ホットなスタートアップが届けるクールなイノベーション

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 気候変動や温暖化への懸念が高まる中、人々の安全と快適性を守るための実用的なソリューションを見つけることが、世界中の都市の大きな課題となっている。米国を拠点とするスタートアップのEztia Materialsは、建設、物流、防衛など灼熱の環境下で働く人々のための次世代の冷却素材「HydraVolt(ハイドラボルト)」を開発した。このイノベーションが生まれた背景と、多様な用途への応用の可能性について、EztiaのCEOであるティファニー・イェ氏が語った。
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Eztia Materials のCEO、ティファニー・イェ氏。Eztiaは、ウェアラブルな冷却ソリューションで信頼性のある暑熱対策を提供している

イノベーションが形になるまで

 イェ氏は、4月27~29日に東京ビッグサイトで開催された、アジア最大のグローバルイノベーションカンファレンス、SusHi Tech Tokyo 2026に参加し、SusHi Tech Challenge 2026ピッチコンテストのファイナリストの一人に選出された。

 HydraVoltは衣類にプリントされるか縫い込まれる素材で、気化熱を利用して皮膚の表面温度を最大10度、8時間にわたって下げられるように設計されている。電力やバッテリーは不要で、水に濡らすと機能が復活し、一般的な衣類と同様に洗濯することも可能だ。この画期的なテクノロジーが生まれるきっかけは、イェ氏がウェアラブルな冷却素材の探求に情熱を注ぎ始めた学生時代にさかのぼる。

 台湾で生まれ育ったイェ氏は、17歳から米国を拠点としている。マサチューセッツ工科大学で材料科学を専攻した後、ペンシルベニア大学で医学の学位を取得した。学業で優秀な成績を収める一方、フィールドワークのために、アジア、アフリカ、中南米のとりわけ暑さの厳しい地域にも滞在した。

 海外での経験は、建物やワクチン包装の温度管理に用いられる冷却ポリマーの研究への興味をかき立てた。彼女はこうしたリサーチからインスピレーションを得て、医学の勉強のかたわらでポリマー設計を開発したのである。

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 Eztiaが開発する先進的な冷却素材は、電力を使わずに身体の熱を吸収・放出する

 「医学部を卒業後、この設計を実際のテクノロジーとして形にしたいと思い、それがEztiaの設立につながりました」と彼女は説明する。「医学の学位を取った後、また材料科学の分野に戻ることになるとは思いませんでしたが、今の私の仕事では二つの領域が融合しています」

 イェ氏は、冷却ソリューションの探求へと結実する多様な機会に恵まれたことは幸運だったという。「何か心から関心を持てるものがあるなら、それを追求するべきです。あなたにはその準備ができているのですから」と彼女は語る。「私が材料科学のこの分野に有利な立場で取り組めているのは、これまでにたどってきた道や経験のすべてが糧になっているからだと思います」

東京で弾みをつける

 イェ氏によれば、Eztiaの中核市場は「働く人の安全」であり、さまざまなアプローチで冷却ソリューションを届けることを目指している。「働く人の安全は社会の多くの階層にかかわってくるため、非常に重要だと思います」と彼女は指摘する。「より大きなビジョンとして、最終的にこのテクノロジーをさまざまな形で適用し、社会全体の幅広いニーズに貢献することを構想しています」

 Eztiaのストーリーを語る上で、日本、とりわけ東京は特別な意味を持つ。同社の最初のパートナーは鹿島建設株式会社であり、東京の建設現場でこの冷却素材が活用された。鹿島建設はすでに暑熱対策に精通しており、HydraVoltの設計改良を支援するという点で、長期的に重要な役割を果たした。

 「冷却パッチから冷却ポケット付きシャツへと進化し、今では当社の冷却素材を衣類に直接プリントできるようになりました」とイェ氏は語る。彼女は、レポート作成やデータ提供に関する鹿島建設の尽力に感謝を示し、そこには日本のパートナー全般に見られる細やかさや配慮が表われていると話す。

 Eztiaは、米国の建設会社やシンガポール政府などの顧客とも協力しており、シンガポール政府は警察官や刑務官向けにHydraVoltを活用している。このように、同社のサステナブルな冷却テクノロジーは、今では商業と公共の安全の両分野で利用が進んでいる。

社会的インパクトをもたらすテクノロジー

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Eztiaのテクノロジーは幅広いニーズに役立つ可能性があると語るイェ氏

 Eztiaに投資する企業の一つであるスクラムベンチャーズは、米国と日本の両方に拠点を置くベンチャーキャピタルファンドである。同社は北海道で行われたアクセラレーションプログラムを通して、多様な属性の人々を対象にしたEztiaの実験を支援してきた。

 このプログラムでは、小学生に冷却ヘッドウェア、プロ野球チームの北海道日本ハムファイターズにシャツとヘッドバンド、物流・配送企業のヤマトホールディングス株式会社のドライバーにアームカバーを提供して実験が行われ、良好な結果が得られた。これらの結果は、同テクノロジーを大規模に展開し、日常生活に組み込む大きなポテンシャルがあることを示唆している。

 地球温暖化による気温上昇の懸念が高まる中、HydraVoltのテクノロジーは、熱中症対策の新たなソリューションを提供することで、東京のような都市のレジリエンス向上に貢献する可能性がある。現場で活動する医療従事者などの初動対応要員や、屋外イベントの運営スタッフを支援することで、公共の安全に変革をもたらす存在になるかもしれない。

 Eztiaは、別の形でもポジティブなインパクトを生み出している。イェ氏の誇りは、台湾にある同社の生産拠点が、女性、留学生、そして大学ではなく職業専門学校から社会に出た人々を積極的に雇用していることである。

 「重要なのは、これまで不遇だったかもしれないけれども、能力があって非常に勤勉に働く、さまざまなバックグラウンドを持った人々に機会を提供することです」と彼女は指摘する。「彼らに成長して輝けるチャンスを与えることが大切です」

グローバル展開の青写真

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東京ビッグサイトで行われたSusHi Tech Challenge 2026で、ファイナリストの一人としてステージに上がったイェ氏(一番左)Photo: courtesy of 東京都

 イェ氏にとって、初めてのSusHi Tech Tokyo 2026は非常に実りの多いものだった。「私たちは従来型のアウトバウンドマーケティングはせず、口コミを通じて協力者やクライアントとつながっています。そのため、ネットワークの拡大を後押ししてくれるSusHi Tech Tokyoのような場は非常に貴重です」と彼女は語る。

 イェ氏はSusHi Tech Challenge 2026のファイナリストに選出されただけでなく、「地域をイノベーション基盤に変える~実証フィールドから共創エコシステムへ~」と題したセッションにスピーカーとして参加した。彼女によれば、Eztiaはランド・アンド・エクスパンド戦略を取っており、まずは初期パートナーとともに製品の価値を実証し、パートナーから詳細なフィードバックを得ることで、協調的な方法でテクノロジーを改良している。

 「これをうまく機能させるとネットワーク効果が生まれます。他の人々が話を聞きつけて、ある種のバイラル効果が生まれ、地域の人々が参加するようになるからです。これは共創と地域での成果が好循環を生む仕組みだと考えています」とイェ氏は説明する。こうした取組は、ケーススタディや成功事例として、他の地域でも共有できる。

 イェ氏は、将来に向けたEztiaのアプローチを「2本柱」と説明する。つまり幅広い活用が見込める同テクノロジーの特徴を実証するためにパートナーシップを拡大しつつ、複数拠点で導入を拡大するために各組織とのコラボレーションを深めていくということだ。

 極端な高温への対応がグローバルな課題としてますます緊急性を帯びる中、Eztiaは、まさに絶好のタイミングで勢いを加速させているようだ。

ティファニー・イェ

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台湾出身のティファニー・イェ医学博士は、渡米してマサチューセッツ工科大学で材料科学・工学の学士号を取得。卒業後はノバルティスで勤務し、社内起業プログラムの開発に貢献した。その後、ペンシルベニア大学で医学を修める。冷却ポリマーとウェアラブルテクノロジーへの応用を独自に研究し、これが2022年のEztia Materials設立につながった。米国を拠点とするスタートアップである同社は、台湾に生産拠点を置き、現在は日本やシンガポールで事業を拡大している。イェ氏は権威ある「Forbes 30 Under 30」の2025年版でソーシャル・インパクト部門に選出された。

Eztia

https://www.eztiamaterials.com/
英語サイト

Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、持続可能な都市を最先端のテクノロジーで実現することを目指して、世界中からスタートアップや投資家、大企業、都市、大学などが東京に集まり、未来の都市を構想・実践するグローバルイノベーションカンファレンスです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/橘高ルイーズ・ジョージ
写真/穐吉洋子
翻訳/友納仁子