子どもたちが自由に描く「未来の東京の姿」、スタートアップへ渡るバトン
50年・100年先の未来を見据え、子どものアイデアを取り入れる
東京都が推進する「東京ベイeSGプロジェクト」は、臨海副都心と、それに隣接する約1000haの広大な新しい埋立地を舞台に、「自然」の豊かさと「便利」な暮らしを融合させた持続可能な都市づくりを構想する壮大なプロジェクト。
プロジェクト名は、本来の「ESG」(Environment,Social,Governance)の概念に加え、「近代日本経済の父」と呼ばれ、数々の起業に携わった大実業家であるとともに多くの社会貢献活動の実践にも従事した渋沢栄一と、東京市長として100年前の関東大震災後に大風呂敷といわれる壮大な「帝都復興計画」を策定した後藤新平の二人のイニシャル「S」「G」をエコロジー(ecology)、経済(economy)、画期的な技術(epoch-making)を表す「e」と組み合わせたもの。
想定されているのは、豊かな緑に囲まれ、水を身近に感じられる、生物多様性にも富んだ、人間中心の空間が創出された都市だ。次世代モビリティや再生可能エネルギーなどの最先端のテクノロジーを実装し、感染症や自然災害にも強い強靭さを持ち合わせることを目指す。そんな50年・100年先までを見据えたまちづくりとして提唱されたのがこのプロジェクトだ。
50年前や100年前の過去の人々によって描かれた未来予想図の多くが現在では現実のものになっているという。このことからも、50年・100年先の将来に向けたプロジェクトを展開するにあたっては、未来を担う子どもたちのアイデアや意見を積極的に取り入れていくことが強く期待されているのだ。
マインクラフトと連携し「東京ベイeSG賞」を設立
この東京ベイeSGプロジェクトの一環として行われたのが、デジタル上の仮想世界で行う人気ブロックゲーム「マインクラフト」の毎年開催している作品コンテスト「Minecraftカップ全国大会」との連携だ。
「Minecraftカップ2022大会」の募集作品テーマは、「生き物と人と自然がつながる家・まち〜生物多様性を守ろう〜」。大会のテーマと東京ベイeSGプロジェクトとの共通性から、東京ブロック大会の特別賞として「東京ベイeSG賞」が設けられた。
応募作品の中からジュニア部門(小学校低学年以下)のチーム名CCさんによる「雷さまの方舟」が選ばれた。それに伴い、2023年2月12日(日)、受賞者のCCさんと東京ブロックの優秀な作品の制作チームによる「子どもたちと描く未来の東京」 発表会・トークセッションが小池都知事の登壇のもと開催された。
子どもたちが自由に描く夢のテクノロジー
CCさんの受賞作「雷さまの方舟」は、雷をエネルギーに生物多様性の保護を目指して環境問題と「戦う」アイデア満載の巨大な空飛ぶ方舟を描いた作品。
この作品では、まず探査機が人間によって壊された土地に向かい、生き物や土を方舟に回収。土を改良、植林を行い、天気を操る雷さまが雨を降らせてその土地を再生、生き物を保護する。さらに、方舟の中には、水のろ過装置や風力・バイオマス発電も整備し、エネルギーの循環を実現。研究施設や畑、レストランに加え動物と人間が楽しめる遊園地まであり、人と自然の共生がいきいきと表現されている。
小池都知事から「一日中、エネルギーや環境問題について考えているの?」と問われ、元気に「はい!」と答えたCCさん。「雷さまの絵を描いていて、エネルギーを雷さまに任せればいい」とひらめいたのだという。複数人で応募したチームが多いなか、1人で作品を制作した頼もしい小学2年生だ。
続く3チームの作品からも、たくさんの斬新なアイデアが飛び出した。動物のために地上の自然を保護し、人間は空中に住むという「空中ホーム地区」や、小さな面積で多くの収穫が得られる「垂直農場」、海底で農作物を育てる「海底農園」、100%クリーンな自然エネルギーで電車網を整備し、自動車を全く使わない「自然界と調和した都市」など、未来の東京の姿を自由に描き出した。
小池都知事は「50年後、100年後をこんな未来にしていきたいという思いを大切に、自分の力、そして技術の力を信じてください。いろいろな知恵と工夫を見せてくれてありがとう」と子どもたちをねぎらった。
子どもと大人がタッグを組んで
これらのアイデアはマインクラフト内の子どもたちの夢にはとどまらない。2023年3月24日(金)には東京・虎ノ門のCIC Tokyoにて「子どもたちと描く未来の東京」ビジネスコンテストが開催。このコンテストでは、子どもたちがマインクラフトで表現したアイデアや思いに応える新たなテクノロジーやプロダクト、独自サービスの事業内容がスタートアップの事業者によって競われる。審査の結果として、東京ベイeSG賞(ビジネス部門)が選定され、最優秀賞・優秀賞には賞金のほか都政におけるスタートアップ各種支援策などが紹介される。
子どもたちが描いた夢の未来をどこまで社会実装に向けた計画にできるか、今度は大人の出番となる。2021年4月に開始された東京ベイeSGプロジェクトは、2年の時を経て子どもと大人がタッグを組んだ、新たな挑戦を迎える。
https://www.tokyobayesg.metro.tokyo.lg.jp/
写真/坂下丈洋