人生100年時代のもう一度の挑戦。シニア起業を支える女性経営者

 人生100年時代といわれる今、定年は必ずしも仕事人生の終わりではない。50代、60代からの「シニア起業」が、第二の人生の選択肢として注目されている。その挑戦を長年支えてきたのが、銀座セカンドライフ株式会社代表の片桐実央氏だ。東京を中心に「アントレサロン」を展開し、起業相談や交流の場を通じて、多くの人の新たな一歩に寄り添ってきた。片桐氏は、シニア起業の可能性をどう捉えているのか。
01_Ginza second.jpg
祖母の介護をきっかけに2008年に起業した片桐実央氏

祖母の介護から始まった「セカンドライフ」支援

 大学卒業後、花王の法務部に勤務し、その後、大和証券SMBCで上場準備企業の支援に携わった片桐氏。法務と会計という専門領域を広げながら、将来的な起業も視野に入れてキャリアを築いてきた。

 その背景には、自身を育ててくれた祖母の存在がある。片桐氏が大学生から社会人になる頃、祖母の認知症が進み始め、介護が必要になった。「もう少し外に出たり、人と関わったりする機会があれば、祖母のセカンドライフも違ったものになったのではないかと思うことがあります」と振り返る。祖母自身にはもうできなかったことを、これから年齢を重ねる人たちのために形にしたい。その思いから、片桐氏は2008年、銀座セカンドライフ株式会社を創業した。

 その後、同社は多くの人のセカンドライフを支える事業を展開し、現在では約2万社の会員を抱え、毎月約150件の起業相談に応じている。さらに2026年には、東京都主催の「東京女性未来フォーラム2026」において、社会課題の解決に貢献する女性経営者として「第6回東京女性経営者アワード(TOKYO Women CEO Award)」の継続成長部門を受賞した。

02_Ginza second.JPG
「第6回東京女性経営者アワード(TOKYO Women CEO Award)」継続成長部門を受賞し、小池百合子都知事から表彰を受けた片桐氏 Photo: courtesy of 銀座セカンドライフ株式会社

一人で始めても、孤立しないために

 銀座セカンドライフを創業した当初、片桐氏は起業相談や行政書士としての業務を一人で行っていた。その中で相談者から繰り返し寄せられたのが、「ほかにどんな人が起業しているのか」「どんな事業をしている人がいるのか」という声だった。

 そこで交流会を始めたが、月に一度会うだけでは十分な関係を築きにくい。こうした利用者の意見から生まれたのが、2010年に開設されたレンタルオフィス「アントレサロン」だ。現在は東京、神奈川、埼玉で展開しており、なかでも東京では銀座、日本橋、有楽町といった主なビジネス拠点に施設を構えている。

03_Ginza second.jpg
バーチャルオフィスやフリーデスクに加え、自分専用の鍵付き個室も備え、専用オフィスを構えたい起業家を支えている

 「アントレ」はアントレプレナー、つまり起業家を意味する。「サロン」という名前には、単なる仕事場ではなく、起業家同士が日常的に顔を合わせ、自然に交流できる場にしたいという思いが込められている。

 一人で始める起業だからこそ、孤立しない環境をつくる。アントレサロンは、仕事をする場所であると同時に、新しい人脈や協業が生まれる場でもある。

 また、長く勤めた会社では総務や経理が担っていた業務も、起業すればすべて自分で引き受けることになる。そうした負担を軽くするため、法人設立から会計処理、給与計算まで、事業を続ける上で必要な事務業務を担い、シニア起業家を支えている。

04_Ginza second.JPG
起業に欠かせない人脈づくりの場として、アントレサロンでは異業種交流会も開催している Photo: courtesy of 銀座セカンドライフ株式会社

「定年後」ではなく「自分で動き出す」

 2008年の創業当時、片桐氏の元を訪れるシニア起業希望者の多くは60代前半だった。定年後に「自分の居場所がない」と感じ、かつての人脈から仕事を頼まれたことをきっかけに起業する。そんなケースが多かったという。

 現在は相談者の年齢層が若くなり、50代半ばから次の仕事を考える人も増えている。

 「一度仕事から離れてしまうと、人脈がリセットされてしまいます。退職したらすぐ起業する、あるいは自分でタイミングを決めて次の仕事を始めることが理想だと思います」。シニア起業は、定年後に始めるものから、自分自身で人生の次の段階を選ぶための選択肢へと変化していると片桐氏は説明した。

売り上げだけではない、シニア起業の「成功」

 シニア世代にとって、起業の成功にはさまざまな形がある。アントレサロンには、開設当初から同じ個室を利用し続けている人がいるという。その人は毎朝10時頃に出勤し、夕方には帰宅する。通勤ラッシュを避け、家族との食事や犬の散歩の時間を大切にしながら、自分のペースで仕事を続けている。
 
 「この世代の方にとっては、お金をすごく稼げることだけが成功ではありません。自分のペースで仕事ができて、やりがいを感じられることも大きいと思います」

 資格や趣味、地域活動、子育てなど、自分が歩んできた人生そのものを、もう一度、仕事の可能性として見つめ直す。そこにこそ、シニア起業の新たな形があるのかもしれない。

05_Ginza second.jpg
長年にわたり多くの起業家と向き合ってきた片桐氏。大切にしているのは、一人ひとりが自分に合った起業の形を見つけていくことだ

東京から、高齢社会の新しいモデルを

 第二のキャリアを始める場所として、片桐氏が可能性を感じているのが東京だ。「企業や人材が集まっているだけでなく、国や東京都、区市町村による起業や中小企業の支援制度があります」。補助金や専門家派遣、販路開拓などの制度を活用できるのに加え、一人で始めるサービス業なら、大きな店舗や設備がなくても仕事を始めやすい。企業や専門家が集まる東京には、新しい人脈をつくり、顧客や仕事を獲得する機会も多いという。

 世界に先駆けて高齢化が進む日本にとって、働き続けるための選択肢をどう増やしていくかは、これからますます重要になる。多様な世代や企業、人材が集まる東京から生まれる新しい働き方は、同じ課題に向き合う世界の都市にとっても、一つのモデルになるかもしれない。

身の丈に合った、もう一度の挑戦

 片桐氏は、これから第二の人生を考える人たちに三つのヒントを挙げる。一つ目は、自分に合った形から始めること。身の丈に合った、自分のやりたいことを見つけて第一歩を踏み出すことが大切だという。二つ目は、やりたいことが見つからなければ、やりたくないことから考えること。「もうこの仕事はしたくない」「人と会話する仕事はしたくない」「デスクワークばかりは嫌だ」など、まずはやりたくないことを挙げ、その逆にある可能性を探っていく。そして三つ目が、身近な困りごとから始めること。大きく稼げなくても、まずは身の回りの人のために動き、うまくいけば少しずつ広げていけばよいという。

 ただし、片桐氏が支えてきたのは、起業という一つの答えを与えることではない。「起業するかどうかをご相談して、やっぱり起業ではないと思うなら、それでもいいんです」

 人生100年時代の「もう一度の挑戦」で大切なのは、年齢を重ねた後も、自分に合った形で社会とつながり続けられることだ。一人ひとりが、自分らしい選択肢に希望を見いだせるように、片桐氏は今日も東京・銀座からその一歩を支えている。

片桐実央

bio_Ginza second.jpg
銀座セカンドライフ株式会社代表取締役。学習院大学法学部卒業後、花王、大和証券SMBCを経て、2008年に同社を設立。首都圏でレンタルオフィス「アントレサロン」24施設を運営(2026年9月時点)。幅広い世代の起業を支援し、相談やセミナー、交流会を通じて事業の成長を後押しする。行政書士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。起業に関する著書多数。2026年「第6回東京女性経営者アワード(TOKYO Women CEO Award)」継続成長部門受賞。

銀座セカンドライフ株式会社

https://entre-salon.com/

取材・文/星たまき
写真/藤島亮