障害のある作家のアートで社会を変えていく。ヘラルボニーの挑戦【前編】

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 「異彩を、放て」という会社のミッションで、社会に存在する先入観や常識といった壁を壊していく......。彼らは、アートを通して社会を変えるムーブメントを、どのように起こすのか。
左:松田文登(ふみと)
代表取締役副社長。岩手県在住。ゼネコン会社で被災地の再建に従事した後、弟ともにヘラルボニーを設立。営業を統括する。双子の兄。
中:松田翔太(しょうた)
崇弥・文登の4歳上の兄で、ヘラルボニー設立のきっかけとなった人物。
右:松田崇弥(たかや)
代表取締役社長。東京都在住。小山薫堂が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズのプランナーを経て独立。へラルボニーのクリエイティブを統括。双子の弟。

 目に飛び込んでくるほどの勢いのある色鮮やかな点や幾何学模様にあふれたバッグ、ネクタイ、傘......。圧倒的なエネルギーや躍動感が押し寄せてくる絵画。それがヘラルボニーが販売、展開している商品やアート作品だ。

 JR東日本やセレクトショップ「トゥモローランド」など、さまざまな企業や分野とコラボレーションし、ヘラルボニーが世に放つアートを生み出しているのは、障害のあるアーティストや作家たち。そうした才能を持っているがなかなか世に出ていなかった障害のあるアーティストを発掘し、福祉や慈善活動としてではなく、その作品に対してきちんと妥当な価格、評価を受けられるように、「ワクワクを持って」社会に送り届ける。それが福祉実験ユニット、ヘラルボニーなのである。

 そんな新たなビジネスに乗り出したのは、日本を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」も受賞した双子の兄弟、松田崇弥(たかや)さんと文登(ふみと)さん。岩手に会社の本部を置き、東京にも拠点をもつ彼らにとって、東京はそうした彼らのアートの実験的要素を試せる懐の深い場所だという。文登さんは岩手、崇弥さんは東京に暮らし、さまざまな分野のプロフェッショナルである仲間たちとワクワクするものを作り続ける。障害という概念をイチから考え直させるムーブメントが、いま、このヘラルボニーから始まろうとしている。

いい作品だからワクワクを持って世に出したい

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12万円以上で限定生産されたネクタイ。

 社会人2年目。「素敵なアート作品があるからぜひ見たほうがいい」と母から連絡を受けて岩手の「るんびにい美術館」に足を運んだ崇弥さんは、衝撃を受けた。「るんびにい美術館」は、知的障害や精神障害などのある作者が創造した表現作品を展示している美術館だ。

 「純粋に素晴らしい作品だと思い、それをもっと世にだしていこうと思ったらワクワクした」崇弥さんは、すぐに岩手のゼネコン会社で働いていた文登さんに電話し、アイデアを伝え、二人はすぐに動き出した。

 「売れても売れなくてもいいから、ちゃんとデザイン、アートとして最高品質で世に出そうと思い」、明治38年創業の老舗の紳士洋品店、銀座田屋とコラボレーションしてネクタイを作り上げた。1本2万円以上で限定生産されたそのネクタイは、すぐに売り切れ、話題に。その強気な価格帯に、アーティストの家族でも驚く人もいたと言うが、彼らはいいものを適した価格で、そしてアート作品として世に出すことを重視してきた。

 「『障害者が作ったものだから』と言ってとても安い値段をつけられるのは、適正価格ではない。私たちはきちんとアーティストや家族、福祉施設の人とコミュニケーションをとり、契約を交わし、きちんと販売利益を還元しています。1つの作品で数万から数十万円。彼らとアーティストとして関わり、純粋にいい作品だと思えるものに契約をします」

障害がある人へのリスペクトある社会へ

 ヘラルボニーの名が知られるようになり、作品や作家の紹介や連絡も増えてきたという。しかし実際に契約をするのは、そうして出合う作品や作家の5%程度。「こうした作品や会社の活動を通して、障害がある人へのリスペクトある社会を生むことが大事。だから障害がある人の作品だからと言って、レベルの異なるものを一緒にはしません。当事者の幸せを追求することが、僕たちの最終目標。そのためには、社会側の意識を変えることが最初の一歩だからこそ、本当に自信を持って推せるものをきちんと選んでいく必要があります」(文登さん)。

 アーティストのもとには何度も足を運び、家族や福祉施設の人も含めて人間関係を大事に作っていき、契約を結ぶ。「重度の障害のある人と契約を結ぶこともあり、お金の感覚があまりない人もいます。だからこそ作家、保護者、福祉施設という3者確認が大事。そして、プロダクトが商品に変わったら、実際にものを本人に届けて見てもらいます。こちらが伝えようとして伝え続ければ、本人が完全には理解できていなくても、楽しいことが起こっていることはわかってくれているようです」(文登さん)。

 回数を重ねて会い、説明し、相手を理解しよう、こちらから伝えようと心を向かわせ続けるからこそ、へラルボニーとアーティスト、家族、福祉施設の担当者との間に深い信頼関係が築かれる。それがまたコラボレーションする企業やクリエイターに伝わり、人を動かす力になっているのかもしれない。

後編記事:障害のある作家のアートで社会を変えていく。ヘラルボニーの挑戦【後編】

取材・文/岩辺みどり、写真/ヘラルボニー