
翻訳/伊豆原弓
