東京と出会うビジュアルストーリーテリング:複雑なデジタル時代をシンプルなビジュアルで読み解く

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 スマートフォンの登場により、私たちはかつてないほど多くの情報に触れられるようになった。しかし、本当に大切なものと雑音を区別するのは、ときに難しい。イラストレーターでありデジタルイノベーターでもあるエドゥアルド・サレス氏は、オンラインで共有されるシンプルな画像には、複雑な物事をわかりやすくし、世界への理解を深める力があると考えている。そして、これまで訪れたどの都市にも劣らないほど情報にあふれ、さまざまな顔を持つ東京から、尽きることのないインスピレーションを得ているという。本記事では、メキシコシティでのアートと広告の経験が画期的なデジタルプラットフォーム「ピクトライン」の創設にどうつながったのか、そしてその手法が東京でどう生かせるのかを語ってもらった。
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メキシコのメディア企業、ピクトラインの共同創業者エドゥアルド・サレス氏

大学生アーティストから、ナイキやグーグルのデジタルクリエイターへ

 サレス氏がデジタルアートの世界で頭角を現したのは、意外なタイミングだった。メキシコシティのメキシコ国立自治大学(略称UNAM)に在学中の2009年、新型インフルエンザの流行により、メキシコ全土の学校が一時休校となったのだ。授業がなくなり、思いがけず自由に使える時間を得たサレス氏は、創作に打ち込み、作品をオンラインで発表するようになった。

 「仕事につなげようと思っていたわけではないんです」とサレス氏は話す。「最初は趣味のようなもので、とにかくインターネットに作品を上げ始めました。イラストレーターとしては、作品を世に出して、誰かがそれに触れ、できれば楽しんでくれる。そう想像するだけで楽しかったんです」

 オンラインで発表した作品が、メキシコの大手広告代理店のクリエイティブディレクターに見いだされた。自らもクリエイティブディレクターとして働き始めたサレス氏は、ほどなくナイキ、キットカット、グーグルといった多国籍ブランドのデジタル広告キャンペーンを手がけるようになった。「ちょうどメディアと広告の転換期だったのは幸運でした」と振り返る。「従来型の企業は、ソーシャルメディアがもたらした変化にどう対応すべきかを模索していて、こうした新しい領域に積極的に挑むアーティストやクリエイターを探していたんです」

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背景には、ブランドのマスコットである豚が「招き猫」風に描かれている。ピクトラインの「ピ」の文字には、日の丸が遊び心たっぷりにあしらわれている Photo: courtesy of 株式会社メディアジーン

 サレス氏はデジタル広告の仕事で高い評価を得て、広告業界の賞もいくつか受賞した。広告の仕事がこれほど創造性に富んでいることに驚く一方、サレス氏はやがて、オンラインで発信するシンプルなビジュアルコンテンツが秘めた、より大きな可能性を思い描くようになる。「広告の仕事を通して、適切な画像は、見る人との間に瞬時に感情的なつながりを生み出せることがわかりました」と話す。「同時に、同じ手法を使えば、もっと多くのことを成し遂げられるのではないかと考えるようになったんです。それがピクトラインの発想の原点です」

どの画像にも扉を開く力がある

 2015年、サレス氏はグスタボ・グスマン氏とともにピクトラインを設立した。スマートフォンに押し寄せる膨大なコンテンツを、人々が整理し、理解できるよう手助けすることが新会社の狙いだった。野心的な目標だったが、情報をもっと凝縮した形で受け取りたいという確かなニーズがあると2人は感じていたと、サレス氏は話す。

 当初からサレス氏は、クリック数稼ぎのコンテンツに走る誘惑を警戒していた。「これだけ情報があふれている中で、ただ雑音を増やすようなことはしたくありません。数字上の成果が目的ではありません。クリック数や『いいね』の数などを追い求めることではないんです。どの画像も、画面の向こう側にいる人のことを理解したうえで作るべきです。私たちが目指すのは、人を引きつけ、楽しませ、新たな発見をもたらし、周りの世界の見方を本当に変えるようなビジュアルストーリーです。どの画像にも、扉を開く力があるんです」

 ピクトラインの最大の強みの一つは、その柔軟性にある。ポップカルチャーから政治、科学研究、社会問題まで、多岐にわたるテーマを扱うことができる。形式も、ポスターやインフォグラフィック、風刺漫画から、GIF、モバイルゲーム、短編アニメーションまでさまざまだ。サレス氏によれば、従来のメディア企業は、イラストを文章の添え物として扱いがちだが、ピクトラインではイラストそのものが主役だという。

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イラストのキャラクターを通じて、見る人はコンテンツをより身近に感じられるとサレス氏は言う

 中でも、イラストで描かれたキャラクターは、見る人との距離を縮めるのに特に効果的だとサレス氏は考えている。ピクトラインがこれまで手がけた中で大きな成功を収めたプロジェクトの一つが、メキシコのアニメシリーズ『La Vida Secreta de tu Mente(心の知られざる世界)』だ。かわいらしい脳のキャラクター「セリ」が、視聴者を人間の心の仕組みへと案内する。神経科学者マリアーノ・シグマン氏の著書を原作とし、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーとの共同制作、HBO Maxとの共同開発によるこのシリーズは、2024年に国際エミー賞の「キッズ:ノンフィクション&エンターテインメント」部門を受賞した。

 「人は、自分を重ねられるキャラクターがいると、最も強い親しみを感じるものです」とサレス氏は話す。「情報が、友達から聞く話のように感じられるんです」

東京との相性は抜群

 2026年初め、サレス氏は「ピクトライン・ジャパン」の立ち上げを支援するため東京に移り住んだ。視覚情報を読み解く力がこれほど高度に発達した社会で仕事ができることに、大きな魅力を感じたという。「日本では、イラストのキャラクターを至る所で目にします。アニメや漫画は言うまでもなく、広告や注意喚起サイン、天気予報など、日常生活のあらゆる場面に登場します。人気のキャラクターには、詳細な背景設定やさまざまな物語が用意されています」

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サレス氏は、ピクトライン・ジャパンの立ち上げを通じ、日本のクリエイターたちと仕事をすることを楽しんでいる

 ラテンアメリカでのピクトラインの成功を踏まえ、サレス氏はその手法が日本にも自然になじむと考えている。ただし、ピクトライン・ジャパンはあくまで独立した事業体であり、日本のデジタルメディア企業、株式会社メディアジーンとのライセンス契約のもとで運営されていることを強調する。

 「私はコンサルタントとして東京に来ました」とサレス氏は話す。「でも何より、学ぶためにここにいるんです。ピクトライン・ジャパンは日本の会社で、日本人スタッフが主に日本の人々に向けて運営しています。全体の枠組みづくりを少し手伝うことはできますが、どんな物語を伝えるか、どんなビジュアルスタイルを使うかは、すべて彼ら次第です。どんなものが生まれてくるのか、楽しみでなりません」

 東京とメキシコシティは文化的に大きく異なるが、サレス氏は東京を、創造性が花開く場所だと見ている。「東京は巨大な生命体のようです」と言う。「大規模な一般向けイベントから、小規模でニッチな集まりまで、いつもさまざまなことが起きています。ポップアップストアやコラボイベントも多く、とてもワクワクします。それにイラストレーターにとっては、街を歩くだけで出会うものの多さが、尽きることのないインスピレーションの源なんです」

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東京に移り住んで以来、サレス氏は頻繁に街を散策している Photo: courtesy of ルイス(ルロ)・ロペス

 これほどの大都市の全体像をつかむのは難しいとサレス氏も認める。「これからピクトライン・ジャパンで活躍するアーティストたちは、東京がどんな街で、自分にとってどんな意味を持つのかを、きっとそれぞれに魅力的な方法で描き出してくれるはずです」

エドゥアルド・サレス

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メキシコシティ出身のイラストレーター、クリエイティブディレクター、デジタルイノベーター。広告業界でキャリアをスタートし、ナイキやグーグルなどの企業向けに、受賞歴のある作品を手がける。2015年、シンプルながら力強いオンライン画像の制作を手がける情報デザイン・イラスト企業であり、デジタルプラットフォームでもあるピクトラインを共同設立。同社の成功を受け、2017年には『フォーブス』誌の「世界で最も創造的なメキシコ人30人」に選ばれた。2026年初め、ピクトライン・ジャパンの立ち上げを支援するコンサルタントとして東京に移住した。

株式会社メディアジーン

https://www.mediagene.co.jp/
※ピクトラインに関する最新情報は、今後同サイトの「NEWS」欄で公開予定です。

取材・文/トレバー・キュー
写真/井上勝也
翻訳/月本 潔